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第4話

 “迷わせの草原の村”で、エルバートさんからの依頼を済ませた俺達は、精霊の森のドワーフ族の村まで来ていた。以前訪れた時からまだ半年ほどしか経っていないせいか、俺達に気付いて声をかけてくれる人もちらほらいる……


「ねぇ、ケイ君。ギルドに報告はいいの?」


 各種ギルドや商店などが並ぶ繁華街を抜け、標高の高い位置にあるリムルの家に向かっていると、シフォンさんが尋ねてきた。


「それなんですが、シフォンさん達と出会う前に、監視されている立場の俺達は必要以上に冒険者ギルドに立ち寄らないほうがいいと、エルバートさんに教えてもらったんです。エルバートさんは、今回の依頼の結果を早く知りたいと思っているかもしれませんが……すみません、報酬ですよね。ちょっと待ってもらえますか。カステリーニ教国のロワール・サント・マリーではいろいろありましたので、ギルドへはそこを越えてから報告しようかと思っていたんです」


「そうね。そう考えるとそっちのほうがいいわね。あと、前にも言ったけど、報酬なんてどうでもいいわよ。欲しいものがあればおねだりするし、今の私達があるのはケイ君のおかげなんだからね」


 ホント、ちゃんとおねだりしてくれたら気が楽なのに、いつもとってつけたような安い生活必需品ぐらいしかおねだりしてくれないんだよね……


「そう考えるということは、違う考えもあるんですか?」


「これは私の予想だけど、今回の依頼、ケイ君とマリアの査定評価、相当高いわよ。アナタ達、Aランクになりたいのでしょう。早く評価を上げとくほうがいいかと思っただけよ」


 早くか……マリアさんはどうなんだろう……俺は周りの都合で考えると早くなったほうがいいんだろうけど……


「そうなんですか。書状を届けただけだと思うのですが、違うのですか?」


「何言ってるのよ。あんな化け物に届け物なんて、Sランクになったエルバートでもできないからケイ君達に頼んだんじゃない。少なくともあんな依頼、私には無理よ」


 そうか、安易に受けたけど、結構大変な依頼だったんだね。


「そうだったんですね。でも俺とマリアさんは、Aランクの肩書きというよりもAランクの実力が欲しいので、今は身の安全を優先しようかと思います」


「そうね。“黒龍の森”に行けば、嫌でも実力は付くはすよ。焦る必要はないわね」


 なんか“黒龍の森”へ行くことをシフォンさんが一番楽しみにしているような気がするんだけど……



「ケーイーさーん!」


 坂の上から懐かしいリムルさんの声が響いてきた。走るリムルさんの勢いが下り坂で加速され凄いことになっている。……大丈夫なのか、俺?


「うっ!」


 腰を落とし何とか踏みとどまることができたけど、もしこれがアゼルさんなら、タダじゃ済まなかったかもしれないね。


「クンクンクンクン――――」


 リムルさんが俺に抱き付いたまま、匂いを嗅ぎ続けいる。


「すみません、臭いますか?」


 毎日、汗は流してもらってるけど、もしかして俺は臭いのか!?


「違う、ケイさんの匂い。……おかえり、ケイさん。みんなもおかえり。……あっ! 2人は始めまして!――――」


 俺の匂いを嗅ぐことに満足したのか、リムルさんはみんなと挨拶を始めたが……なんでだろう。シフォンさんとミレーゼさんのことを知っている雰囲気なんだけど……それに、俺達が今日来ることをなんで知っていたのだろう……



 俺の疑問に気付いたのか、家に向かう道すがらリムルさんが教えてくれた。


「ケイさん、冷たい。マリアが手紙をくれた。あと、スージーがさっき教えてくれた」


 マリアさん、いつのまにか手紙を出してくれていたんだね。あと、スージーって、エルフ族姉妹のスージーさん?


「マリアさん、すみません。こちらの現状を伝えず、突然伺うのは相手方に失礼でしたね」


「いえ、ケイさんはそんなこと気にする必要ありません。それをするのは私達の仕事です」


 こういう細かい気配りができる女性って、いいよね。


「ありがとうございます。もしかして、キアラさんとアリサさんとベルさんにも手紙を出してくれていたのですか?」


「いえ、アリサには帰ることを伝えることができたのですが、ベルさんには近況だけしか伝えることができませんでした。アイリスの街でエルバートさんに頼んだのですが、あの頃はまだ“黒龍の森”へ行くと決まっていなかったもので……」


「いえ、十分です、ありがとうございます。あと、キアラさんには、やっぱり無理ですか?」


「はい。キアラ、ケイさん、エルバートさんの3人の立場を考えると無理をして手紙を届けないほうがいいという結論に達しました。このことに関して、エルバートさんは大変恐縮されていたのですが……」


 そうだよね。俺は各国の監視対象だし、キアラさんは聖女で教皇様の付き人だし、アルバートさんは、Sランクになったばかりの冒険者ギルドの事務長だもんね。手紙を人づてに渡すと必ず検閲が入るだろうし、変な行動を起こすといろいろ詮索する人が出てくるよね。


「こちらこそ、気を使ってもらってありがとうございました。こういうことは早いほうがいいのですが、エルバートさんには、ギルドへ依頼達成の報告をするときにお礼状を出すことにします。ベルさんもその時でいいでしょう。あとは、キアラさんですね……」


 ちゃんと逢うことができるのだろうか……しっかり考えないとまたトラブルを起こしてしまいそうだ……



 リムルさんの家に着くと、門のところで馬の手綱を握ったスージーさんが待っていてくれた。


「や、やあ、ケイ。き、奇遇だね、こんなところで逢うなんて……いや、私はリムルに頼まれていたものを届けに来ただけで、エレオノーラ様から文を貰ったからといって、けっして急いできたわけではないのだが……」


 あぁなるほど、エレオノーラさんが嗾けたんだ……


「そうですね。でも良かったです。エルフ族の村にお伺いすると約束していたのに、近くまで来てご挨拶もできないと、心苦しく思っていたんです」


「心遣い感謝する。いや、私はいつ来てもらってもいいのだが、まだケイ達を村で受け入れられる体制にはなっていないのだ。すまない。でも必ず快く過ごしてもらえるような体制を作ってみせる。もうしばらく待って欲しい。……では、私はこれで」


 スージーさんはそう言うと馬を引いて歩きだそうとした。


「えっ! もう帰るのですか?」


 俺が慌てて声をかけると


「すまない。私もゆっくりしたいのは山々なのだが、クリスを残してきたから心配なのだ。……ではな、また逢おう」


 スージーさんは悲しそうな表情を浮かべそう言うと行ってしまった。


「仕方ないの。ここもそうだけど、スージーの村も他種族との交流を良く思わない人が多いの。それに、私が頼んだ物も良くなかったかもしれない」


 みんなでスージーさんを見送っていると、リムルさんが教えてくれた。ああ、そうだったね。スージーさんは現族長の血筋だし、いろいろ大変なのだろう。みんなも何も言わないことを思えば、この世界では種族間の問題って、他人が口を出していいものではないのだろう。


「で、リムルさんは、スージーさんに何を頼んでいたのですか?」


「それは後。みんな来て!」


 リムルさんは気になっていることには答えてくれず門を抜け歩き始めた。



 リムルさんについて家の裏にまで行くと、そこには、窓の隙間から湯気が出た小屋が建てられていた。


「リムルさん、これって!?」


 俺が思わず声を上げると、


「お風呂!」


 ミレーゼさんも声を上げた。


この世界には、湯船に浸かる習慣がない。いや、俺が知らないだけで地域によってはあるかも知れないけど聞いたことがない。“黒龍の森”にいる時、作ろうと思ったことはあるんだけど、ベルさんやクロエさんと一緒に入って我慢できなくなるとマズいので、サタン様からもらったタライで我慢していたんだよね……


「そう、お風呂。学園都市のケイさんの家にいるときは、技術もなかったし、勝手に作れなかったけど、今なら問題ない。……さぁみんな、疲れを癒して!」


「わーい!」


 不思議そうにしているマリアさん、アゼルさん、シフォンさんの3人を残して、リムルさんはテンションの上がったミレーゼさんを連れて小屋に入っていった。


「ケイ君、オフロって何?」


 残された3人を代表してシフォンさんが聞いてきたが、


「入れば、わかると思います」


 見てもらうほうが早いだろう。3人を連れて小屋に中に入ると、脱衣所になっていた。先に入った2人はすでに服を脱ぎ終え、奥の扉を開け、浴室に入るところだった。いいね、  尻尾。服を脱いで2人を追って浴室に入ると、洗い場もあり、浴槽も10人ぐらいが1度に入れそうな大きなものだった。浴室の奥には更に扉があった。サウナかな? リムルさんもさすがはドワーフ族と言ったところなんだろうか、拘りを感じるね。


 みんなで汗を流してから、ゆっくりと湯船に浸かり、互いの近況を報告しあった。途中からリムルさんがミルクとクッキーのミスリルの首輪をしきりに気にしていたんだけど、何かあったのだろうか……あと、スージーさんの届け物についてはまだ秘密と言って教えてくれなかった。



 お風呂から上がって、母屋に向かうと、お義父さんとお義母さんが料理を用意して待ってくれていた。……しまった! お風呂の誘惑に負け、すっかり忘れていた。


「すみません、挨拶が遅れました!」


 俺がそう言って慌てて頭を下げると、みんなも慌ててそれぞれに謝罪しながら頭をさげている。


「どうだ! 風呂はいいだろう! 最初は俺も半信半疑でリムルが作るのを見ていたんだが、1回、アレに入るとやみつきになるな。だから気にするな。それに前にも言ったが、ここはお前達の家だ。遠慮することはない」


 お義父さんもお風呂を気に入っているのだろう。嬉しそうにしながらそう言ってくれた。


「そうですよ。さぁ食事にしましょう。みんな席に着いて」


 お母さんもニコニコとしながらそう勧めてくれている。やっぱりどこまでいっても、婚約者の実家で自分の家とは違うけど、こうやって暖かく迎えてくれるところがあるのはいいね。


 お酒も入り、みんなでリラックスして食事を摂りながら談笑していると、リムルさんがお義父さんにミルクとクッキーを見せながら、何やら話し始めた。


「お父さん、コレ、見て」


「……ん! 間違いない!……ケイ! この首輪、どこで手に入れたんだ!?」


 首輪を見たお義父さんが驚き、少しで焦った様子で俺に尋ねてきた。


「アイリスの街の鍛冶屋さんに作ってもらったのですが、何かありましたか?」


「そうか、父さん、アイリスに居たのか……ありがとう……」


 お義父さんはそう言うと俯いて黙りこんでしまった。……“父さん”って、あの鍛冶屋のおっちゃん、リムルさんの“お爺さん”!?


「ごめんなさいね。湿っぽくなっちゃって。……ケイさん。ゲルグさんと村長のモルドバさんの話は覚えてる?」


 お義母さんが、お義父さんに変わって説明してくれるようだ。


「はい。次期村長を決める時にゲルグさんが身を引いて、モルドバさんに譲ったような形になったんですよね」


「そうなの。それで、ゲルグさんがこの村から出て行ったんだけど、その後すぐにモルドバさんが村長になったわけじゃないのよ。まぁ少数なんだけど、ゲルグさんの息子がいいんじゃないかと言い出す人が現れてね。私から見れば“お義父さん”ね。リムルから見れば“お爺ちゃん”なんだけど、そのお義父さんもこの村から出ていっちゃったのよ。ゲルグさんは元々有名な人だったから、この村に帰って来なくても、噂は絶えずこの村まで聞こえてきていたの。だから消息はわかっていたのよ。でも、お義父さんはずっと音信不通で消息不明だったのよ。リムルなんて会ったことすらない人なのよ」


 村長一族ともなれば、いろいろな利権もあるだろうし、ゲルグさんの一族が村長でないと困る人もいたのだろう。


「そうだったんですね。でも、その首輪を見ただけで誰が作ったのかわかるんですね」


「そりゃ私達はこれが仕事なんだから、身内の作ったものぐらいわかるわよ。リムルもお義父さんが残していった作品を小さい頃から見てたから、気付いたんだと思うわ。本当、ケイさんには感謝してもしきれないわね」


「おお、そうだ! やっぱり、ケイはいい息子だ! 今日は目出度い! 飲むぞっ! はっはっはっはっはっ!」


 お義父さんが急に復活して元気になった。……良かった。しんみりと呑むのも悪くないけど、お酒は楽しく呑むほうがいいよね。


 その後は楽しく呑みつつも、この村での滞在予定が決まった。

 まず、アゼルさんの大太刀は出来上がっているけど、アゼルさんに合わせて微調整をするらしい。これは、俺の“黒龍牙”と“黒龍爪”もたまにゲルグさんが調整してくれるので、必要なことだろう。

次に、リムルさんがスージーさんから受け取ったもので、俺達のために何かを用意するのでしばらく待って欲しいと頼まれた。内容は教えてくれなかった。

あと、俺がこの村に寄ったら、村長のモルドバさんのところに寄るように頼まれていたようだ。悪い話ではないようだけど、気難しそうな人だから、緊張するんだよね……


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