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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第13話

 俺達5人は、冒険者ギルドアイリス支部の受付のお姉さんの案内で、事務長のエルバートさんの部屋に通された。


「やぁ、シフォン。久しぶりだね」


 部屋に入るとエルバートさんが、シフォンさんに気安く声をかけてきた。


「そうね。エルバートも元気そうね」


 シフォンさんも気安く言葉を返している。昔からの知り合いみたいだね。


「ごめんね、ケイ君達まで来てもらって。まずは、みんな、座って。お茶を用意するよ」


「いえ、すみません。失礼します」


 エルバートさんにソファ席を勧められて、俺を挟んでマリアさんとアゼルさんが座り、その向かいにシフォンさんとミレーゼさんが座った。



 お茶を用意してくれたエルバートさんがお誕生日席に座り、話が始まった。


「まさか、ケイ君の知り合いが、シフォンだとは思わなかったよ」


「シフォンさんとは、昔からお知り合いだったのですか?」


「知り合いというか、私のほうが、一方的に知っていただけだよ。シフォンは、奴隷落ちする前、シャルロットと並んで、Sランクの有力候補だったからね」


 えっ! シャルロットって、豹人族のシャルさんだよね。それに、シフォンさんがSランクの有力候補? まぁAランクだし、可笑しくはないか。


「何を言っているのよ、エルバート。あなただって、立派なSランク候補だったじゃない。Sランクにはもうなれたの?」


「私はまだ無理なんだよ。あと1人なんだけどね。だから、ケイ君に期待してるんだ。ケイ君、Sランクになったら、推薦頼むよ」


「いやいや、あと1人なら俺がSランクになるよりも先に、エルバートさんのほうがなれるでしょう」


「いや、そんなに甘くないんだよ。あと1人のところから何年Aランクをやっていると思っているんだ。もう8年だよ。それに心当たりもないしね」


 結構、大変なんだね。


「ところで、エルバートはまだ無理っていうことは、シャルはSランクになったの?」


「そうだよ。シャルロットは、Sランクになったよ。もう12年ぐらい前になるのかな。彼女は賢かったね。あんなに人に頭を下げるのが嫌いなのに、マーガレット様の商隊に入ったからね」


 ああ、マギーさんの商隊。たしか、そこでアゼルさんとシャルさんは出会ったんだよね。


「えっそうなの! あのシャルがね。時間が経つと、人って変わるものね」


「そういう君こそ。凄く変わったじゃないか。昔はこんな気安く話してくれなかったのに。やっぱり、子供を生むと変わるのかい。その子、シフォンの娘だろ? よく似ているね」


「そうよ。ミレーゼっていうの。まだ何もできないし、人間族とのハーフだから、どこまで強くなれるかわからないけど、何かあったらお願いね」


「ああ、わかっているよ。……ミレーゼさん。私はエルバート。何かあったら、私に頼ってくるといい。力になるよ。宜しくね」


「ありがとうございます、ミレーゼです。宜しくお願い致します」


 ミレーゼさんは座ったままだけど、丁寧に頭を下げ挨拶をしていた。……本当、ちゃんと教育は受けていたみたいだね。前世の記憶かもしれないけれど。


「あのう、ちょっといいですか?」


「もちろんだよ。どうしたんだい、ケイ君」


 俺が声をかけると、エルバートさんが快く返事をしてくれた。


「今、話に出ていたシャルロットさんって、Sランクで豹人族のシャルロットさんですか?」


「そうだよ。あっそういえば、ケイ君の推薦人にシャルロットも入っていたね」


「えっ! ケイ君、シャルも知り合いなの!?」


「はい、俺の体術の師匠です」


「じゃあ、あの子、今、どこに居るか知ってる?」


「たぶん、アーク学園で教師をしていると思います」


「ええっ! あの子、教師なんてできるのっ!」


「ええ、なんとかやっていると思います」


「だから、知り合いだったのね。でも、まぁいいわ。元気にやっているのなら」


 シャルさんことは、教師をやる前から知っているんだけど、今はいいだろう。


「シフォンさん、シャルさんと仲が良かったのですか?」


「そうね。どちらかと言えば、仲が悪かったわね。幼馴染なのよ。あの子の集落と私の集落が近くてね。私があの人に出逢うまで、パーティも組んでいたのよ。それもあるから、あの子は、私の事、良く思っていないと思うわ」


 何させてんだよっ! バカ親父っ! 幼馴染の仲を裂いて、どうするんだよっ!


「すみませんでした」


「どうして、ケイ君が謝るの?」


「俺の父のせいで、シャルさんとの仲が……」


「まぁあの人のせいではあるけど、ケイ君のせいではないわ」


 やっぱりバカ親父のせいじゃないかっ! まぁ会ったこともないから、どうしようないけどね。


「へぇ~そうだったんだ。シフォンの想い人は、ケイ君のお父さんだったんだね」


「あぁ、エルバート。他所ではあまり言わないでね」


「わかっているよ。私もまったく事情を知らないわけではないからね」


「それもそうか。ギルドの事務長だもんね。ゴメン、恩に着るわ」


「ホント、変わったね、シフォン。君が頭を下げるところなんて、初めて見たよ」


「ホントね。いつからなんだろう。あっ昨日よっ! 昨日、ケイ君に会ってからだわ!」


「これは、ケイ君のこと、益々期待ができるね。現役最高のSランクも夢じゃないんじゃないかな」


 エルバートさんが感心しながら、そう言ってくれたけど、


「Sランクの中に強さを表す基準とかあるんですか?」


「ないよ。Sランクは規格外だからね。でも最高は会えばわかるからね。自ずと決まるものなんだよ」


 そうか、最高であって最強ではないのか、それに現役って付いているしね。


「ちなみに、現役最高のSランクって、誰なんですか?」


「何言ってるのよ、ケイ君。あなたの婚約者じゃない」


「えっ! ケイ君、ベル様と婚約したのっ! じゃあ、ケイ君が最高じゃないかっ!」


「そうね。ケイ君、まだCランクだから、現役最高の冒険者ね」


 なんだろう、バカにされているような気がするんだけど、ベルさんもバカにされていたのだろうか。ちょっと否定できないのが、悲しいよね。


「邪魔をして、すみませんでした。俺のことはもういいです。続きをお願いします」


「そうなのかい。ケイ君の話、楽しいのに。まぁあ、本題に戻ろうか」 


「そうね。お願いするわ」


「シフォン、申し訳ないんだけど、1つ、ギルドが指定する依頼を受けてくれないか。君が冒険者を離れてから時間が経ち過ぎてね。そのまま、Aランクのタグを渡すわけにはいかないんだよ。こればかりは、私でもどうしようもなくてね」


「仕方がないわ。私が奴隷落ちして、もう16年経つからね。でも、私、奴隷よ。ケイ君と一緒でないとこの街から出ることができないわ」


「わかっているよ。ケイ君とマリアさんのBランクへの昇格試験も兼ねることになった。もちろん、アゼルさんの参加も自由だよ。ミレーゼさんは申し訳ないけど、この街で待機してもらうことになるかな。費用はギルドで持つよ」


「ちょっと待って。私が冒険者の申請をしたのは、ついさっきよ。なんで、そんな都合のいい依頼があるのよ。それに、たしか……マリア!」


「はい」


「あなた、たしか、Cランクなったばかりよね。ケイ君は、もうBランクへの受験資格を持っているって聞いたけど、あなたは、まだなかったはずよね」


「はい、そうです」


「可笑しくない。それに、アゼルを参加自由にすれば、ついて来るのはわかって言ってるわよね。あと、ミレーゼがこの街に待機することが決まっているみたいだけど、それって、相当危険な依頼じゃないの。私、1人なら構わないけど、この子達を危険に晒すのは嫌よ」


「さすが元Aランクだね。素晴らしい洞察力だよ」


「試したの!?」


「違うよ。試すのはこれからだよ。まず、聞いて欲しい。この依頼は、元々Sランクの依頼なんだ。この街から海側へ抜ける東の街道を10日ほど行くと、山越えの山道があったのを憶えているかい?」


「ええ、結構、険しい山だった思うわ」


「その通りだよ。その山に、ぬしが誕生した」


「それって、本当なのっ!」


「ああ、ずっと未確定だったんだけど、周辺の森や山から魔物が集まり始めている。もう確定と言っていいだろう。あそこの山を押さえられると、この街の死活問題に発展する。それは、理解できるよね」


「そうね。それで?」


「今回は、山の主の調査を依頼したい。もし、主がAランク以下場合は討伐してもらっても構わない。でも、わかっているとは思うけど、Sランクの場合は、絶対に手を出さず、報告に戻ってきて欲しい。君達が死ぬだけでは済まないからね」


「なるほど、Sランクの依頼の場合は、その討伐も含まれるのね」


「その通りだよ。どうかな、受けてくれないかな。こんな依頼、受けてくれる冒険者、今、このギルドには居ないんだ。急がないと、ギルドマスターが突っ込みそうで怖いんだよ」


「ここのマスターって、今もパウロさん?」


「そうだよ。あの“死にたがり”だよ」


 “死にたがり”って、酷いあだ名だね。意味がわからなくもないけど……


「ちょっと、考えさせて」


「わかった。その間に……ケイ君、何か聞きたそうだね」


「はい、俺達がこの街に来る途中の森で、魔物の群れに襲われ続けたのですが、それもその山の主の影響なんでしょうか?」


「えっ! ちょっとそれ詳しく聞かせてくれるかな。ケイ君達は、北から来たよね。その森って、北の街の北側に広がる北の森だよね?」


「はい、そうです。ここまで馬車で2週間ほどかかりました」


「う~ん、どうなんだろう、かなり距離があるからね。もしそれが今回の主の影響なら、確実に主はSランクだね。何か心当たりはない?」


「それが、北の街の冒険者ギルドで、俺達が移動したから、偶然が重ねって、森の外延部まで、魔物が移動したのではないかと言われました。その後、検証したのですが、アゼルさんが“火魔法の身体強化”を使うと、かなりの範囲の動物や低ランクの魔物が俺達から離れていきました。ですから、可能性としてはありえると考えていました。北の森では、何度も魔物に襲われ続けましたので、アゼルさんは、常に“火魔法の身体強化”を使っていましたからね」


「たしかに、高ランクの冒険者や魔物が移動すると、生態系が変わるのは良くある話だからね。今回も同じだよね。山の主が生まれたから、生態系が変わっているんだけどね。でも、良く調べているよね。ケイ君の事だから、北の街を出てから街道沿いの魔物をコントロールしながら、ここまで来てくれたんだろう」


「はい、そうです」


「もし、ケイ君達が北の森で魔物に襲われ続けた原因が、今回の山の主だった場合、今、北の街道の安全を確保できているのは、ケイ君達のおかげだね」


「そうなんですか?」


「すべて仮定の話だから何とも言えないけどね」


 そうだよね、すべて仮定の話だったね。


「あと、もう1ついいですか?」


「もちろんだよ。何でも聞いてね」


「山の主がSランクだった場合、俺達が死ぬだけで済まないっていうのは、どういうことですか?」


「そうだね。山の主が山に居るだけなら、この街と東にある街との物資や人の移動が困難になるだけなんだよ。でも、Sランクの魔物は、大概、知性をもっているからね。討伐に失敗して怒らせた場合、報復に来るんだよ。そして、あの山から狙われるのは、確実にこの街なんだ。近くに大きな街がないからね」


 なるほどね。……そういえば、クロエさんは、黒龍の森の主だったね。いや、クロエさんは、ベルさんが主だと言ってたっけ……まぁどっちでも一緒か。


「いいわ。受けるわ、その依頼。ケイ君達もいい?」


 ずっと黙って考えていたシフォンさんが決断したようだ。俺達は、黙って頷いた。


「ただし、ミレーゼも連れていくわ」


 今まで、ずっと悲しそうにしていたミレーゼさんの顔が、シフォンさんの言葉を聞いて急に笑顔に変わった。やっとお母さんと一緒に過ごせるようになったのに、また1人お留守番は寂しいよね。


「いいのかい、シフォン。かなり危険だと思うんだけど」


「ええ、悪いけど、そこまであなた達を信用することができないの。それに、今の話も聞いていたけど、ケイ君達は、想像以上に使えそうよ。あなたもそう思うでしょう」


「たしかにそうだね。それに、私達は、君の想い人に協力することはできないからね」


「ええ、別に恨んでもいないから、気にしないで」


「すまない。……じゃあ、条件について話し合おうか」


「えっ! 条件について話し合うって、どういうこと?」


「だって、シフォン。君、お金を持っていないんだろう。ケイ君は持っているようだけどね。私の権限を使ってできる限りのことはするよ。こんなことしかできないけどね」


「ありがとう、エルバート」


 エルバートさん、やっぱり良い人だね。立場上、いろいろあるとは思うんだけど、シフォンさんや俺達のこともちゃんと考えてくれているんだね。


 ……なーんて、思えたのは最初だけだった。


 細かい。本来、冒険者が持つべき、装備、食費、薬などの備品の経費、すべて、上限一杯までギルドで出してくれるようになったんだけど、それぞれ契約書が違う。それも、エルバートさんにすべて任せますと言っても、聞いてくれない。ちゃんと読んで理解するまで、サインをさせてくれなかった。他にも、山の主を見つけるまでに出会う可能性のある魔物の討伐に関しても、魔物の種類によってすべて契約書が違った。もちろん山の主に関しても、事細かく取り決めがなされた。結局、すべての契約を終わらせるのに、5時間ほどかかった。たぶん、成功、失敗を問わず、依頼終了後は、もっと時間がかかるのだろう。


 このくらいきっちりしているから事務長という役職についているのだろう。すべて、シフォンさんや俺達のためだし、ありがたい話なんだけどね。


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