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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第25話

 東の山で“山の主”討伐の事後処理を終えたギルドマスター達がアイリスの街に戻ってきて、3日が過ぎた。いつものようにギルドが用意してくれた修練場で過ごしていると、お昼過ぎにギルドの職員が俺達を呼びに来た。


「お待たせしてごめんね。シフォン達との契約、私がSランクになる前に作った契約書だったから手間取ってしまってね。さぁ始めようか!」


 ギルドの事務長室に行くと、エルバートさんが元気良く出迎えてくれた。そして、また書類との戦いが始まった。……俺達が東の山を離れた後の話やこれからの話をしていたのもあるけど、無事に報酬と新しいギルドタグを受け取ったときには、夕暮れが迫っていた。

 今回の調査依頼の成功報酬は約3000万ルリ。結局、内訳はよくわからなかった。エルバートさんが俺の性格も考慮して、1人当たりの受け取り額が600万Rになるように無理をしてくれたのだろう。そして、そこに“山の主”討伐の追加報酬1000万Rが付け加えられた。凄い金額だと思ったんだけど、今回の依頼はSランクでも可笑しくないので、それを考えると安いほうらしい。Sランクの依頼って凄いね。

 あと冒険者のランクだけど、契約通り、シフォンさんがAランクに、俺とマリアさんがBランクになった。そしてさらに、ミレーゼさんも最下層のFからEランクに上がっていた。今回の依頼は経験値が違うらしい。たしかに、アーク学園都市ではなかなかできない経験だね。



 冒険者ギルドを出て、いつものように人を掻き分け、宿に戻ると、


「ケイ君、本当にありがとう」

「ありがとう」


 シフォンさんとミレーゼさんが頭を下げ、今回の報酬をすべて差し出してきた。


「約束ですので、600万ずつは受け取りますが、パーティの積立金はちゃんともらっているのですから、残りの200万は受け取れませんよ。自由に使えるお金も必要ですよね」


「自由に使えるお金は、前にもらった魔石や素材の換金報酬で十分よ。借りたお金には利子が付くの。それに、マリアとアゼルもケイ君に渡しているじゃない」


 シフォンさんはそう言うけど、


「いやいや、ひと月で3割3分って、どんな高利貸しですか! それにマリアさんとアゼルさんは俺の婚約者です」


「えっ、私達は家族じゃないの?」


 汚ねぇ、奴隷の次は家族か……いや、先に使ったのは俺だった。


「家族で財布が一緒というのも納得できませんが、お預かりしておきます。ただし、奴隷契約を解約したら、お返ししますからね」


「まぁそれでいいわ」


 問題の先送りかぁ。奴隷契約を解約したとき、またモメそうだね……


「ミレーゼさんもそれでいいんですか?」


「だから言ってるじゃない。私は邪魔しかしてないんだから、そのお金はアンタのものよ」


 ミレーゼさんには、何を言っても無駄なさそうだね。 


「わかりました。……ところで、ミレーゼさん。Eランクになりましたよね。これで奴隷契約を解約したら、階級は冒険者になるんですか?」


「私は、わからないわ。お母さん、知ってる?」


「たしか昇格試験のあるBランクが必要なはずよ」


 それもそうか。でないとみんなアーク学園には行かず、奴隷落ちして冒険者を目指すか……



 翌日、朝食の席でシフォンさんが俺に話しかけてきた。


「ケイ君、お願いがあるんだけど」


「はい、なんですか?」


「街の外まで、私達を送ってくれない。そして、夕方に外壁の門まで迎えに来て欲しいの。私達、奴隷だからケイ君がいないと街の外に出れないのよ」


「構いませんが、依頼を受けるんですか? 俺達も行きますよ」


 俺がそう返すと、マリアさんとアゼルさんも頷いてくれた。


「違うの。依頼を受けてもいいんだけど、ミレーゼに実戦の経験を積ませようと思ってね。この子、才能はあるはずなんだけど、性格が戦闘向きじゃないせいか、追い込まれないと目覚めないタイプだと思うの。修練場で鍛錬を繰り返すよりも実戦のほうが効果があると思うのよ。ちょっと今日から試してみるわ。それにケイ君達は、安全マージンを取りすぎるのよ。冒険者としては理想なんだけどね。だから、私達だけで行きたいの」


 きっと、ミレーゼさんは死ぬ思いをさせられるのだろう。そういうのは見てるのも辛いし、ここはシフォンさんに任せておくほうがいいだろう。


「わかりました」


「あと、ミルクとクッキーもお願いね」


「えっ、連れていかないんですか?」


「そうよ。その子達もケイ君と同じで優しすぎるはずよ。ミレーゼが危険になったら、身を挺してでもミレーゼを護るはずよ」


 あっ、ミレーゼさんの肩に乗って俺達の話を聞いていたミルクとクッキーがシフォンさんから視線を逸らした。話をちゃんと理解してるし、護る気でいたんだね。まぁモヒカンのおじさんとの約束だからね。


「わかりました。じゃ昨日話していたとおり、ミルクとクッキーはエルバートさんに任せてもいいですか?」


「それで頼むわ。あと、マリア」


「はい」


「あなたもエルバートに見てもらいなさい。彼は、私の使えない“水魔法”も使えるからちょうどいいわ」


「わかりました」


 アゼルさんは、クロエさんに大太刀の型を習っているし、俺は、精米。全員の今日の予定が決まった。

 それにしても、エルバートさんは、“光魔法”と“土魔法”のほかに“水魔法”も使えるんだ。Sランクのエルフ族だし、きっと“樹魔法”も使えるのだろう。いや、あまり詮索するのは良くなかったね。俺は既存の鍛錬法が意味ないみたいだけど、なんかヒントになるかもしれないし話ぐらいは聞いておこうかな。



 シフォンさんとミレーゼさんを街の外へ見送った後、ギルドの修練場でそれぞれに課題をこなし、お昼休憩になった。いつもなんだけど、エルバートさんはお昼を一緒に摂ってくれない。申し訳ないからと言ってくれているけど、この時間を使って事務長としての仕事を片付けているのだろう。エルバートさんの願いとはいえ、こっちのほうが申し訳ないね。


「ケイさん、少しいいですか?」


 いつも通り妄想に耽っていると、マリアさんが話しかけてきた。


「はい、なんでしょう」


「今はシフォンさんが居られないのでお聞きしますが、この街で炊き出しをした後、リムルのところに行き、キアラのところに寄って、アリサのところへ帰るんですよね」


「はい、その予定です。それぞれに用事がありますからね」


「ええ、それはわかっています。……でも、お義母様はどうされるのですか? 生きておられるかもしれないんですよね。探しに行かないのですか? ケイさんが1人で行動していたときに、奴隷商館にも寄っていますよね。それなのに、シフォンを気遣って、お義母様の話題を避けていますよね」


 マリアさんがそう言うと、アゼルさんも頷いていた。やっぱりこの2人には隠し事はできないみたいだね。


「すみません、疚しい気持ちがあったわけではないんです」


「ええ、それもわかっています。今は私達がついていくと、何かと大変ですからね」


 あれっ? 怒られるかと思ったんだけど……


「はい、そうなんです。俺1人なら人目につきませんが、みんなで行くと人集りができてしましますからね」


「そんな話はどうでもいいのです。お義母様を探しには行かないのですか?」


 こんなことで誤魔化せるわけないか……


「正直、情報がないんです」


「どういうことですか?」


「マリアさんの言うとおり、奴隷商のカイルさんに話を聞きにいったのですが、奴隷の消息については、血縁者でも話すことはできないと言われました」


「あっ、守秘義務ですか」


「はい。カイルさんの奴隷商館は公的機関ですので、情報についてかなり厳しく管理されているようです」


「そうでしたね。奴隷落ちした人の中には、家族に追われている人もいますからね。だから、シフォンさんが居られる前では話を避けていたのですね」


「はい。シフォンさんのことですから、あのとき自分がちゃんと確認しておけばと、気に病むと思うんですよね。守秘義務がありますから、絶対に無理な話なんですけど……」


「そうですね。この話はシフォンさんの前ではしないほうがいいですね」


「はい。それに探さないわけではありません。情報がないので、一から集めるつもりです。炊き出しの後、今回、来た道を戻るつもりですが、往きは情報を集めていませんので、探せば何かあるかもしれません。まぁ不本意ですけど、父と一緒に居るのであれば安心なんですけどね」


「そうですね。……でも、どうしてお義父様と一緒に居られると不本意なのですか? 一番いい形じゃないですか?」


「えっ、あの父ですよ!?」


「ええ、多くの女性に愛され、多くの女性を幸せにしている素晴らしい方じゃないですか」


「幸せ?……いや、愛されているかもしませんが、妊娠させといて邪魔になれば奴隷商に売ってしまうような男ですよ!」


「それは、シフォンさんが否定されていましたよね。あと私だって、ケイさんのためなら何度でも奴隷落ちぐらいしますよ」


 マリアさんの言葉にアゼルさんも頷いている。……ダメだ、この2人。いや、アゼルさんは“堕天使”だけど、これがこの世界の常識なのか? 今度、転生者の誰かに聞いてみるほうがよさそうだね……



 それから1週間が過ぎ、エルバートさんの祝賀会が残り3日に迫っていた。いや、祝賀祭なのかな。街をあげてのお祭りになるらしい。さすがのエルバートさんも忙しいのか、今日からは俺達のいる修練場へ顔を出せないようだ。昨日まで、日中はお昼休み以外俺達と居たのに、いつの間にそんな準備をしていたのだろうか。

 そして、今日からエルバートさんに頼まれていた“白いご飯”を用意するため、ずっと街の外で実戦を続けていたミレーゼさんとシフォンさんも修練場に来てくれた。


「ちょっと、アンタ! 見てなさい!」


 修練場に入ると、ミレーゼさんは俺に声をかけ、体術の型を舞い始めた。


 あれっ!? なんでだろう。動きはそれほど速くないのに、ミレーゼさんの動きがブレて見える……


「何ですか、あれ?」


 隣にいたシフォンさんに聞いてみた。


「はぁ~……あの子、変な方向に目覚めたみたいなの」


 シフォンさんは1つため息をついて、そう呟いた。


「変な方向ですか?」


「そうなの。あの子、痛いことが苦手でしょ。だからダメージを受けて魔法を使えるようになる前に、避けることに目覚めたのよ」


「ということは……」


「フフン、どうよ」


 俺とシフォンさんが話していると、体術の型を舞い終わったミレーゼさんが薄い胸を張り、鼻を鳴らして右手を差し出してきたので、軽く握りしめた。


「違うわよっ! ステータスカードよっ! あと、小さいとか思ったでしょ!」


 怒られた。それに、なんでわかったんだ……


「いえ、そんなことありませんよ。すみません」


 とりあえず、謝ってからミレーゼさんのステータスカードを確認すると、


 氏名:ミレーゼ

 年齢:15才

 種族:狐人族×人間族

 階級:契約奴隷 (ケイ)

 住所:アイリス

 スキル:言語・計算・幻術


 やっぱりあった、“幻術スキル”。


「凄いじゃないですか。おめでとうございます」


 また怒られると嫌なので、すぐに手を離し、褒めてみた。


「うん、ありがとう」


 ミレーゼさんは俺から視線を逸らし頬を赤く染め、素直にお礼を言ってくれた。褒めて欲しかったのかな。……でも、


「シフォンさん、どうして浮かない顔をしているのですか? “幻術スキル”って、“白狐”の種族特性でレアなスキルですよね?」


「そうなんだけどね。幻術って近接戦闘でないとあまり意味がないのよ。ミレーゼは、どう考えても遠隔攻撃系か支援系になるでしょ。それなのに、幻術は広域魔法に弱いのよ。ただの目晦ましだからね。できれば、早い段階で“光魔法の防御結界”を使えるようになって欲しかったのよ」


「今からじゃ無理なんですか?」


「無理じゃないし、たぶん使えるようになるわ。ミレーゼは、“幻術スキル”が発現して、無意識だけど“回復魔法”も使っているからね。“光魔法”の才能があるはずよ。私の“幻術スキル”が発現したの、“氷魔法スキル”と“灼魔法スキル”の後だからね。スキルは得意なものほど簡単に発現するわよね」


「そうですね。それに幻術は“光魔法”と関係が強いんでしたね。じゃ何がダメなんですか?」


「もうこの辺りに、ミレーゼが一撃で死ななくて手ごろな強さの魔物がいないのよ。この子、攻撃を受ける前にすべて回避してしまうの。なんの訓練にもならないわ」


 いやいや、回避の訓練にはなっていますよね。


「シフォンさんが攻撃してもダメなんですね」


「ええ、この子、本能で私には殺されないとわかっているから、魔法が目覚めるためのショック療法にはならないのよ。たぶんケイ君やマリアでも無理ね。アゼルは本当に殺してしまいそうだし、まぁ地道にやらせるしかないわね。“幻術スキル”が発現しただけでも良しとするわ。……それよりもこの話は後にして、エルバートのご飯の用意をしましょう」


 ミレーゼさんは、俺とシフォンさんの話を聞きながら俯いて暗い顔をしていた。なるほど、ミレーゼさん、せっかく“幻術スキル”が発現したのに、お母さんのシフォンさんに褒めてもらえなかったんだね。


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