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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第23話

 5人と2匹の昼食の支度をし、食事を摂りながら、午前中にあった事を話し終えた。


「じゃ、炊き出しはできるのね」


 シフォンさんが尋ねてきた。


「はい。1週間後に教会へ確認に行きますので、実際に炊き出しをするのは、もう少し先になると思います」


「そうなのね。私とミレーゼも手伝うわよ。マリアとアゼルも手伝うんでしょ?」


 シフォンさんが確認すると、2人はなんの迷いもなく頷いた。


「いえ、そんな申し訳ないですよ。マリアさんとアゼルさんは俺の婚約者ですし、2人が俺と行動を伴にしたいと考えているのはわかっていますが、シフォンさんとミレーゼさんは違いますよね。炊き出しをやっても報酬はありませんよ。その間、待ってもらうことになりますが、自由にしてもらって構いませんよ」


「何言ってるのよ、ケイ君。私達は、ケイ君の契約奴隷よ。ご主人様と行動を共にするのは当然でしょ」


「シフォンさんは、俺の事を気遣って、契約奴隷であることを都合よく使いますが、俺は、お2人を契約奴隷として接するつもりはありませんよ」


「それは、ケイ君も同じでしょ。私達を気遣って、契約主である事を言い張るじゃない。今回の依頼の報酬で私達の購入代金を返せるかもしれないけど、それは、ケイ君が私達を買ってくれたから返すことができるのよ。何も変わらないの。私達には、ケイ君に一生かかっても返せないぐらいの恩が、お金を返しても残るのよ」


「それは考え過ぎですよ。俺は、お2人を買った事も今回の炊き出しも自己満足でやっているだけですよ」


「それもわかってるわ。でも、ケイ君が自己満足でやっていることで、多くの人が救われていると思うの。私達もその中の2人ってだけよ。それに私達だけではないわ。きっと、マリアもアゼルもミルクもクッキーもケイ君と一緒に過ごせて、幸せなはずよ。ケイ君って、1人で何でもできるし、人と距離を置くところがあるわよね。私達全員、ケイ君の許しを得て、一緒に居させてもらってるのよ。こういうところも、あの人にそっくりなんだけどね」


 また、クソ親父か……


「そんなことありませんよ。俺1人では何もできません。今回の依頼でも、“死霊王リッチ”を斃したのはシフォンさんですし、“アンデッドドラゴン”を斃したのはマリアさんとアゼルさんです。俺には無理ですからね」


「それは違うわ。ケイ君が今回の依頼を受けたのは私達が居たからでしょ。もし1人なら指名依頼でも断っていたでしょ」


「たしかにそうですけど……」


 今回の依頼は調査依頼だったから、受けたとしても討伐はしなかっただろう。


「ね、そうでしょ。ケイ君は、私達のために依頼を受けてくれたのよ」


 シフォンさん、さすがは大人の女性だね。どう言っても言いくるめられそうだ。


「シフォンさんにそう思ってもらえていることは、わかりました。でも、ミレーゼさんも炊き出しを手伝ってくれるつもりだったのですか?」


「アンタ、何言ってるのよ。お母さんの言ってることは人として当然のことでしょう。それに、今回の報酬でお金を返せたとしても、私は邪魔しかしてないんだから関係ないわ。アンタに受けた恩は丸々残っているのよ。それに炊き出しは、私もしてみたいわ。アンタほどじゃないけど、料理もちゃんとできるのよ」


 炊き出しをやりたいのならいいか。


「いや、昨日も言いましたが、ミレーゼさんもパーティメンバーで、依頼達成には必要だったんですよ。報酬を均等割りするのは当たり前じゃないですか」


「アンタねぇ、平等と公平をはき違えているでしょう。そういう優しさは、人を傷付けることもあるのよ」


 ミレーゼさんがそう言うと、彼女の肩に乗ったミルクとクッキーも頷いている。……ダメだ。ミレーゼさんにも言い負かされそうだ。


「すみません。そんなつもりなかったのですが……もし俺がミレーゼさんだけでなく皆さんの雇い主であれば報酬を均等割りせずに歩合制にしたと思います。でも皆さんはパーティメンバーである前に俺の家族です。完全には公平に判断することはできません。ですから、これからも報酬は均等割りを続けます」


「うーん、そう言われると私は何も言えないわ。と言っても、アンタに受けた恩が消えるわけじゃないんだからね!」


 強引だったけど、納得してくれたみたいだしいいだろう。


「ところで、ミレーゼさんに聞きたいことがあるのですが、いいですか?」


「なによ!」


「徒弟制度についてです。冒険者のランクが上がれば、奴隷契約を解約しても冒険者になれると思うのですが、商人のほうはどうしますか?」


「ああ、それね。もう決めたわ。私は商人にならないわ。お母さんにも言われたけど、私は商売に向いてないし、2つの事を同時になんてできないわ。それに、この1ヶ月アンタと過ごして思ったけど、アンタも商売に向いてないし、商売でお金儲けをする気もないでしょう」


「そうですね。前世でも商売に失敗してますし、自分でも向いているとは思えません」


「そんな暗い話はいいわ。それよりも、私、冒険者になると決めたんだから、鍛錬をしたいわ。どこか、いい場所を知らない?」


 離婚の話には喰いついてきたのに、こういう話には興味がないんだね。


「冒険者ギルドの修練場なら借りられると思いますが、体はもう大丈夫なんですか? かなり疲れているようでしたけど」


「そういえば、そうだったわね。でも、今は大丈夫よ。なぜかしら?」


「たぶんだけど、ミレーゼ、あなた“光魔法の回復”を無意識に使っているわ。まだ弱くて初級レベルにも達していないけどね。だいたい、私の血が半分流れているとはいえ、まったく運動もしたことないのに、東の山とこの街の往復を走れるわけがないわ。疲労と回復を繰り返しているうちに潜在能力が目覚めたんじゃない」


 ミレーゼさんの疑問にシフォンさんが答えてくれた。……ちょっと待って、往復を走れるわけがないって、無理やり走らせていましたよね?


「えっ本当、お母さん!?」


「まだ確信はないけど、あなたも“白狐”よ。それくらいはできてもおかしくないわ。あと、ミルクも毛並みが白いから“光属性”なんじゃないかしら」


「そうなの! じゃクッキーは?」


「茶色だから“土属性”かしら……って、あなた、奴隷商館で習わなかったの。髪や瞳の色は、持っている属性の影響を受け易いのよ。だからマリアは青色でアゼルは赤色の髪と瞳をしているでしょ」


「そうね、習ったわ。でも、“土”って、私に関係あるの?」


「たぶん、ないわよ」


「じゃ、どうしたらいいの。クッキーは、私の魔力を吸うと“土属性”じゃなくなるの? この中に誰かいないの? “土属性”を持ってる人」


「ケイ君、“土魔法”も使えるわよね?」


 黙って話を聞いていると 突然シフォンが俺に振ってきた。


「あっはい。でも、スキルがないですし、小石を飛ばしたり、地面に小さな窪み作ったりできる程度ですよ」


「アンタ、なんで、そんな微妙なのよ!」


「でも、ランクの低い相手には、結構使えるんですよ。小石は牽制になりますし、窪みは相手のバランスを崩すことができますからね。あと、どうして“土魔法”に拘るのですか? クッキーに聞いてみればいいじゃないんですか?」


「それもそうね。……ねぇクッキー。私、どうしたらいい?」


「…………」


 この子達、相変わらず声を出さないね。本当に喋るようになるんだろうか?


「うん、わかったわ。“土属性”にするね。……自分が何属性なのかわからないから好きにして良いって、言ってるわ。あのモヒカンのおじさん、初めから召喚契約をするつもりがなかったらしいの。拾われたときには、おじさん、すでに引退を考えていたから、いい人が見つかるまで一緒に探してくれてたんだって」


「そうだったんですね。……えっ! クッキーは、何属性かわからないし、好きにして良いと言ってるんですよね?」


「そうよ。でも、こういうのって直感が大事でしょう。それに、変な属性を混ぜて、毛並みが悪くなるほうが嫌だわ。こんな綺麗な茶色をしているんだから」


 ミレーゼさんはクッキーの頭を撫でながらそう言ってるけど、


「いいんですか、シフォンさん。もっと、ちゃんと考えたほうがいいんじゃないんですか?」


「そうね、そのほうがいいんだけど、意外に理に適っているわ。“土魔法”は防御に適しているから、ミルクを回復担当にして、クッキーを防御担当にすれば、ミレーゼの生存率が上がるわ。とりあえず、土属性の魔石の首輪を用意するわね」


「そうですね。わかりました、首輪は俺が用意します」


「ダメよ……そうね、この場合は、私の負けね」


「はい、ミルクとクッキーも俺達の家族です」


 俺の言葉に、マリアさんとアゼルさんも頷いてくれた。


「マリア、アゼル。ありがとう!」


 ミレーゼさんが2人にお礼を言ってるけど、俺は……



 昼食の後片付けをして、宿屋のおばさんに紹介してもらった鍛冶屋さんに首輪の注文を出した後、冒険者ギルドの修練場へ向かっていると、


「ケイ君、やり過ぎよ。首輪にミスリルを使うなんて、それにミルクの分まで……」


 シフォンさんが咎めてきた。


「かわいそうじゃないですか、2匹、お揃いのほうがいいですよ」


「それはそうだけど……でもミスリルはないんじゃない。属性を付与したミスリルの首輪なんて、普通、上流貴族でも着けていないわよ」


「でも大きな魔石のほうが効果は大きいみたいですし、まだ体が小さいのに大きな石を首に付けるのはかわいそうですよ」


「そうよ。だから普通は小さな魔石しか付けないのよ。それなのにBランクって……」


「でも属性の付いたBランクの魔石って、冒険者ギルドの買取査定額でも数百万Rルリですよね。特に“光属性”は高いですし、それを2本1000万Rで作ってもらえるんですから安く済みましたよね。“鑑定スキル”を持っているアゼルさんも何も言わなかったですし、問題ないと思うんですけど」


「そりゃそうよ。ミスリルの加工なんて、有名な鍛冶師でもそうそう出来ないのよ。それもミスリルを持ち込みだし、鍛冶師なら誰だって儲けなしでやってくれるわよ」


「そうなんですか?」


「知らないの、ケイ君。ミスリルとかの魔鉱石を加工すると、鍛冶の技術が飛躍的に伸びるのよ」


「そうだったんですね。じゃリムルさんにお願いするほうが良かったかもしれないですね」


「ああ、ケイ君の婚約者ね。どうする、断わりに行く?」


「いや、いいです。1度、お願いしたのに断わるのは申し訳ないですし、紹介してくれた宿屋のおばさんの顔を潰すことにもなりますからね。ミスリルは、まだ沢山ありますし、リムルさんには、これを預けておけば、何か作ってくれるでしょう」


「そうなの。金額が大きいし、そこまで気にすることはないと思うんだけどね」


 シフォンさんはそういうけど、やっぱりなんかね。気が引けるよね。



 冒険者ギルドに着くと、歓声で出迎えられた。ここまでの道中も、俺達の噂話は聞こえていたんだけど、みんなローブやマントのフードを被っていたし、あまり容姿を知られていないので、気付かれることはなかったみたいだ。


 いつもの受付のお姉さんのところへ行くと、


「ケイさん、お疲れ様です。今日はどうなさいました。事務長に用があるなら、直接向かってもらっても構いませんよ」


「いえ、今日は修練場をお借りしたくて。構いませんか?」


「ええ、どうぞ……ちょ、ちょっと待って頂けますか?」


 お姉さんは1度快諾してくれたものの、俺達を待たせて、慌てて席を離れ奥へ走っていった。そして、戻ってくると、


「お待たせしました。案内しますので、前とは別の修練場をお使い下さい」


「別の修練場もあるのですか?」


「ええ、自分の手の内を晒したくない冒険者は多いですからね。本来は、予約制で有料ですが、こちらの都合で使って頂くので無料です。ご自由にお使いください」


「ギルドの都合って、どういうことですか?」


「ケイさん達は目立ち過ぎます。一般用の修練場では見物人が邪魔で鍛錬にならないとしょう。それに、必ずトラブルが起きます」 


 そうか、冒険者って血気盛んな人が多いからね。



 人を掻き分け、お姉さんについて奥へ進んで行くと、バスケットコート1面分ぐらいの広さの部屋に通された。床は土だし、天井までの高さもあるし、5人で使うのにちょうど良さそうだ。


「この街にいる間は、ここをご自由にお使いください」


「今日だけでなく、街にいる間、ずっと使っていいんですか?」


「ええ、Sランクの冒険者である事務長の採決です。ギルドマスターでも逆らえません」


「ご迷惑をお掛けして、すみません」


「いえ、ケイさん達は、この街の英雄です。このくらい当然の権利です」


 お姉さんはそういい残して去っていった。


「シフォンさん、こういう事って、よくあるんですか?」


 不安になったので、シフォンさんに尋ねてみた。


「聞いたことないけど、エルバートが決めたことだし、いいんじゃない。実際、この街の中や周辺のどこで鍛錬をしてもトラブルが起きると思うわ。ここは、エルバートに甘えておきましょう」


「そうですね。トラブルを起こすほうが、ご迷惑をかけてしまいますからね」


「そうよ。それで、ケイ君はどうするの? アゼルはクロエさんに大太刀の型を習うでしょ。マリアは魔力操作の鍛錬だし。私はミレーゼに体術の基礎を教えようと思うんだけど、一緒にやる?」


「体術の基礎はシャルさんに習いましたので、俺は炊き出しの準備をします」


「えっそうなの。そんなのみんなで手伝うわよ」


 シフォンさんの言葉にみんな頷いているけど、


「いえ、魔法を使うので構いません。これも魔法のいい鍛錬になるんですよ」


「そうね、ケイ君の使う魔法、かなり複雑な術式を組んでいるから、いい鍛錬になるのは間違いないけど、本当にいいの?」


「はい、炊き出し当日は人の手が必要ですからその時はお願いします」


 みんな少し不満そうだけど、それぞれに課題があるんだし、そっちをやってもらいたいからね。


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