御子柴君とお話
「すーずっきちゃん、あーそーぼ!」
能天気なほど明るい声にクラスがざわつく。無理もない。超能力者、それも風紀統括委員が一般生徒のクラスに訪れるなんて普通はありえないから。
頭痛と眩暈に足元がふらつく。何をしにきた御子柴蓮!
廊下とを繋ぐ窓からひょっこりと顔を出した頭では綺麗な金髪が揺らめいていた。
「玲奈ちゃん、呼んでるよ?」
心配そうに小さな声で美羽ちゃんが御子柴くんを指す。うん、わかってる、わかってるけど!無視できないかな?
「おーい。鈴木ちゃーん?」
「……何でしょう?」
不安そうにクラスメイト達に見つめられ仕方なく返事をする。それに御子柴くんが嬉しそうに笑ったからか、途端に教室を安堵の空気が包んだ。
まぁ御子柴くんがどんな能力を持ってるかは秘匿されてるし不安になるよね、そりゃあ。
「鈴木ちゃんと遊ぼうと思って」
「何故ですか?」
「何故ってそりゃ仲良くなるためでしょ」
「別に仲良くなる必要は」
「えー、昨日言ったじゃん!仲良くなったら名前を教えるゲームをしようって」
断じてそんなことは言ってない。
「とりあえずさ、話すしかないと思って」
「だからって放課後すぐに押しかけなくても……」
「逃げるでしょ?」
「…逃げませんよ」
「うん、逃げるね」
勉強は人並みにしかできないくせに、やたらと頭の回転は速いんだよなぁ、御子柴くん。
「とにかくこっちおいでよ。隣の子も一緒にさ」
その言葉に隣を見れば、不安そうに瞳を揺らす美羽ちゃんがいた。
「どうする?」
「ちょっと、わかんない」
「うん、だよね。…ということで御子柴くん。せっかくだけど遠慮しときます」
「そっか。じゃあ俺、何かすごいことしちゃうかも」
一瞬教室がざわめく。皆の息を呑む音が端的に不安を表していた。
恐る恐る御子柴くんを窺うと、やはりというか、軽薄に見える笑顔を浮かべている。それがまた怖い。御子柴くんは笑って手も下せちゃう、そんな人だ。
「……冗談ですよね?」
「冗談だよ」
ようやく絞り出せた声に、相も変わらず軽薄な笑顔で御子柴くんは返す。
「私一人でもいいんですか?」
「もちろん。そんなに俺と二人っきりがいいんだ?」
「かもしれませんね」
「ふはっ。嘘くさ」
心配そうにこちらを窺う美羽ちゃんに笑ってみせて、私は御子柴くんの元に歩を進めた。
そういえば御子柴くんは同じ年だったなと、一年の教科担任について愚痴る御子柴くんを前に思う。
「だからさ、思うんだよね。あのおじいちゃん絶対能力者嫌いだって」
「まぁ一般人ですから、恐怖で嫌いになってしまう人もいますよ」
一年生なのに敬語ってなんか変だな。でも砕けて喋るのも変だし、というか怖い。
「鈴木ちゃんもそっちの人?」
「どちらかと言えば、まぁ」
「だと思った」
あ、最後の一個だったのに。あっさりと口に運ばれてしまったマカロンを名残惜しく見ていたら、指についたカスをペロリと舐めとった御子柴くんが愉快そうに私を見た。
「食べたかった?」
「はい、ものすごく」
「ごめんごめん。また用意するから、今度は譲ってあげる」
「というか、ここ勝手に使っていいんですか?」
高そうな調度品に囲まれた部屋、風紀室。いくら御子柴くんが風紀統括委員会の一員だからってこれはよくない気がする。
「いいのいいの。どうせ誰もこないし」
そう御子柴くんが笑った時、まるでタイミングを計ったかのように扉が開いた。
「あれ、蓮?」
「げ。叶人さん……」
ひやりと背筋が冷える感覚が私を襲う。御子柴くんが苦々しく、まるで悪戯がみつかった子供のように溢した名前。聞き覚えがありすぎるくらい脳裏にこべりついた名前だ。
「その子は誰?」
ゆっくりと近づく気配がする。御子柴くんも慌てているのがわかる。「あの、これはっすね、その」なんて御子柴くんらしくもなくどもっていた。
「ねぇ、君」
無視をするとどうなるか簡単に想像できてしまうゲーム知識が恨めしい。恐る恐る顔を上げた先には真っ黒な人がいた。
混じりけのない綺麗な黒髪にこれまたどこから見ても黒にしか見えないであろう瞳。まさに黒を体現したかのような彼は吉祥院叶人なんて仰々しい名前をしている。名前に負けず二年生にして風紀統括委員会副会長という優等生だし、理知的な顔を黒縁眼鏡が更に引き立たせていた。何を考えているのかよくわからなくて怖い。
でも何より怖いのは、彼が僅か五歳の時に起こした突発的な事件だけど。
「学年と組、名前は?」
その質問に思わず事の発端である御子柴くんを睨んだら、意外にも申し訳なさそうに笑っていた。
吉祥院叶人→二年。黒髪黒目。黒を体現したかのような、色んな意味で真っ黒な人。理知的な顔立ちで黒縁眼鏡をかけている。風紀統括委員会副会長。何を考えているのかよくわからなくて怖い。