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第12話

 翌朝、起きるとベルさんが俺に抱きついていた。珍しい、というか初めてだ。


「起きたね。体は大丈夫かい、昨日クロエにだいぶ飲まされていたからね」


「はい、大丈夫そうです」


 普段、俺は一応ローブを着て寝ているのだが、今は全裸だ。ベッドの隣では、クロエさんが全裸で寝ている……何が起こったんだ?……ナニが起きたのか?


「昨日、クロエが一緒に寝ると言って、グズり出してね。前も一緒に寝ていたから断れなくて、悪かったね。狭かったかい?」


「いえ、大丈夫です」


「うっうぅーん、ここはどこ? あれ、ベル? それにケイ?……昨日は?」


 クロエさん、寝起きは弱いんだね。口調が素に戻ってるし。


「あっ思い出した!……いやっ、思い出したのじゃ。昨日はすまなかった、ケイ。調子にのって、飲みすぎてしもうたわ」


「あっいえ、それは構わないのですが……クロエさん、裸ですよ」


「よいではないか。ケイも裸ではないか……おぉ、もしかして催したのか? 使ってもよいぞ。妾は初物じゃぞ」


 クロエさんは、小振りの胸を張った。


「いえ、これは朝の現象で……」


「なんじゃ、よいでw」


 “パシっ”


 クロエさんが俺のを握ろうとしたところで、ベルさんのツッコミが頭に入った。


「痛いではないか、ベル。それなら、ベルもいっs……もう言わんから、赦してくれ」


 ベルさんからものすごい殺気が出てきた。背中の汗が止まらないんだけど……


「あっ、ちょうどいいんで、クロエさんの着流しも洗濯しますね」


 俺はそう言って、自分のローブも一緒に洗濯し始めた。


「ケイ、魔法なのか?」


「これで、乾燥までできるんですよ。水を棄ててきますので、少々お待ちください」


 俺は寝室から逃げ出すことに成功した。



 起床後に多少のトラブルはあったものの、朝食後、無事に刀術の鍛錬が始まった。洗濯中、2人で何か話しあっていたようだが、関わらないようにしておいた。


「ケイ、始めるぞ。ケイはこの小太刀を使うがいい。安物じゃ使い潰して構わぬ。まずは、振ってみよ」


 俺は左足を前に、左手を下にして、中段にかm……


「ケイ! 足が逆じゃ! 刀術は右足が前じゃ、左利きでも右足が前、握りは左手が下じゃ。基本は、相手の左肩から心臓を通り、肝臓を斬り抜けるんじゃ。逆では、人は殺せぬ!」


 そういえば、前世の高校で習った剣道でも、左利きの人も同じ構えだと習った気がする。先生が理由はルールだからとか言っていたが、そういう意味があったのか。構え方は忘れていたけどね。あと、一言 言っておきたい。俺は人殺しに慣れたわけではない。


 ベルさんに言われたとおり、構え、人を斬るイメージで小太刀を振ってみた。


「なんじゃ、その振りは! もっと大きな円をイメージするのじゃ。もう1度じゃ」


 ちゃんと、人を斬るための大きな円をイメージしてたんだけどね……もう一度、振ってみた。


「違う! 何も変わっとらん!」


「あっ、クロエちょっといいかい」


「ベルか、いいぞ」


「ケイ、君の斬り方だけどね。まず、直線運動で始まるのだよ。そして、中程まできたとき、肘から先で綺麗な円運動になった後、また、直線運動に戻っているのだよ」


「そうなのじゃ、なぜそんな器用な振り方ができるのじゃ」


「ケイ、なにか心当たりはあるかい?」


「たぶん、包丁を肘から先でしか使ったことがないからだと思います」


 いやだって、厨房の中で体全体を使って、包丁を振るっていたら完全に危ない人だよね?


「なるほどね。ケイ、一度、右片手で小太刀を持って、肘から先だけで振ってみてくれるかい」


「はい、わかりました」


 俺は、右腕を水平に伸ばし、肘を90度に曲げ、そのまま手首も使い振り下ろした。


「それじゃ! その動きが円運動じゃ。その動きを、肩、腰、膝、足先まで使ってやれば、もっと大きな円になるのじゃ。もう一度やってみよ」


 正直、ぜんぜんわからん。……でも、やってみた。


「うーむ、少しはマシになってはおるが、肘から先であれ程できるだけに、もの足りぬのう。1度、妾がやってみせるので、見ておるのじゃ」


 クロエさんが、ゆっくりとした動作で、踏み込み、振り上げ、振り下ろした。……美しい。……綺麗で自然過ぎて、よくわからん。


「もう一度、お願いします」


「うむ」


 まったくどこにも澱みのない半円だ。……うーん、わからん。


「あのう1度、肘から先の動きを忘れて、一から体の部位全ての動きを教えてもらえませんか?」


「そうじゃな、勿体ないがそれがいいであろう。まずは、足、膝、腰の下半身を使った足運びからじゃ」


 こうして、俺の刀術の訓練が一から始まった。



 その日の夕食で二人がなにやら、話していた。


「ベル、妾に1ついい案があるのじゃ」


「私もだよ、たぶん同じだろう」


「どちらにしても、基本の型を覚えぬことには話にならん。ベルは、安物でよいから小太刀を100本ほど、用意してくれ」


「あぁ、わかっているよ。明日からできるだけ用意しよう」


「ケイは、型の練習じゃ。まずは形だけでいい、基本はすべて覚えてもらうぞ、よいな!」


「わかりました」


 こうしてよくわからない、この日の話し合いが終わった。……型からがんばろう。




 それから3ヶ月経ち、完全に暑くなりきった夏の日。


「そろそろ、かのう。よし、ケイ。ついてくるのじゃ」


 クロエさんについていくと、半年ほど前に俺が木槌で打ち込んだ杭のところまで来た。直径約20cmの杭が1m以上刺さっているはずなのに、クロエさんは簡単に引き抜いた。


「少し短いが、まぁ練習じゃ、これでよかろう」


 そういうと新しい地面に突き刺した。


「これは、深く刺しておらんからバランスが悪いが……斬れ!」


「えっと、硬くないですか? 前世でみたことありますけど、竹の芯にワラを巻いたものでしたよ」


「まぁ、すぐにできるとは思っておらん。できるようになれ!」


 高さ1.4mぐらいの杭に向かって、覚えた型で斬りつけた。


「なかなか、よいぞ。これなら同じところをあと3回も斬れば、落とせるかもしれん。まぁ軽くその杭を押してみるといい」


 あっ! 軽く押すと簡単に倒れた。


「どうじゃわかったか? ちゃんと型どおり振れておるから、倒れずに斬れたのじゃ。試しに、右腕の肘から先だけで斬ってみるといい」


 クロエさんはそう言うと、倒れた杭を突き刺した。


 あまり深く考えず、右手だけで小太刀を持って、肘から先だけで振ると杭が簡単に斬れ落ちた。


「ケイ、其方のその斬り方はなかなかのものじゃ。才能と言ってもよいであろう。基本の型でその域までいくことは無理かもしれん。でも、その斬り方を生かすためにも、基本の型でこの杭ぐらいは斬り落とせるようにはなってもらうぞ。わかったな、続けるぞ」


 いや、びっくりしたよ。才能があれば、簡単に斬れるものなんだね。もしかしたら、料理スキルが効いているのかもしれないね。あと、前世で努力したことがスキルになるって、エリスさん言ってたけど、スキルにならなくても才能になるかもしれないね。



 基本の型での杭の試し斬りが続いていたが、暑い。ローブは快適過ぎるので、クロエさんにも慣れてきたし、全裸でなろうとしたら、ベルさんに止められた。そして、服を与えられた。ベルさんとお揃いのラフな上下だ。……裸婦じゃないよ。


 そんな暑い日の休憩中に魔法の風で涼んでいたら、あることを閃いた。


 魔法の訓練で初期のころから考えていたことで、魔法袋に筒を付けて吸い込めば、掃除機になるのではと思い試したことがあるんだけど、失敗だった。厨房に魔道具の換気扇があるんだし簡単にできると思っていたんだけど、筒の中から袋へ風を送り込むだけで吸わなかった。自分の魔力を使って風を具現化しているんだから当たり前なんだけどね。もし、攻撃魔法で相手に風をぶつけるたびに自分も吸い込まれていたら、危険だよね。


 それで今閃いたのが、扇風機だ。扇風機の羽を空気で作り出して回せば、吸い込んでくれるはずだ。あとは練習あるのみ、扇風機の羽を節の抜いた竹筒の中に作る練習をしてたら、クロエさんの可哀想な子を見るような視線を感じた。……竹の筒を覗き込んでぶつぶつ言ってるんだから仕方ないかな。俺もそんな子を見かけたら、同じ視線をおくるだろう。


 この“掃除機魔法”は、扇風機の羽をイメージできたので、完成まで早かった。結局、サタン様にもらった魔法袋はゴミ袋になったが……


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