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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第20話

 俺達は、爺やさんやお世話になったデブやモヒカンのおじさん達と別れを済ませ、山の主の討伐の報告をするため、アイリスの街へ向かっていた。

 前を走るシフォンさんとミレーゼさんの先導で、御者台にマリアさんとアゼルさんと俺の3人で並んで座り、馬車を走らせながら、“魔法剣”によって焼け焦げたアゼルさんの大太刀の代わりをどうするか、話し合っていると、クロエさんの声が割り込んできた。


「クロエ様!」


 マリアさんが驚いて声を上げると、俺達の目の前に1本の小太刀が現れた。“黒龍爪”のほうだろう。


「そうじゃ、クロエじゃ。それでじゃ、そっちの娘には、小太刀よりもこん棒を持たせるがいい」


「そうなんですか。でもこん棒じゃ、“魔法剣”に耐えられないですよね」


「それは、ケイの小太刀でも同じじゃ。妾なら問題ないが、大太刀の型が崩れるほうが問題じゃ」


「クロエさんの小太刀、アゼルさんでも使えるんですか?」


「当然じゃ。ケイを護るためなら、誰でも使える。ただし、それ以外のことには、誰も使えぬ。守護とは、そういう“加護”なのじゃ」


 俺専用の太刀とは、そういう意味だったんだね。


「じゃあ、クロエさんの牙か爪をもらうことは出来ないのですか?」


「ケイのためなら構わんが、その娘の属性と妾の属性は相性が悪いぞ」


「属性の相性ってことは、やっぱり、クロエさんは“闇属性”なんですか?」


「そうじゃ、だから、ケイとは相性がいいのじゃ」


「じゃあ、クロエさんは“闇魔法”について、知っているのですか?」


「うーん、そうじゃな。ケイよりも詳しいかもしれんが、その程度じゃ。ケイと会う前に妾が人と係わりを持ったのは、ミシェルとカエデとベルぐらいじゃ。1000年も経っておらん。今でもそうじゃが、人の歴史にそれほど興味もない」


 クロエさんのことを、ベルさんの母親のミシェルさんは、俺の父と同じであろう他の地域から来た者と言ってたんだよね。そして、エルフ族の巫女のクリスさんは、精霊の上位種だと言ってたんだよね……


「クロエさんって、何者なんですか?」


「妾は、クロエじゃ。妾の刀術の師匠であるカエデが名付けてくれたこの名前を気に入っておる。それ以上でもそれ以下でもない。魔物と呼ぶ者もおれば、精霊と呼ぶ者もおる。黒龍も、人がそう呼ぶから黒龍なだけじゃ。最近はあまり言われないが、幻獣と呼ぶ者もおる」


「幻獣ってことは、契約すれば、クロエさんを召喚できるのですか?」


「何を言うておるのだ、ケイ。其方とは、契約を結んだではないか。今、こうして話しておるのも、契約のおかげだ」


「じゃあ、クロエさんが小太刀で俺を護ってくれているのは、召喚術なんですか?」


「それこそ、“加護”だろうと“召喚”だろうと好きに呼べばいいのじゃ」


「そうですね。……じゃあ、幻獣ってなんですか?」


「そんなこと、妾が知るわけなかろう。幻獣と呼ぶ者にでも聞くがよい」


 それもそうか……あとは、


「じゃあ、クロエさんは、黒龍の森で生まれたのですか?」


「いや、妾は、黒龍の森のずっと西で生まれたはずじゃ。西から来たことぐらいしか憶えておらん。気付いたときには、黒龍と呼ばれておったし、人の言葉を覚えたのもミシェルに出会ってからじゃ。だから、いつから黒龍の森にいるのかもわからん。時間の概念を持っておらんかったからのう」


 たしかに、他の地域から来たのは間違いないのか。それに、言葉を覚えるのに200年ほどかかったって、初めて会ったときに言ってたし、ミシェルさんが情報収集のために教えたのだろう。


「じゃあ、“管理者”や“古代遺跡”についても知らないのですか?」


「そうじゃ。ミシェルにも聞かれたが、黒龍の森にある“古代遺跡”は、妾が森で住むようになったころからあったからのう」


 なるほどね。まぁ辻褄はあっているよね。俺が知らないことをもっと知っていそうなんだけど、知らないことは尋ねようがないからね、仕方ないか。


「それで、話を戻しますが、“魔法剣”が“刀術の奥伝”の技というのは、どういうことなんですか?」


「さっきから言うておるが、呼び名が違うだけじゃ。刀術は、初伝、中伝、上伝、奥伝、秘伝とランクがあるのじゃ。魔法の初級、中級、上級と同じで、普通は上伝までしか教えん。奥伝は門外不出だからな。血族やよほどの才能があるものにしか教えないのじゃ。秘伝は、その人、個人にしか使えない技じゃ。誰かに伝えることができれば、奥伝になるのじゃ」


「じゃあ、俺も努力し続ければ、“魔法剣”を使えるようになるのですか?」


「無理じゃ。魔法に限らず、その他の術も自分の魔力を使って行うのじゃ。魔法も術もランクの高い技を使うためには、より多くの魔力を使う必要がある。しかし、ケイは、持っている魔力は多いが、1つの術に使える魔力の量が少なすぎるのじゃ。だから、魔法も術も、初級や初伝未満のものしか使えないのじゃ」


「なるほど、だから俺は才能がないと言われるのですね」


「そうじゃ。しかし、ケイには、オリジナルの魔法や術がある。オリジナル魔法というのは、刀術で言うところの秘伝じゃ。才能がないからと言って、それでケイが弱いというわけではない。既存の魔法や術を使うことができないだけで、新しい魔法や術を生み出せばいいのじゃ」


「俺には、無理なのがわかりました。でも、アゼルさんには、才能があるのですか?」


「そうじゃ。その娘は、1つの術に使える魔力の量はすでに上伝のレベルに達しておる。しかし、効率が悪い。ケイと同じで不器用なのじゃ」


 そういえば、お米を買った村の村長さんにも、俺の魔法の術式は複雑で非効率的だと言われたね。


「効率を上げる方法はないんですか?」


「当然ある。型じゃ」


「だから、大太刀の型が出来つつあるアゼルさんは、小太刀を使わないほうがいいんですね」


「そうじゃ。器用な者なら問題ないが、不器用な者は1つを極めるほうがいいのじゃ。たまに、ケイのような例外はあるがな」


「クロエさんなら、アゼルさんに“奥伝の技”を教えることができるのですか?」


「無理じゃ。妾は、上伝までしか知らん。カエデに“奥伝の技”は見せてもらったことはあるが、妾は使えん。しかし、ベルならできるはずじゃ。彼奴は、家事は出来ぬが、戦闘に関しては天才じゃ。“刀術”で“魔法剣”ぐらい習わんでもできるじゃろう。ただし、天才過ぎて、教えることには向いてないがな」


 ベルさんね……簡単にやりそうだね。


「クロエさん。ワタシに初伝の型から教えて欲しい。ワタシは、型の大事さをわかっていなかった。ワタシは、ケイの側に居たい。そのためには強くならなければならない」


 俺とクロエさんの会話を、ずっと黙って聞いていたアゼルさんが話しかけてきた。


「当然じゃ。アゼルと言ったか、其方には、強くなってもらう。ケイのためにな。……あと、マリア、其方もじゃ。其方は、そのままシフォンに教えを請うがいい」


「「はい!」」


 クロエさんの言葉に、アゼルさんとマリアさんの2人は力強く返事をしたけど……


「クロエさん。俺はどうしたらいいですか?」


「だから、言うておろう。基本は大切じゃが、其方は既存の鍛錬法では、すぐに限界が来る。自分で考えるのじゃ」


 そうなんだね……



 アゼルさんは、クロエさんから話を聞いているし、マリアさんは、シフォンさんから習った魔力操作の鍛錬を始めたので、馬車の手綱を握る以外することがなくった俺は、アゼルさんに手綱を任せ、前の2人と一緒に走ることにした。


「ケイ君。何してるの?」

「……」


 シフォンさんが尋ねてきたが、ミレーゼさんの視線は冷たい。


「俺も少し走ろうかと思いまして……」


「それはわかるんだけど、どうして四つん這いなの?」


「初めてやった鍛錬がハイハイだったので、基本に立ち返ろうかと思いまして……」


「そ、そうなの。頑張ってね」

「……」



 その日の昼食時、気になっていることを尋ねてみた。


「シフォンさん、幻獣種って、何か特別な食べ物とか必要なんですか? ずっと俺達と同じものを食べさせているんですけど、大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。無理なものは食べないはずだから問題ないわ」


「そうなんですね。あと、おじさんが育て方を確認していましたが、気をつけることとかあるんですか?」


「ないわよ。幻獣は食事だけでなく、魔力を吸収して成長するんだけど、吸収した魔力の影響を受けるから気をつける必要があるのよ。魔力は人だけでなく、生きているものすべてが持っているから、契約主の魔力を吸わせないと契約できないことぐらいかしら。まぁ幻獣に気に入られれば、問題ないんだけどね。さっき、クロエさんが言ってたケイ君との契約がそれに当たるんじゃないかしら。クロエさんが幻獣なのかどうか私にはわからないけどね。あと、ミルクとクッキーは、今のところミレーゼを気に入っているみたいだから、ミレーゼの魔力を吸わせなくても、契約はできると思うけど、普通は、なかなか気に入られないからね。成体になるまでは、常に側に置いて、自分の魔力を吸わせる必要があるのよ」


「吸収した魔力の影響を受けるということは、ミレーゼさんの持っている魔力の影響を受けるということですよね。どうなるんですか?」


「わからないわ。ミレーゼにどんな才能があるかわからないからね。あのモヒカンもミレーゼも“言語スキル”を持っているから、話すことはできるようになるんじゃないかしら」


 なるほどね。ミレーゼさんが預かるまで、モヒカンのおじさんの魔力を吸っていたんだったね。


「じゃあ、俺達の魔力も吸わせると俺達の影響を受けるということですか?」


「まぁ側にいれば、影響は受けると思うけど、そこまで気にしなくてもいいと思うわ。その子達が、勝手に選んで吸収すると思うし。何か特別な属性を持たせたかったら、魔石を使うこともできるからね」


「魔石ですか?」


「そうよ。たとえば、火属性を持たせたかったら、火属性の魔石を首輪にして付けておくのよ」


「何か用意するほうがいいですか?」


「それも焦る必要がないわ。ミレーゼは、その子達と意思の疎通を図れるからゆっくりと決めればいいのよ。下手をすれば、契約ができる成体になるまで何百年もかかることもあるみたいだからね」


 結構かかるんだね……



 その後、それぞれに鍛錬を繰り返しながら移動し10日が過ぎ、アイリスの街に戻ってきた。


「お疲れ様、シフォン。それにケイ君達もよくやってくれた。あと、ミレーゼさん。怪我はなかったかい? みんな、本当にありがとう」


 冒険者ギルドにある事務長室へ今回の依頼の報告ために行くと、エルバートさんは笑顔で出迎えてくれた。


「いいえ、ケイ君達が居なかったら、私だけでは無理だったわ」


「まぁ元々、そういう依頼だからね。それに詳しい討伐手段は言わなくていいよ。シフォンもそうだけど、ケイ君達も能力が特殊そうだからね。あまり口外しないほうがいい。ただ、“死霊王リッチ”がなぜあの山に誕生したのか、わかるかい? できれば、その情報は欲しいんだけど」


 そうだよね。発生原因がわかれば、事前に対策を立てられるからね。


「ええそうね。ありがとう。でも、その情報については、ケイ君に任せるわ。私では判断できないの」


「わかった。……ケイ君、話せる範囲で良いから、教えてくれないだろうか」


 どうしよう? 俺もわからないし、あの石ぐらいは良いか……


「はい。エルバートさん、この石、何かわかりますか?」


 俺は、“リッチ”に託されたこぶし大の“黒い石”をエルバートさんに見せた。


「うーん……触ってもいいかい?」


「どうぞ」


 俺の手の上に乗せられた“黒い石”をしばらく見つめていたエルバートさんが聞いてきたので、手渡した。


「魔石でもないし、アンデッドの核でもなさそうだね。どちらかといえば、人工物のような気がするね。これが原因なの?」


「はい、“リッチ”はそう言ってました。最近、ブラナスの古代遺跡で手に入れたらしいのですが、人間族で魔法使いでもなかった自分が、“リッチ”になれたのは、その石のおかげだと言ってました。そして、新しく手に入れた力を試したくて、あの山に篭もったようです」


「なるほどね。ブラナスか、遠いね。最近っていつかわかる?」


「いえ、自縛霊のころも含めると、2000年、自我を保っていたようなので、100年前でも最近と言えば、最近でしょう」


「そうだよね。ブラナスと言えば、2年前に戦争があったよね。それも関係あるのかな」


「そうですね。エイゼンシュテイン王国からアルガス帝国へ移譲されましたよね。帝国が何かしたのかもしれませんね」


「そうだね。あそこもよくわからない国だからね。いや、ありがとう」


 エルバートさんは、そう言って、“黒い石”を返してくれた。


「もういいのですか?」


「まだ調査中だけど、あの山、関係ないよね」


「そうですね、たぶんですが……ところで、少し聞いてもいいですか?」


「いいよ。何でも聞いて」


「皆さん、当たり前のように、“魔物の魔石”と“アンデッドの核”を見分けていますが、何か見分け方があるのですか? 俺も何となくはわかるのですが」


「私も一緒だよ。何となくだよ。まぁ鑑定スキルがある人は別なんだろうけど、魔石や核を加工する人の話では、魔石は生きているらしい。そして、核は死んでいるらしいんだ。他にも、魔石はプラスの効果があって、核にはマイナスの効果があるみたいだね。魔道具や薬などで上手く組み合わせて使うみたいだよ。そして、その石は、どちらでもないよね。なんとなくだけどね」


 なるほどね、学園で習ったような気もするんだけど、憶えていなかったんだよね。


「はい、俺も何となくですけど、どちらでもないような気がします。これは、ギルドに提出しなくてもいいのですか?」


「そりゃもちろん、提出してくれると嬉しいけど、何かわからないものに、値段なんか付けられないからね。まさか、貰うわけにもいかないし、ケイ君が好きにすればいいよ」


「わかりました。いつになるか、わかりませんが、ブラナスにも行こうと思っているので、そのとき、何かわかればギルドに報告します」


「それが1番助かるよ。アルガス帝国は、冒険者ギルドの威光があまり通用しない国だからね」


「そうみたいですね。……あと、もう1ついいですか? パーカーボーン13世さんに指名依頼を出したのですか?」


 爺やさんは依頼を受けていないとは言ったけど、指名依頼を申し込まれていないとは言ってなかったからね。


「あっ! それもあったね。依頼自体は、どこのギルドでも見ることができるんだけど、指名依頼は出していないよ。ケイ君、知り合いなんだよね。……ホント、驚いたよ。あれは、ケイ君達が山の主討伐作戦を開始した翌日だったんだけどね、突然、転移ゲートの部屋の扉が開いて、パーカーボーン13世様が現れたんだよ。あの扉が開くとき、必ず、このギルドにトラブルが持ち込まれるんだ。だから、私は、あの扉を“災いの扉”と呼んでいるんだけどね。でも、今回はトラブル解決のため、扉が開いたみたいだね。ケイ君のことを心配して、見に来てくださったんだろうね」


「はい、間違いなく、俺のせいです」


 でも、爺やさん。ここから、半日ほどで、あのキャンプ地まで行ったのか……おじさんの伝書鳩よりも、速いんだね。


「いや、違うよ。ケイ君のおかげなんだよ。あんな大物、指名依頼出しても、動かないからね。これも、ケイ君の力なんだ。自信を持てばいいんだよ」


「はい、ありがとうございます」


 爺やさんも同じようなことを言ってくれたけど、やっぱり俺が不甲斐ないだけだよね。


「もういいかい? じゃあ、精算できるものは、先にやってしまおうか。マスター達が戻ってきて、最終報告をもらえれば、すべて清算できるから、もう少し待ってね」


 エルバートさんはそう言って、魔石や核、魔物の討伐部位や素材の査定を始めてくれた…もの凄い速さなんだけど、量も多いからね。結構、かかりそうだ。


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