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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第19話

 山の主“死霊王リッチ”を討伐し、山の麓にあるキャンプ地に戻ってきた俺達は、そこで思わぬ人との再会を果たした。その爺やさんとも挨拶を済ませ、やっとここまで辿り着いた。


「いろいろとありがとうございました」


 おじさん達を待たせてしまったけど、どうにか頭を下げることができた。


「兄ちゃん、何言ってんだ。礼を言うのはこっちだ。よくやってくれた。ありがとう」


 デブのおじさんがそう言って頭を下げてくれると、モヒカンのおじさんも頭を下げてくれた。


「いえ、お2人の協力がなければ、今回は無理だったかもしれません」


「まあ、もう終ったことだ。いいじゃねぇか。それよりも、あの人、パーカーボーン13世様だよな?」


 おじさんは気になっていたのか、気を使ってくれたのか、わからないけど、話題を変えてきた。


「はい、そうです。あの人、いつここへ来たんですか?」


「おい、兄ちゃん。さっきと扱いが違うんだが、いいのか?」


「大丈夫です。あの人、ただの変態ですから」


「変態って、そんなこと言っても、大丈夫なのかよっ!」


「ええ、あの人にとって、変態は褒め言葉ですから」


「そ、そうなのか。ならいいが……ああ、そうそう。あの人がいつ来たのか、俺達にもわからないんだ。マスター達は、一昨日、兄ちゃん達が、出発した日の午後に、ここへ到着したんだが、あの人は、兄ちゃん達が戻ってくる間際に、マスターの横に立っていて、初めて気付いたんだ。あれが、Sランクの冒険者なんだな。本当に人なのか? 斥候専門の俺達には、ちょっとショックだったんだぞ!」


「ええ、人かどうかは俺にもわかりません。見た目は人間族なんですけどね。まあ、変態であることは間違いないでしょう」


「そうだな。変態だと思って、諦めるわ」



「ミルク、クッキー、お別れね。“――”。ええ、私も寂しいわ。でもね、あなた達のご主人様は、モヒカンのおじさんなの。“――”。うん、元気でね」


 俺がおじさんと話をしている横で、ミレーゼさんが、モフモフ達とお別れの挨拶をしていた。


「嬢ちゃん。良かったから、ソイツ等、連れて行くか?」


 モヒカンのおじさんが少し照れくさそうにそう言ってきた。


「えっ! いいのっ!……でも、ダメ。私、奴隷だし。借金まみれなの。この子達を養うことができないわ。それに、この子達は、大切に育てているのでしょう。一緒に過ごす期間は短かったけど、凄く愛情が注がれて育てられているのがよくわかったわ」


「いや、まぁたしかに、大事に育てているのは間違いない。でも、ソイツらは、出来はいいが、まだ子供で、好奇心も旺盛なんだ。一緒に旅に連れていってやってくれないか? それに何と言っても、嬢ちゃんのことを気に入っている。あと、嬢ちゃんの持ち物は、契約主の持ち物でもある。そうだよな、坊主?」


「あっはい、そうです。あっ、で、でも……」


「ほらみろ。契約主は良いと言ってる。どうする嬢ちゃん。嬢ちゃんが決めればいい。無理なら断わってくれ。縁がなかったと思って、ソイツらも諦めるだろう」


「えっ、いいの?」


 ミレーゼさんは、俺の目を見て、聞いてきた。……こういうのってどうなんだろう。ちょっと、俺には判断が難しいね。


「シフォンさんは、どう思いますか?」


「そうね。……あなたに聞きたいことがあるわ」


 シフォンさんは、俺に返事をした後、モヒカンのおじさんに問いかけた。


「どうしたんだ、姐さん?」


「この子ら、ただのイタチじゃないわよね?」


「気付いていたのか!?」


「ええ。でも、最初、見たときは自信がなかったわ。でも、この子ら、気配が薄すぎるのよ。ミレーゼは、ずっと側にいるから気配の薄さに気付かないでしょうけど、マリア、アゼル、あなた達はどうだった? 戦闘中や移動中、存在に気付いていた?」


「言われてみるとそうですね。見れば思い出すのですが、目を離すと記憶からもなくなりそうです」


「そうだな」


 マリアさんとアゼルさんは、不思議そうにしながらも納得しているようだけど……


「たぶん、ケイ君は、元々、気配察知が弱く、魔力察知に頼っているところが強いから、ずっと存在に気付いていたと思うけど、普通じゃないの」


「ああ、なるほど。俺の気配察知は、たまに勘が働く程度で、通常は、魔力しか追いかけていませんからね。でも、普通じゃないということは、良くないということですか?」


「逆よ。良すぎるのよ。この子ら、たぶん、幻獣種よ。……ねぇ、そうでしょう?」


 俺に話していたミレーゼさんが、最後はモヒカンのおじさんにまた問いかけた。


「ああ、そうだ。ソイツ等は、幻獣種だ。それに、まだ何になるのかもわからん。だが、そこまで知っているのなら育て方も知っているのだろう」


「ええ、まぁ育てたことはないけどね」


「幻獣って、“召喚術”の幻獣ですか?」


 俺が尋ねると、


「ああ、そうだ。ソイツらは、まだ契約主のいない野良状態だがな。もう少し成長しないと契約できないんだ」


 モヒカンのおじさんが答えてくれた。


「そ、そんなのめちゃくちゃ高いんじゃないんですかっ!」


「違うわ、ケイ君。高いなんてもんじゃないの。見つけたら誰も手放さないわ。値段なんて付かないのよ」


 俺の叫びに、今度は、シフォンさんが答えてくれた。……ど、どうすんだよ、こんなの。貰えるわけないじゃん!


「ミレーゼさん、すみません。断わりましょう」


「そ、そうね。さすがに貰うわけにはいかないわ」


「それは、違うぞ、嬢ちゃん。嬢ちゃんと坊主は、何か勘違いをしていないか。俺は、最初から一言もソイツらを上げるや譲ると言った憶えがない。一緒に連れていってくれないかと頼んだんだ。俺には、言語スキルがあるから、ソイツらが何を言いたくて、何を考えているのかがわかる。嬢ちゃんにもわかるだろ。ソイツらがどう思っていて、何を望んでいるのかが。それが答えだ」


 モヒカンのおじさんがそう言うと、


「わかって言ってるとは思うんだけど、本当にいいの。この子ら、この調子なら、ミレーゼの魔力を吸って成長するわ。そして、そのまま成体になれば、契約できるのはミレーゼなのよ」


「ああ、それでいい。それがソイツらの望みだ。俺はソイツらの望みを叶えてやりたいんだ。もし、俺に言語スキルがなければ、こんなこと思わなかったかもしれん。でも、俺はソイツらと毎日会話して一緒に過ごしてきたんだ。もうソイツらは俺の子供も同然なんだ。子供の幸せを願うのは、親として当たり前だろ。姐さん、あんたならわかるだろ」


「参ったわ。そう言われると何も言い返せないじゃない」


「ああ、すまん。そんなつもりはなかった。俺が言いたかったのは、たとえ、ソイツらが嬢ちゃんと契約しても、俺とソイツらの関係は何も変わらないということだ。だから、一緒に連れていってやってくれないだろうか」


 モヒカンのおじさんの言葉に、ミレーゼさんは迷っているようだ。そうだよね。ただの高級なペットじゃないからね。


「ミレーゼさん、お預かりしましょう。貰うわけではありません。その子らも、おじさんも、ミレーゼさんもそう望んでいるのなら、それが1番です。ただし、お預かりするかぎり責任を持って育てましょう。おじさんも、その子らも、ミレーゼさんに育てられて良かったと思ってもらえるように、俺も協力します」


「うん、わかったわ。おじさん、この子らを絶対に大切に育てるわ」


「すまん、ありがとう。……ミルク、クッキー。嬢ちゃんを護れ。これはお父さんとの約束だ。絶対、破るなよ」


 モヒカンのおじさんはミルクとクッキーの目を見て語りかけ、2匹の頭を軽く撫で、そして、離れた。


「ありがとうございます。俺が責任を持って養います」


「ああ、坊主なら安心だ。俺といるよりも旨いものを喰えるしな」


 おじさんはそう言って笑ってくれた。こうして、俺達に新しい仲間が加わった。



 おじさん達も一緒に、爺やさんが用意してくれたアリサさんの料理を食べ、その夜は楽しく過ごし、ゆっくりと寝ることができた。まだ、山では戦闘音が鳴り響き、“光魔法の浄化”の光が飛び交っていたんだけどね……



 翌朝、


「すみません、俺達だけ先に帰ることになって」


「いや、違うだろ。兄ちゃんには、事務長のエルバートさんに報告という大切な仕事が残っているんだ。ここにいるマスターに言っても意味がないからな」


「そうですね。では、おじさん、お元気で」


「ああ、兄ちゃんもな」


 出発の準備を整えた俺は、デブのおじさんに別れを告げた。隣では、ミレーゼさんとミルクとクッキーがモヒカンのおじさんに別れを告げている。



「爺やさん、本当に一緒に帰らないのですか?」


「ケイ様。お誘いは有難いのですが、爺やは、そこまで野暮では御座いません。それに、まだ散歩の途中です。お気遣いはご無用で御座います」


 爺やさんは、そんなことを言いながら、もしこの後、何かあった時に、俺が気に病むことを避けるため、最後まで見届けてくれるのだろう。俺達は、元々、山の主の調査依頼を受けているので、これ以上、ここに留まることができない。申し訳ないけど、お任せするしかないんだよね。本当、俺って情けないよね。


「あと、爺やさん。少し予定が変更になりそうです。8月頃にドワーフの村へ寄った後、カステリーニ教国経由で、1度、学園都市に戻ると思います。確かな日取りが決まり次第、また連絡を入れますので、その時はよろしくお願いします」


「承知致しました。ケイ様のお帰り、心よりお待ち申し上げております」


 なぜ、爺やさんは俺をこんなに持ち上げてくれるのだろうか? それほど、ベルさんとの付き合い深いようにも思えないんだけど、何かあるのだろうか?……まぁそういうスタイルで御座いますと言われれば、それまでなんだけどね。


「それでは、皆さん。お先に失礼します。お元気で!」


 俺は、最後に一声をかけ、馬車を走らせた……が、なんでまた、この親子は自分の足で走っているのだろうか?



「ところで、ケイさん。アゼルの大太刀はどうしますか?」


 前を走る2人を眺めながら、3人並んで御者台に座り、馬を走らせていると、右隣のマリアさんが尋ねてきた。そうなんだよね。今、アゼルさん、武器がないんだよね。


「帰りの戦闘もシフォンさんに任せるつもりなので、心配ないと思うのですが、ないわけにはいかないですよね。アゼルさん、俺の小太刀の予備を使いますか?」


「いや、小太刀よりも、こん棒のほうがいい。長めのを貸してくれ」


 俺が尋ねると左隣のアゼルさんがそう答えた。


「そうじゃ、その娘は小太刀よりもこん棒のほうが良い。大太刀の型が出来上がりつつあるのに、小太刀を使うと型が崩れるのじゃ」


 3人で話していると、クロエさんの声が割り込んできた。……あぁ、そういえば、この人も居たね。


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