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始まりは災禍の予兆から2

深々とした空間の中で、なにかを書き取る音が響く。スフィア=サンライトはマリの頼みを引き受け、学校内の自習スペースで勉強を教えていた。周囲の生徒も必死に勉学に励んでいた。


「はぁ〜疲れた〜」

「意外と長くもったわね」

と言っても小一時間。この程度じゃ全然追いつけないだろう。


「涼しそうな顔…羨ましい」

「才能の違い…じゃないかな…?」

「うぅ…」


冗談で言ったら本気にされてしまったようだ。


「じゃあ帰ろっか」

外を見るともうすでに陽が落ちかけていた。校舎から出ようとしたとき、冷たい風が吹いた、気がした。


「冷えるね」

「そうだね。早く帰ろスフィアちゃん」

マリが、せかせかと歩き出す。


校門から外を出ようとしたとき、一際と冷たい強い風が吹いた。とっさに髪をおさえる。


「ん…?」

今、誰かいたような。自身の髪で良く分からなかったけれど、長い緑色の髪をした男性が校舎内に入っていくように見えた。


「風、強かったね」

「………」

「どうかしたの?」

「誰か居たような気がして…」

「誰か? そんな感じはしなかったけど…。疲れてるんじゃないの?」

「マリのせいね」

「……すみませんでした」

……気になるな。私の直感がそう言っている。


「ちょっと探してみる…!」

「スフィアちゃん!?」

彼を追うようにして私も校舎内に入った。


感知魔法を使って気配を追っていく。そんなに得意な部類の魔法じゃないから、ぼんやりとしかわからないけれど。人気を追っていくと学校の近くの森にでてきた。


「ここで反応が消えてる…」

隠れている。たしかにここにいるのだ。それだけは、はっきりとわかっている。敵という確証はないけれど、いざというときに備えて魔力を高めていく。用心しておくことに越したことはない。


「はぁ…はぁ…。待ってよ、スフィアちゃん」

「マリ、なんで着いた来たのよ」

「だって、スフィアちゃんのこと心配だったし」

「だからって…」

スッと影が近寄る。


「えっ…!」

とっさに扇を構え防御姿勢を取った。

グサッと何かが刺さる音が聞こえた。吹き飛ぶ赤い液体。血なまぐさい匂いが辺りに広がる。血…?


「スフィア…ちゃ…」

ばたりとマリが倒れる。


「マリ!!」

息をしていない。心臓も止まっている。なにこれ。辺りにはおびただしい量の血が広がっている。マリが死んだ? 死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。



「うわああああああああっ!」

叫び声をあげた。涙と同時に溢れでた魔力が周囲の木をざわつかせる。

許せない。私の大切な友人をよくも……!!


「誰なのよ!!! 出てきなさいよ!!!!」

現れる一人の男。緑色の長い髪をした一人の男。先ほど、校舎内に入っていた奴と同じ色の髪…。手には彼の身長と同等の長さの大剣が握られていた。こいつ…こいつがマリを……。


「あんた…。よくも…よくもやってくれたわね……!!!」

「だったら、どうした?」

「あんた…許さない……絶対に!!!」


足下に魔方陣が浮かび上がる。周囲の熱を球形に生成する。

「飛べ! 炎の魔弾! フレイムショット!!!」

扇を振り炎の弾を放つ。


「甘いな」

大剣で切り払われる。流石に1発じゃ倒せないか。


「これでぇぇぇっ!!!」

続けざまに撃ち続ける。こいつだけは絶対に許せない!!

絶え間なく続く爆発で周囲が煙につつまれ温度が急激に上昇する。これなら傷ひとつくらいつくはずだ。


「こんな程度か?」

別方向から声が聞こえた。奴が後ろに立っていた。

このままじゃ殺られると私の勘が告げている。

明らかに戦闘になれている。/////しかも、おそらく指揮官クラス…。

落ち着け。冷静になれ。状況を把握しろ。

ゆっくりと深呼吸をする。

そして、あることに気づく。校舎のあちらこちらで煙が上がっていることに。


「これは…。あんた、もしかして…」

「ハハハッ、気づいても遅い。ここはもう終わりだ」

「………」


こいつだけは絶対に許さない。私の友だちを……、それに大切な場所を奪ったこいつを。


「怖くて声も出ないのか?」

「怖い…? そうかもしれない…。しれないけど!」


奴の足下に魔方陣を浮かび上がらせる。

「燃やせ! バーストエンド!!」

魔方陣が光りだす。


「ほぅ」

一言発し魔方陣から抜け出る。魔方陣から炎の柱が吹き出る。単純な攻撃方法だけはダメか。それなら……。


「感心する余裕なんて与えない……!!」

逃げる先を追うように魔方陣を形成していく。しかし、奴は軽く左右前後と避け続ける。いつしか焦げた匂いが漂っていた。


「殺すには惜しいな。魔力も高く、扱いも悪くない。だが…」

その言語と同時に奴が消えた。必死に探すが見つからない。


「どこに…」

「戦闘経験が圧倒的に足りていないな。もらうぞ、貴様の命」


気づいたときには遅かった。奴は私の目の前にいた。振り下ろされる剣。回避行動をとるか、防御行動をとるか、その選択肢さえ与えてくれなかった。


視界が真っ赤に染まった。


腕から胸にかけて痛みが広がる。痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

友だちも守れず。大切な場所も守れず。なにがSランクよ。こういうときのための魔法じゃないのか。


「浅かったか。だが」


再び奴が大剣を私に向ける。ここまでか…。ごめんね…マリ……。

諦めかけて私はそっと目を閉じる。


どこで間違えたんだろう。

あのとき追わなければ。あのとき反応が消えたときに諦めて帰っていたら。

あのとき、あのとき、あのとき…。あぁ、後悔しているのか。

後悔しながら死ぬ…それだけは嫌だ…。死にたくない…。


バンッ! バンッ!


2発の銃声が響く。援軍? いや、この状況で援軍なんてありえないわけじゃないけれど…。


「大丈夫!?」


一人の青い髪の少年が立っていた。手には黒色の魔法銃が握られている。


「…あんた、どこの人」

少年は、きっ、と奴を睨み正面に対峙した。


「言うと思っているのか?」

「……大体の予想はついてる。公国の人間だろ?」

公国? じゃあ、これは。この攻撃は……。


「だったら、どうするんだ?」

「僕は、あんたを許さない」


少年が魔法銃を構える。ダメだ、このままじゃ二人とも共倒れになる可能性が高い。


「ダメよ……。殺られる…わよ…。あんただけでも…逃げなさい……」

「僕だけ逃げるなんてできない」

「なんで…」

「怪我をしている女の子を放っておけないでしょ?」

なにこの人……。でも、不思議と悪い気はしなかった。


「良い雰囲気なのを邪魔して悪いが、お前たちを逃がすわけにはいかないな。ここで消えてもらう」

「……そう簡単にはやらせない」


このままじゃ、彼も私も死ぬ。このままでは。だったら……やるしかない。痛みで集中できるかわからない。けど、やるしかないんだ。もう後悔なんてしたくない。


「ねぇ……あなた…」

意を決する。みんなの仇さえとれれば私はどうなってもかまわない。


「なに?」

「ちょっと…時間を稼いで」

「そんな身体で…」

当然の反応をされる。


「一発…ぶちかまさないと気がすまないのよ……」

「…………」

「作戦会議は終わったか? もっとも…その作戦の意味はなくなるがな」

奴が臨戦態勢をとる。これ以上は待ってくれないか。


「6分……いや、4分で良い…から…」

「くっ、わかったよ……」

少年が二丁銃を構える。私も魔力を集中する。私の中で最高の魔法をぶちかましてやる。


銃撃が開始される。奴は全てを剣で受け止めるつもりのようだ。


「普通の弾丸じゃ無理か。なら、これでいくよ。

バレットセット…いけ! アクアバレット!!」


高圧の水弾を放つ。私のフレイムショットと同系統の魔法か。


「ハッ!」

剣で切り払う。


「銃弾を剣で斬った…!? だったら…!!」

少年の周りに、風が起こる。2種類の魔法……!?


「貴様、2種類の魔法を使えるのか?」

「珍しいの? これが僕の強みさ。これは斬れないよ!

飛べ、風の銃弾! ウインドバレット!!」


銃から何かが発射されたような気がした。いや、何かを撃ったんだ確実に。


「ほぅ見えない弾丸か。ならば避けるだけだ」

左右に素早く切り返しながら少年に近づく。


「近づくの読めてる。風よ! 断ち斬れ! ゲイルスラッシュ!!」

「2段構えか…!」

目には見えない風の刃が奴に襲いかかる。腕と脚に切り傷がついた。

風と言うよりは真空波か。奴の周りに風の渦ができている。


銃で誘ってからの強力な魔法攻撃…。この人、上手い…。


「驚いたな。まだ子供なのにやるじゃないか」

「魔法領域内で、そんな台詞がでるなんて随分余裕じゃないか」

「抜け出るのは簡単なことだ。風を切り裂けば良いだけの話だ。

だが、次の手がある。だろ? おそらくは、切り裂いた直後に水魔法による攻撃を行う」

「わかっているじゃないか」


この二人…戦いを楽しんでいる?

少年の方はわからないけれど、奴の方は楽しんでいるように見える。


「このまま貴様の領域にいては、少しずつダメージをもらうな。どうしたものか」

わざとらしく言う。まだ余裕があるようだ。


「まだなの…!?」

彼が小声で言った。彼の方は余裕がなさそうだった。これはちょっと急がないと本当に不味い…。


「……あと少し…」

もう少し。本当にもう少し。痛みさえなければ、ちょっとの時間で使えるのに……!


「わかった」

彼の返事はとても力強かった。


「思ってたよりやるな。それに2種類扱えるとはな。殺すには惜しい」

「……:お褒めに預かり光栄だね。三機将リバイス=ナハト」

「知っていたのか」

「公国の中でも、とりわけ優秀な力を持つ3人の将軍。そのうちの一人」

三機将…? そんなやつが、こんなところに…?


「僕も気がついたのはついさっきだ。こんなところで、しかも刃を交えられるなんて思ってもみなかった」

「心、踊る。そんな感じだな」

笑っているように見えた。それだけ、彼との戦いは面白いということか。


「そんなわけないだろう。僕は今、怒りで戦っている。仲間を殺し、傷つけたあなたを許せない」

「憎しみで戦うか。面白い」

よし、準備は整った。見せてやる、私の本当の力。彼がいる前では見せたくなかったけど…。


「君、下がって!!」

「う、うん!」

「いくわよ…!!」

私の瞳が、真っ直ぐに奴をみつめる。

普段の紅い瞳から、白い瞳に変わった眼で。


「その眼……。貴様、魔女の血統か」

「えっ!?」

突然のことで動揺してしまった。……魔女…。

いや、今は気にしちゃダメだ…。


「フフフ……ハハハハハハ! これは面白い!」

「なにが可笑しいのよ!」

「こんなところで魔女の血統に会えるとは思ってもいなかったぞ」

「余裕をかましている暇はないわよ…!」

手を開き奴に向け、魔方陣を浮かび上がらせる。


「目的変更だ。その眼を奪わせてもらう」

「なにを言って…!!」

私が言い終わる前に奴が動き出す。一瞬の出来事だった。

目の前から奴が消えたのだ。


「スフィアさん!」

彼が私の名前を叫ぶ。


「フッ」

奴が目の前にあらわれる。そして……奴は私の眼に手をかける。


「くっ、ああぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

眼に激痛が走る。何百本もの針を刺されている感覚。


「この状態じゃ、狙えないか…」

「貴様は、おとなしく見ているんだな」

「くそっ…!!」


「ああぁぁぁああああああぁぁぁぁぁっ!!」

痛いという叫び声にすらならない。


くそっ……。痛い。だけど……だけど…!!


「星の…瞬きよ……」

「この状況で呪文詠唱だと…?」

「その…聖なる輝き……」

必死の思いで魔方陣をつくり上げる。


「すべ…てを焼きつくす…雷となれ……」

痛みで消えそうになる。今が絶好の機会なんだ。

気を抜くと壊れそうになる。折れちゃダメだ。


「グランド…クロス!!!」


4つの光の刃が、魔方陣を中心に現れる。光の刃を操作し上空にあげ、一気に振り下ろした。私もろとも。さらなる痛みが私を襲う。それは奴も同様である。


「くっ…」

奴が私から離れる。意識はある。私は、まだ死ぬほどのダメージを受けていないということか。


「大丈夫?」

彼が私に近寄る。心配そうな顔をされると逆に困る。


「片目を……持って…いかれた…。だけど、今なら…」

「くっ…。捕まって」

彼は私を持ち上げ、走りだした。そこで私の意識は途切れた。



「まだ、あれだけの力を残していたとはな。

逃がしたが、まぁいい。良いものを手に入れることができたからな」

奴の笑う声が聞こえた気がした。



次に私が気がついたときは、すでに太陽も沈み、真っ暗になっていた。

眼の痛みは消えていた。そっと手を当てる。包帯の感触が伝わってきた。


「気がついた?」

「眼の痛み…君が?」

「応急処置だけどね」

彼は、はにかむ笑顔で答えた。


「そう…ありがとう…。あたしはスフィア」

「スフィア=サンライト…でしょ?」

「知ってたの…」

「有名だよ。魔法学校ではね」

それもそうか。ということは彼もこの学校の。

朝、マリが言っていた人というのは、もしかして彼かもしれないなと思った。


「僕は、アルマ=ルーン。よろしく」

アルマ。彼がいなかったら私は今、ここにはいなかったのかもしれないな。


「ありがとう、スフィアさんの魔法がなかったら、ちょっとダメだったかも」

「負けたくなかっただけ。それに、私も同じよ。君がいなかったら私もダメだった」

そう。彼は、ちょっと照れているようだった。


「とりあえず、今はゆっくり休んで」

「そう…させてもらうわ…」


私は再び目を閉じた。


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