閑話 グレン・リーブスの独り言
オレの名は、グレン・リーブス。狼人族の元族長だ。息子に族長を押し付けて、リハビリがてら、この森に来たんだが相変わらずキツイねぇ。本気で鍛えなおしたほうがいいかもしれねぇな……
やっと、着いたか。朝日が昇るなか森にある建物の扉を開けると、知らない顔もいる。
「お久しぶりです、ベルさん。グレンです」
「やぁ、グレンか。久しぶりだね。こっちに来て座るといい。ケイ、冷たいビールを用意してやってくれないか」
黒髪の男の子が頷くとカウンターの奥に消えていった。
「失礼します」
「堅苦しいのはいいよ。ところで、グレン。なぜ君は転移ゲートを使わないのだ。族長は暇なのかい?」
「族長は息子のカイに譲りました。そのことでベルさんにお礼もあって、リハビリがてら森を抜けてきたんですよ……あぁ、すまんな。……おっ!ビールは冷やすと旨いですね」
男の子がジョッキを手渡してくれたが、ホントにうめぇぞ、コレ。
「そうだろう、ケイの魔法だ。あと、ケイは料理スキルも持っている。何か食べるか?」
「いいんですか?ところで、このお二人はどちら様で?」
「挨拶がまだだったね。この子はケイ。私の契約奴隷だ」
「ケイです。よろしくお願いします」
「あぁ、グレンだ。よろしく頼む」
礼儀正しい良さそうな子だ。さすがは、ベルさんの奴隷だな。あとはこっちか。さっきから冷や汗が止まらないんだが……
「あと、こっちがクロエ。黒龍だ」
「黒龍!……なるほど、半端ないですね」
「クロエじゃ。グレンとやら、其方、強いであろう。あとで頼みがあるが、かまぬか?」
「グレンです。なんなりと申しつけください」
「妾も堅いのは苦手じゃ、楽にするがよい」
「ありがとうございます」
何をさせる気だ。勝てるか?いや、今のオレでは無理だな。
「ケイ、グレンの食事を頼む」
「わかりました。おかわりをどうぞ」
「すまんな」
ホント、気が利くねぇ。ビールのおかわりまで入れていってくれたよ。
「ところで、グレン。カイがどうかしたのか?」
「あっ、そうでした。アイツ、勇者の弟や聖女の妹なんかと旅をしてたからか、帰ってきたら、小難しいこと言いやがるんですよ。まぁ族長として必要なのは、オレにもわかるんですが。それに、アイツも孤高と呼ばれる銀狼なのに、戦闘中、仲間の動きを良く見てるんですよ。なぜかと聞いたら、ベルさんに助言をもらったっていうじゃないですか。個人の戦闘能力はまだまだですが、族長としては、オレよりも向いてるんで譲りました。そのお礼です」
「息子に助言したことを言っているのか?それとも、早く引退できて喜んでいるか?」
「両方です」
「まぁいいのだが。私はカイには何もしていない。カイが勝手に成長しただけだ」
「それでもです。カイがベルさんに感謝してるんですから、親のオレも感謝するのが当然です」
「まぁ、食事ができたみたいだし、あとは、食べてからでいい」
「ありがとうございます。……これっ旨いですね。あと、この白いのともあうし。なんですか、この白いの?」
「ご飯だ。南のほうに、稲作の米があるだろう?あれだ」
「えっ!でもあれは、もっとパサパサして、黄色いですよ」
「ケイは、前世の記憶持ちでな。これを食べたかったらしい。米の表面を削って、変わった煮かたをすると、そうなるらしいよ」
「なるほど、よくわかりませんが、旨いですね。……あと、前世の記憶持ちですか?」
「そうだ、珍しいだろ。異世界らしいよ」
「いえ、噂ですが、今、何人かいるらしいんですよ。それも、勇者の息子が前世の記憶持ちらしいです。勇者の息子はカイも会っているから、間違いないでしょう」
「そうなのかい。少し心あたりがあるが、わからないことが多すぎる。このことは、ここまでにしておこう」
「そうですね。せっかく引退できたのに、関わりたくないですからね。……ケイ、ありがとう。旨かったよ」
料理スキルか、ホントに旨い。連れて帰りたいぐらいだな。
「そろそろ、よいか、グレン」
「お待たせして、すみません」
「いや、構わん。頼みなんじゃが、そこのケイと試合ってもらいたい。ただ、其方は槍術ではなく、剣術で頼みたいんだが、よいか?」
ナニ言い出すのかと思ったら、そんなことか。ケイのほうがビビッてるじゃねぇか、大丈夫か。
「オレは、構いませんが。ケイは大丈夫なんですか?」
「あぁ、構わん。死なんかったらいい。腕の1本ぐらいは、ベルが繋げるであろう」
おいおい、ケイが青くなってるぞ。
「よし、ケイ。いくぞっ!」
ほう、ローブを着て、無手……距離は15mほどか。魔法使い?……まずは見るか。
“ファイヤーボール”か……ん、面白い、魔法撃った瞬間、突っ込んできやがった。
まぁ、かわしt……オリジナルかっ!追尾効果に、もう来てるし、しゃあねぇ、魔法を切るか、ちっ煙幕かよ。まぁだいたいわかるし、どうだっ……ヤバイ、さっきので間合いを読まれたか。……ちと、下がるか……まぁ、ついてくるよな。それに小太刀の二刀流?間合い読まれて、刀は不味いだろ……オレ。
くそっ、全体的に動きは遅いのに、完全に誘ってやがる。オレの間合いを出たり入ったりしやがって。しゃーねぇな、試すか……“スラッシュ”……やっぱ完全に読まれてるな。剣技にカウンターで顔面に蹴りかよ。避けても、もう下に居やがるし。なんで、そんな姿勢でスムーズに動けるんだ。膝かっ、膝裏にも魔法っ。ヤバッ、思わず、上に跳んじまった。何が来る、なにっ!……やっべぇ、本気で死ぬかと思った。
「そこまでっ!……グレンお疲れじゃったな」
「ちょっと、待て!最後のなんなんだ。本気で死にかけたぞ」
「ケイの”曳き斬り“じゃ、よく避けられたのう」
「いやいや、ちょっと遅れたら、死んでたからな」
「グレンさん、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。いい勉強になった。ケイ、まだ隠してるだろ。また、やろうぜ」
「こちらこそ、お願いします」
「グレン、もし暇ならしばらく、ケイの面倒をみてはくれないか?」
「ベルさん、いいのか?オレは構わんが……」
さすがは、ベルさんと黒龍の秘蔵っ子か。たしかに舐めてはいたが、面白い。動きは遅いし、たぶん力も弱いだろう。でも、戦術の組み立てとオリジナル魔法に、最後の”曳き斬り”か、あれは無拍子なんてもんじゃねぇな。それ以上だ。それに、まだ隠してそうだし、面白くなりそうだ。……あと、メシも旨いしな。
これが、ケイとの出会いだった。




