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閑話 ベル・ラインハルトの憂鬱

 私はベル・ラインハルト、歳は……まぁいいだろう。“黒龍の森”の領主兼冒険者ギルドのギルドマスターをしている。少しこの2年を振り返ってみたい。


 あれは2年前の4月頃だろうか。春の日差しの中、ギルドの休憩所で日課の恋愛小説を読んでいると、サタンが現れた。


「ベル、いるのか? 我輩だ!」


 サタンはいつも突然来るが、このときは少し様子が変だった。焦っていたのだろうか?


「ベル、聞いてくれ。神のお告げがあったのだ。“闇の加護を持った人間が生まれたので保護して欲しい”とな。すぐにデス諸島は探したが見つからぬので、お前の父に相談したらアイリスの街近辺に、闇魔法の魔力を感じるらしいのだ。我輩が、アーク大陸を動きまわると問題になるのでな。ベル、お前が行って連れてきて欲しいのだ。あと、ここで鍛えてやってくれぬか。人間族らしいからな、我輩やお前の父よりもベルが適任であろう」


「迎えに行くのもいいし、鍛えるのも構わないが、赤子なのだろう? 私は子育てをした経験がないが、大丈夫なのか?」


「誰だって、最初は経験がないのだ。いい経験になると思って引き受けてくれぬか」


「まぁ父は母のこともあるし、君は忙しいからな。引き受けるよ。では早速行ってくるよ」


「我輩は、もう帰らねばならぬが、よろしく頼む」


 そう言って、サタンは消えた。私はギルドのゲートを使って、アイリスの冒険者ギルドまで転移した。



 転移後、しばらく街を歩いていると、ひとつの奴隷商会から闇魔法の魔力を感じた。こんな小さい魔力を離れた場所からどうやって感じるのだろうか。相変わらず、私の父は規格外だ。


 奴隷商会の中に入り、新生児の部屋に通されるとその子がいた。よかった、奴隷のようだ。奴隷以外の子だと、どうやって引き取るか悩んでいたのだが。


 その子は、黒髪黒眼で兎人族の女性の乳を吸っているようだが、なにか変だった。


『おい、そこの君、私はベル・ラインハルト。理解できるか?』


 念話で話しかけると、その子が少し反応したので


『君の目に知性を感じたので、直接脳に語りかけたのだ。君は前世の記憶を持っているね。心で話してくれればいい』


 カマを掛けて、話しかけると本当に前世の記憶持ちだった。正直なところ知性などではなく、欲望のようなものを感じ不安になったのだが……私には恋愛経験がないが、男性が女性の胸に興味を持つことは小説の知識としては知っていた。この世界では、あまり他種族間で恋愛に発展することはない。私の父母のように例外はあるのだが。たまにあるという陵辱目的なのだろうか? 不安しか残らなかった。


 けれど、少し話をするだけで、理性的で理解力もあり素直な性格であることがわかり、すぐにその不安は和らいだ。それどころか慌てていたのもあるが、出もしない自分の乳を押し付けて吸わせてしまった。


 さらにケイという名のこの子には、料理の才能があった。私には闇魔法の吸収があるので料理はもちろんのこと味にも興味がなかったが、意中の男性の気を惹きたければ、手料理がいいと恋愛小説にもあったが、女である私のほうが胃袋をつかまれてしまった。


 しかし、ケイには、戦闘の才能がなかった。前世でも武術の経験がなく、本人も気にしているようには見えないが、頑張っている姿を見るとどんどん惹かれていく自分に気付くことができた。これが、母性なのか、恋愛なのか、このときはまだわからなかったが……


 おそらく恋愛であろうことに気付いたのは、クロエがギルドにやって来たときだ。ケイがクロエと楽しそうに話をしていると、なぜか胸の奥がムカムカしてきた。このときは気付いていなかったが、これが恋愛小説に載っていた嫉妬だったのだろう。

 クロエは、さらに追い討ちをかけるように、酔って一緒に寝ると言い出した。以前も一緒に寝ていたので断れなかった。仕方なく、クロエに裸にされたケイを抱きしめて寝ることにした。抱きしめているとすごく安心できたことを昨日のことのように覚えている。

 そして、決定的になったのが、朝になり、3人とも起きてからだ。クロエがケイに言い寄り、クロエがケイのあれを掴もうとした瞬間、何かが切れた。そのあと、ケイがすぐに居なくなり、クロエを二人きりになった。そのとき、クロエが、


「ケイのこと、好きなんでしょ」


 普通の口調で話しかけてきた。たぶん疑問ではなく、断定だったように思う。


「わからない」


「応援するよ」


 否定も肯定もしていない私を、クロエは応援すると言ってくれた。なぜか嬉しかったし、安心もした。


 このとき、はっきりと恋だとわかった。


 私の“初恋”だ。



 だからといって、この後も、そして、今までも、何も変えることはできていない。これからも、今までどおり、見守るだけで、それだけでいいと思っている。いつか、ケイも私を見てくれるかもしれない……


 

 だって、私たちは死なないのだから……


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