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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第14話

 冒険者ギルドアイリス支部で依頼を受けた、翌朝。


「ケイ君、本当に私達が入っても良かったの?」


 朝食の席で、シフォンさんが、また確認をしてきた。俺達のパーティ“ハウスキーパー”に、入ったことをまだ気にしているようだ。


「たしかに、“ハウスキーパー”には、思い入れがあります。だからこそ、解散させるわけにはいかなかったのです。それに、メンバーのキアラさんも話せば、必ず、納得してくれます」


 今回の依頼は、少し難易度が下がったとはいえ、元々Sランクの依頼のため、パーティにAランク以上の人がいないと受けることができない。そのため、仮とは言え、Aランクのシフォンさんに入ってもらうことになったんだけど……


「そうです。キアラは、聖女です。こんなことぐらいで一々文句を言ったりしません」


 俺の説得にマリアさんも追随してくれたが、


「聖女と言われても、私には“光魔法”のスペシャリストというくらいの認識しかないんだけど……もちろん、ケイ君の婚約者なんだから、いい人だと思うわ。だからこそ、申し訳なくて……」


 そうだったね。聖女って、人間族が勝手にそう呼んでいるだけだったね。


「では、近いうちに会いに行きましょう。会って話をすれば、シフォンさんもきっと安心できると思います」


「そうね。お願いするわ。1度、きっちりと挨拶させてもらわないといけないわ」


 そのままの意味なんだろうけど、聞くと怖いね、この言葉。


「アゼルは、いいの?」


 ミレーゼさんが聞いてくれたけど、そうだよね。アゼルさんは商人だから、冒険者のパーティに入れないんだよね。


「ワタシは、ケイの側にいれれば、それでいい。それに、リムルやアリサ、ベルさんも入っていない」


 アゼルさんは、何の迷いなくそう言ってくれたけど、なんか恥ずかしいね。


「ホント、マリアとアゼルを見てると、そのキアラさんもいい人だと思うんだけど、私達で大丈夫かしら」


 なぜシフォンさんは、パーティやそのメンバーのことをここまで気にするのだろうか。何かあったのかもしれないね。あったとすれば、シャルさんとのパーティなんだろうけど……


「では、行きましょうか」



 前日に準備を整えた俺達は、山の主を調査するため、アイリスの街を出て、東の山へ向かって馬車を走らせ始めた。


 そして、街を出て10分が過ぎた頃……


「お母さん、もう無理」


 俺達はいつも通り御者台に3人並んで座り馬を走らせているが、馬の前をミレーゼさんとシフォンさんが自分の足で走っている。


「何言ってるのよ。まだ、10分も経ってないじゃない」


 いや、10分は経ったよ。


「そんなこと言っても、走るのなんか初めてなんだから」


 まぁ普通に喋れているからまだ大丈夫だろう。


「初めてかどうかなんか関係ないの。あと10日で基礎体力を付けないと山を登れないわよ」


「わかってるわよ……」


 この親子、シフォンさんはリハビリのために、ミレーゼさんは基礎体力をつけるために、10日間、自分の足で走っていくらしい。シフォンさんは、さらに、魔物の討伐もこなしながら走るらしいんだけど、


「あっ! 居ました。右手、南南東、約1kmのところに、5体の群れです。この魔力の大きさなら、たぶんDランクだと思います」


「そう、じゃ行って来るわ。ミレーゼはちょっと休憩してなさい」


 シフォンさんはそう言うと、俺の指し示した方角に跳ねるようにして走っていった。


「凄いですね。16年もブランクがあるようには見えませんね」


 マリアさんが驚きの声を上げたが、たしにそうだね。でもたぶん、本調子になれば、もっと凄いんだろうね。


「アゼル!」


 母親を見送ったミレーゼさんは、両手上げて、アゼルさんを呼んだ。アゼルさんは、馬車を走らせたまま、ミレーゼさんの両腕を掴むと軽々と持ち上げ、自分の膝の上に座らせた。


「ありがとう。ちょっと脱いでいいかな」


 ミレーゼさんはそう言うと、昨日買ったマントを脱ぎ始めた。


「ミレーゼさん。シフォンさんが戻ってきました」


「嘘っ! 本当に1kmも先だったのっ!」


「ええ、間違いありません」


「さぁあ、ミレーゼ、再開よ」


 戻ってきたシフォンさんがそう言うと、アゼルさんは、シフォンさんを抱き上げ、地面に降ろした。アゼルさんって優しいのか冷たいのか、たまにわからなくなるよね。


「シフォンさん、どうでしたか?」


「ゴブリンソルジャーとゴブリンメイジだったわ。たぶん、東の山への移動中ね。でも、この魔法袋、借りてていいの?」


「ええ、その魔法袋なら量が入りますから、シフォンさんが持っていてください」


「ゴメンね。大事な袋なんでしょう」


「サタン様から頂いたものですから、大事にしていますが、使わないと意味ないですからね」


「ありがとう。大事に使うわ。ところで、ミレーゼ。あなた、何、マント脱いでいるのよ。あのマント高級品だから、保温機能も付いているのよ。体が火照ってたあとに着直したら、地獄よ」


「だって、動き難いんだもん」


「まぁあ、初日だし、大目に見てあげるわ。でも、明日からは必ず着るのよ」


「わかったわ……」



 その後もシフォンさんが魔物の討伐に向かうときだけ、ミレーゼさんが休憩しつつ、馬を走らせ続け、お昼休憩を向かえた。


「さぁあ、ミレーゼ。馬の世話をするわよ。来なさい」


「えええぇぇっ!」


「何言ってるのよ。冒険者の基本よ。もちろん、商人の基本でもあるのよ」


「だって、私、馬車に乗ってないのよ……」


「私達は、パーティなのよ。パーティは、みんなで1つなの。ケイ君達は、私達の鍛錬に付き合ってくれているのよ。馬の世話ぐらいして当然なの。さぁ来なさい!」


「わかったわよ……」


 シフォンさん、スパルタだね。でも、ミレーゼさん。文句言いながらもちゃんとやっているし、獣人系種族って、基本性能が違うのかな。



 昼食後、まだ3月なのに、この場所が地理的に南にあるせいなのか、日差しが強くなり、気温がどんどん上がっていった。


「暑いっ! もう無理っ!」


 シフォンさんが魔物の討伐に行っている間の休憩中、ミレーゼさんはそう叫ぶと、上着とズボンを脱いだ。上はノーブラでタンクトップ、下はパンツ。そして、膝下のブーツ。……シュールだ。


 ミレーゼさんが走るのを再開すると、まだ行き交う人が多いため、人間族の男達に好色な目を向けられているにも係わらず、ミレーゼさんは気にする余裕もないようだ。



「えええぇぇっ! なんで私、こんな格好で走っていたのよっ! 誰か教えてよっ!」


 日が傾き、野宿をするために馬車を停め、しばらくすると、ミレーゼさんが叫んだ。……うん、そう。やっぱり恥じらいがないと萌えないんだよね。


「だから、言ったでしょう。私達は種族的に高い気温に弱いんだから、保温機能付きのマントを着ているほうが涼しいのよ。わかった。明日からはちゃんと着るのよ」


「うん、わかった……」



 それから10日が過ぎ、目的地である東の山の麓へお昼前に着いた。シフォンさんはまだわかるけど、ミレーゼさんも走りきった。それも、最後のほうは、シフォンさんが魔物の討伐に向かっても、休憩をせず、走り続けていた。


「さぁ、おいでぇ!」


 ミレーゼさんは、何も言われなくても馬の世話をするようになっていた。教育という名の洗脳って怖いね。


「今、お昼時だし、情報収集は昼食後にしましょう」


 馬の世話から戻ってきた、シフォンさんがそう言った。


「お昼時はわかるのですが、この人達は、なぜこんなにここに集まっているのですか?」


 山の麓で少し開けた場所になっているので、休憩場所としてはいいと思う。でも、今、来た街道の通行量から考えると人や馬車が多いような気がする。


「ああ、それはね。山を越えるために、人が集まるのを待っているのよ」


「どういうことですか?」


「普通、山を越えるとき、冒険者は気配を隠して、見つからないように移動するわよね」


「はい、そうですね。学園でもそう習いました」


「でも、それは戦闘能力が高い冒険者だからできることなの。アゼルは別だけど、普通の商人はそこまで戦闘能力が高くないよね。だから、大きな集団で移動するほうが、安全だという考え方をしているの。……表向きはね」


「裏があるのですか?」


「そうよ。実際は、誰かが襲われたら、それを捨て駒にして自分達が逃げるために、不特定多数の集団で移動するの。まぁ自分が生き残る可能性を上げるための、商人の知恵ね」


 捨て駒がいれば、1人や少人数で移動するよりも、生き残る可能性は上がるね。でも、自分が捨て駒になるかもしれないから、互助関係にあることは間違いないのか。



 食事の用意ができたので食べながら、話すことにした。


「ミレーゼさん、少し聞いてもいいですか?」


「なによっ!」


 いつものことだけど、なんで喧嘩腰なんだ……


「はい、この10日間、平均して1日50kmほど、移動してたと思うんですけど、前世で、何かスポーツとかしてたのですか? 獣人系種族とはいえ、まったく運動もしたことのないミレーゼさんが、走りきれる距離ではないと思うのですが」


「ふふん。よく聞いてくれたわ。私は、前世で毎日10km走っていたのよ。そう雨の日も風の日も。体型を維持するために、走り続けたわ。……なのに、誰も振り向いてくれなかったのよっ! どうしてよっ! 他にも、外国語や料理、お花に、お茶、エステ、メイク、ネイル、考えられるかぎり何でもやったわっ! ――――」


 ずっとミレーゼさんの話が続いているが、なぜだろう? 最初は自慢話だと思ったのに、愚痴に変わってしまった。


「女子高生って、大変なんですね」


 面倒臭くなったので、そう呟いてみた。


「えっ!……あっ……そ、そうよっ! 女子高生の基本よっ!」


 実際、女子高生でも、頑張っている子はいたからね。


「さっ、そろそろ、片付けて行きましょうか」


 シフォンさんが上手く仕切ってくれた。さすがお母さんだね。娘のことが良くわかっているみたいだね。



 山の監視のため、ギルドから依頼を受けた冒険者がいると聞いていたんだけど、すぐに見つかった。派手な革の鎧を装備したスキンヘッドのデブとひょろ長いモヒカンの2人組だ。あきらに人相が悪く、堅気には見えない。きっと冒険者だろう。でも、間違いなく良い人達だと思う。だって、小さな子供達と遊んでいるから……


 俺達が近づくと


「ごめんな、おじさん達、仕事なんだ。また、後で遊んでくれよな」


「うん、わかった」

「おじさん、また後でね」

「おお、また遊んでやるよ」


 スキンヘッドのデブがお願いすると、子供達は口々に挨拶をして離れていった。



「おおっ! お前等っ! 何の用だっ! ここは、女子供の遊び場じゃねぇんだっ!」


 スキンヘッドのデブが声を上げ凄んできたが、思いっきり子供と遊んでいたよね。


「すみません。冒険者ギルドの依頼で来たのですが、馬を預かって頂けませんか?」


「っていうか、兄ちゃんら、本当に、女子供じゃねぇかっ! 大丈夫なのかっ! そっちのちっさい娘なんて、素人だろっ!」


「誰が、貧乳よっ!」


「スマン。でも、貧乳かどうかは、マントを着ているからわからないぞ」


「あっそれもそうね。ごめんなさい」


 ミレーゼさんも一応160cm近くあると思うんだけど、デブのおじさんから見れば、小さく見えるのだろう。それに、おじさん達、さっきと違って、本気で心配してくれているようだ。本当に良い人達だね。


「これ、エルバートさんからです」


 エルバートさんから預かった手紙を、デブのおじさんに渡した。


「おお、わかった。…………なるほど、兄ちゃんら、期待できるんだな」


 結構、長い文章だった思うんだけど、おじさん、読むの速いね。きっと、頭もいいのだろう。


「はい、最善を尽くすつもりです」


「ああ、それでいい。だが、依頼よりも、兄ちゃんらの命のほうが大切だ。忘れるなよ」


 見た目は厳ついのに、いい人過ぎるだろう。


「ありがとうございます。……ところで、現在の状況を教えてもらえますか?」


「そうだな。周辺からこの山に魔物が集まっているのは、間違いないんだ。だが、魔物が山頂付近に集まっているのか、洞窟に入ってしまっているのか、わからないんだが、気配を感じないんだ。俺達は、斥候を専門にしているから、索敵には、自信があるんだがな」


 いやいや、可笑しいよね、その派手な容姿っ! どう見ても、斥候の容姿じゃないよねっ!


「ケイ君、どうなの?」


 シフォンさんに聞かれて、“探知魔法”を全方位から、方位を限定し索敵距離を伸ばしたが……変だ。


「はい、普通じゃありません。ここから10km程度の範囲ですが、小動物は別にして、山に魔物はもちろん動物すら居ません」


「おい、兄ちゃん。10kmってなんだ!?」


 おじさんが焦ったようすで聞いてきた。


「ああ、“探知魔法”ですが、俺の限界点です」


「マジかっ! 俺ら、いらねぇじゃねぇかっ!」


「いえいえ、そんなことありません。何か異変を感じたら、すぐにギルドへの報告をお願いします」


「あっそうだな、わかった。……で、どうする。すぐに行くのか?」


「……シフォンさん、どうしましょう」


「そうだね。夜に動こうか。ケイ君の“探知魔法”あれば、夜のほうがこちらが有利だと思うの。それに、一般人を巻き込む心配が少なくなるからね」


「そうですね、では、一旦、休憩して夜に備えましょう」


「良い判断だ。さすが、エルバートさんに推薦されるだけのことはあるな」


 俺とシフォンさんの会話を聞いていたおじさんが褒めてくれた。


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