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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第18話

 俺とシフォンさんは、山の主“死霊王リッチ”の消滅を確認した後、みんなのところへ戻った。まだこの山頂のカルデラには、ゾンビが残っているが、“リッチの使役魔法”から解放されたのだろう。近づかないかぎり、襲ってくることはなさそうだ。


「ケイ、すまん」


 アゼルさんが謝ってきた。なぜだろう?


「どうしたんですか?」


「これ……」


 アゼルさんはそう言って、俺に抜き身の大太刀を見せた。確認すると、冒険者ギルドで用意してもらった大太刀の刃が所々焼け焦げ崩れかかっていた。そんなに悪いやつでもないと思ったんだけど……


「もしかして、アゼルが最後に使ったの、“魔法剣”じゃない?」


 シフォンさんが尋ねてきたが、


「“魔法剣”って、名前だけは聞いたことはあるんですが、どういうものなんですか?」


「そうね、かなりの上級魔法なの。剣だけではないんだけどね。装備を通して魔法を発動させることは、それほど難しい魔法ではないの。でも、装備と魔法を一体化させて、装備の能力を上げることは、かなり熟練の魔法使いでないとできないのよ。それに、そんな魔法使いは、魔法以外の武術なんて使わないから、重要視されていないのよ。まぁあ門外不出の魔法ばかりだから、ケイ君が知らないのも無理もないわ。ちなみに、私が使う“氷の鎧”はコレよ。魔法属性の高い防具じゃないと魔法に耐えられないの。だから、自分の氷で作るほうがいいのよ」


 わかり易い説明だったけど、シフォンさん、たまにさらっと自慢話を混ぜてくるよね。


「その通りじゃ。“刀術”では、“奥伝の技”じゃ」


 まだ出しっ放しにしていたクロエさんの小太刀から声がした。……そういえば、戦闘中も声がしていたね。


「「「「……」」」」


 俺を除く4人が堅まっている。


「クロエさん。もしかして、いつでも喋れたのですか?」


「そ、そうじゃ……」


「ずっと、見ていたのですか?」


「そ、そうじゃ……」


「……」


 マジでっ! 恥ずかしいじゃないですかっ!……いや、考えようによっては、女性に見られながら、するのも悪くないか……いや、でも、アレがバレると、もう洗濯をさせてもらえないかもしれないし……


「大丈夫じゃ、ケイ。妾は口が堅いのじゃ」


 なんで、俺の考えていることがわかったんだ? もしかして、クロエさんも人の思考を読むことができるのか?


「ならいいです。この話は流しましょう」


「うむ」


 クロエさんは理解が早くて助かるよね。


「あのう、ケイさん。何の話をしているのですか? それに、その声は誰ですか?」


 復活したマリアさんが尋ねてきたが……マズい、上手く誤魔化さなければ、もう洗濯をさせてもらえなくなってしまう。


「クロエさんです。この小太刀の材料です」


「なんじゃ、その説明の仕方は! もっと妾を敬わんか! 口が軽くなっても知らんぞっ!」


「すみません。つい……でも、そんなことしたら、俺もベルさんに言いますよ」


「ま、待つのじゃ。妾も言い過ぎた。妾は材料で構わん」


 やっぱりベルさんに黙っていたんだね。あれだけ大見得を切って、ベルさんと一緒に待つようなこと言いながら、ずっと俺を見ていたんだからね。


「ざ、材料って……もしかして、その小太刀に加護を授けてくださった黒龍のクロエ様ですか!?」


「うむ、その通りじゃ。妾が黒龍のクロエじゃ」


「ご挨拶が遅れました。私は、ケイの婚約者のマリアです。あと、同じく婚約者のアゼル。そして、ケイの契約奴隷のシフォンとミレーゼです。宜しくお願い致します」


 マリアさんがそう言って、空中に浮かんでいる小太刀に頭を下げると、みんなも頭を下げた。……なかなかシュールな光景だね。


「うむ、ずっと見ておったから、知っておる。妾も宜しく頼むのじゃ」


「ずっと見ていた……じゃあ、あの時、なぜ出て来て下さらなかったのですかっ!」


 ああ、カステリーニ教国で俺が刺されたときのことだね。


「す、すまぬのじゃ。あの時は、布団を洗濯しておったのだ……」


 うん、布団の手洗いって、大変だよね。


「せ、洗濯ですって! 洗濯とケイさんの命、どちらが大事だと思っているのですかっ! もう、あのようなことが二度とないように、肝に命じておいて下さいっ!」


 マリアさんが、キレてしまった。でも、小太刀に肝はないからね。いや、本体にはあるのか……


「はい。もう二度とないように、気を付けるのじゃ……」


 クロエさん、“はい”って返事してるし、一瞬で立場が入れ替わってしまったね。マリアさんって、凄いね。



「あのう、ちょっと、いいかな?」


 ミレーゼさんが恐る恐る尋ねてきた。


「はい、どうしたのですか?」


「ギルドに報告はいいの?」


「あっ、そうでした。ありがとうございます。忘れるところでした」


「気付いたの私じゃないわ。この子達が教えてくれたの。それで、行ってこようかと言ってくれているんだけど……」


 さすがモヒカンのおじさんのフェレット達、冷静な状況判断だね。


「でも、大丈夫なんですか? まだ、山にはかなりのゾンビが徘徊していますよ」


「うん、この子達、気配を隠せるらしいの。それに、夜明け前までに、行って戻って来られると言っているわ」


 おお、速いね。……誰に見られるかわからないから、俺も“転移”を使うわけにはいかないし、せめてこの山頂のゾンビぐらいはなんとかしないといけないし……


「シフォンさん、どうしましょう。任せてもいいんでしょうか?」


「そうね。それがいいんだけど、ミレーゼ、その子らどこまで信用できる。私達の能力は隠せるのかしら」


「ちょっと待って、聞いてみる。……ねぇミルク、クッキー、――」


「「……」」


 本当に喋っているのか? モフモフ達、鳴き声すら出さないんだけど……


「信用してもらうしかないって言っているわ。それに味方の能力を探るようなことは聞かれたことがないとも言っているわ」


 そうか、モフモフ達以前に、モヒカンのおじさんが信用できるかどうかだよね。


「なら大丈夫でしょう。あのおじさん達を俺は信用しています」


「ケイ君がそう言うのなら、構わないわ。私達、魔力を使いすぎて回復が必要なの。報告はその子達に任せて、夜が明けてから、山を降りましょう」


「そうですね。ミレーゼさん、お願いします」


「うん、わかったわ」


「あと、アゼルさんの“魔法剣”やクロエさんのことは、後日、話をしましょう。さすがにこの状況で寝るわけにはいきませんが、皆さんは休憩をしてください。俺がこのカルデラにいるゾンビを駆逐します」


「いいの、ケイ君。私達は助かるんだけど、増えてこないとはいえ、結構いるわよ」


「はい、俺と“スケルトン”との距離が離れると精度が落ちますが、相手も“リッチの使役魔法”の呪縛から解かれ、徘徊しているだけですから、問題ないと思います」


「そうね、じゃあ、お願いするわ。ゴメンね」


 なんとかクロエさんの話を後に回すことができた。マリアさん、忘れてくれるといいんだけどね。



 そして、カルデラの中にいるゾンビ達を駆逐し、東の空が明るくなり始めたころ、モフモフ達が帰ってきた。


「「……」」

「……」


 モフモフ達との会話を終えたミレーゼさんが


「麓のキャンプ地に、ギルドマスターが来ているらしいの。もうゾンビには手を出さず、ゆっくり戻って来いとの命令らしいわ」


 と報告してくれたが、あのマスターのことだから、自分の斃す分が減るとか考えているのだろう。


「わかりました。どちらにしても、日没までに、キャンプ地まで戻りましょう」



 日没前、俺達5人が、山の麓にあるキャンプ地に戻ってくると、大勢の人が歓声で出迎えてくれた。その群集の前には、腕を組み仁王立ちした冒険者ギルドアイリス支部ギルドマスターのパウロさんが、その右側の少し後ろでは、デブとモヒカンのおじさん達が


 ……そして、パウロさんの左隣には、いつもの正装に身を包んだ爺やさんが、いつもの様子で立っていた。また、心配をかけてしまったみたいだね。……でも、


「マスター。ただいま、戻りました」


 先に、こちらへ挨拶しないとね。


「うむ。ご苦労。後は、俺達に任せて、ゆっくり休め。……おいっ! 野郎どもっ! 俺に続けっ!」


「「「「うおおおぉぉぉっ!」」」」


 パウロさんは、俺達を労ったあと、大声で叫ぶと、山道に土埃を蹴立て、物凄い勢いで駆け上がっていった。その後を、喊声を上げた群衆が山道を駆け上がっていったが、パウロさんとの距離は離れる一方だった。……大将が、自ら孤立してどうするんだよっ! まぁ“死にたがり”と言われるだけのことはあるね。


「俺達は後でいい。先にそっちを済ませて来い」


 マスター達と一緒に山には行かず、ここに残っていたおじさん達に感謝を述べようとしたころで、遮られた。やっぱり、いい人は違うね。



「爺やさん、ご心配をお掛けしてすみませんでした」


 俺が頭を下げると、他の4人だけでなく、おじさん達まで頭を下げてくれた。


「お久しぶりで御座います、若様。いえ、もうケイ様とお呼びするほうが宜しゅう御座いますね。ケイ様、何を仰せられているのですか、爺やは、たまたま散歩で通りかかっただけで御座います。お元気そうで、何よりです」


 いやいや、普通、そんな格好で、こんなとこ散歩してる人いませんから……あっ! この人、普通じゃなかった……変態さんだったね。


「ええ、お久しぶりです。爺やさんもお元気そうで良かったです。でも、俺はまだまだ未熟です。名前で呼んで頂くにはまだ早いと思うのですが……やはり、爺やさんのところに依頼がいきましたか?」


 爺やさんは、Sランクの冒険者の上、“光魔法”のスペシャリストだからね。


「いいえ。ケイ様は、Aランク上位の魔物である“死霊王リッチ”を討伐されたのです。もう、ケイ様のことを未熟だと思う者があろうはずが御座いません。それに、この爺やを見縊らないで頂きとう御座います。爺やがこのような依頼を受けるはずが御座いません。爺やのポリシーに反するので御座います」


 そういえば、爺やさん、“10歳未満の女児の家庭教師兼、護衛兼、屋敷の管理”の依頼でないと受けないんだったよね。でも俺の家の管理は、なんで引き受けてくれたんだろうか? なんか聞いたことがあるような気がするけど、今はいいか。


「そうでしたね。すみませんでした。でも、俺だけで“リッチ”を討伐できたわけではありません。ここにいる4人やクロエさん、そして、そこのお2人の力があってのことです。俺1人では、何もできなかったと思います」


「それでいいのです。やっとわかって頂けて、爺やは嬉しゅう御座います。ケイ様は、まだあの屋敷に居られた頃、仲間に対して距離を置かれておりました。それが、今では、ご婚約もされて、仲間に頼ることができるようになられたのです。これは、ケイ様が成長なされ、強くなっている証なのです。先程、パウロ様は、お1人、先走っておられましたが、あれでは、命がいくつあっても足りません。人に愛され、人を愛することができる者が強いのです。1人では何もできないのです」


 おおっ、かっこいいね、爺やさん。俺もそのうち、どこかで使おう。


「ありがとうございます。その言葉、肝に命じ、これからも精進していきます」


「はい、それでこそ、ケイ様で御座います。……さぁあ。今日は、アリサ様からお料理をお預かりしております。爺やがご用意いたしますので、先に、そちらのお2人に挨拶を済ませ、ごゆっくりとなさって下さい」


「はい、ありがとうございます」


 ここは、素直に甘えておこう。あと、アリサさんの料理を持っていることも流すほうがいいだろう。すべて、俺の不甲斐なさが原因だからね。


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