御子柴くんと執行対象者
初めて連続投稿……!
「え?執行対象者?」
基本的に寮生活のこの学園では朝晩の食事は寮の食堂になるわけで、今朝の目玉焼きが双子だった!と喜び何かいいことがありそうだと浮かれていた私を一気に沈ませるような言葉を美羽ちゃんは放った。
「うん。今朝学校に来たら掲示板に張り出されてて。まだ見てない?」
「見てない」
というかそもそもやらかした覚えがない。なのに何故私が執行対象者に選ばれてしまったんだろう。執行対象者なんてよほどのことをしない限り選ばれないし、そもそも一年に一人選ばれるかもわからないほどだ。本当に何で?
「わかった、ありがとう。後で見てみるよ」
吐いた溜め息はきっと大きかったに違いない。
いじめかと思えるほどでかでかと晒されるように書かれた名前は確かに見覚えがある。生まれてから今までずっと連れ添ってきた名前だ。
「……まさか、この前の?」
最近で思い当たることと言えば一条先生とのことしかない。風紀の顧問は確か一条先生だし、あながち外れてはいないのかもなぁ。
「うぅー……」
用紙には顧問一人で対応しますと書かれているとはいえ、いくらなんでも心臓に悪い。
放課後、部活に勤しむ生徒の声を聴きながら私と一条先生は向き合っていた。
「それで今度は何でしょうか?」
嫌だなぁ、早く帰りたいなぁ、そんな気持ちを押し込めながら問う。相変わらず朗らかな笑顔を浮かべ、にこにこと何がそんなに楽しいの笑いながら一条先生は口を開いた。
「おしゃべりをしようかと思って」
「執行対象者とですか?」
「まぁ、そうなるね」
風紀室の一角に腰掛けた先生がお茶を飲む。つられて私も目の前に置かれたおそらく先生と同じものを口に含んだ。
「美味しい……」
「それはよかった」
花の描かれた上品なカップが傾けられる。
これは僕のお気に入りでね、そう言って出された時はカップのことだと思ったけど、普通のお茶とは風味とかが違ったから多分お茶も含めてだったんだろうな。ふーん、とか思ってちょっと申し訳なかったです。
「あの、私何かしましたか?」
「何かって?」
「執行対象者なんて普通選ばれないですよね?だけど私身に覚えがなくて…」
「そっか。鈴木さんは気づいてないのか」
「気づく?何にですか?」
「いや、こっちの話」
また一条先生がお茶を飲む。つられて私もまたお茶を飲む。静けさが戻った部屋に居心地が悪くなって口を開きかけた時、この場に不似合いな明るい声が聞こえた。
「あっれー?いっちゃん先生じゃん」
「あぁ、御子柴くん」
「何々?ナンパ?もしかして俺邪魔しちゃった?」
邪魔をしたと言いつつも悪びれる風はなく、むしろ楽しそうにこちらへ寄ってくる。御子柴と呼ばれた彼は、染めたのか地毛なのかわからない綺麗な金髪を風に揺らしながら私の横の席に腰掛けた。
「よろしくね。えっと、何ちゃん?」
「…鈴木です」
「下は?」
そう言って小首を傾げる様は男のくせに可愛らしい。くりっとした茶色がかった目が愛らしい唇と相まって子犬みたいだと、この世界では言わずもがな前世でも評判だった。そう、彼御子柴蓮は攻略対称者だ。
だから関わるわけにはいかないし、名前は教えるわけにはいかない。
「今は内緒です」
「何それ何それ!え、今はってことはいつか教えてくれんの?いつ?」
「そうですね……仲良くなったら、です」
「へぇ、おもしろいじゃん。そういうの俺好き」
そう言えば御子柴蓮はゲーム好きだったなと少し後悔する。まぁだけど仕方ない。もう言っちゃったし、仲良くなるわけないし。
「じゃぁとりあえず鈴木ちゃんね。よろしく」
「よろしくお願いします」
「俺は御子柴蓮だから、気軽に蓮とでも呼んでよ」
「はぁ」
「(コホンッ)もういいかな?」
わざとらしいクシャミをした一条先生が御子柴くんに言う。別に御子柴くんでいいよね、仲良くならないし。
「えー、もう?」
「先生大事な話してたの」
「先生が一女生徒と密会してまでする大事な話ってすげー興味あるんだけど」
「ちゃんと話は通してあります」
「え?じゃあ鈴木ちゃんが例の?」
「そう。例の執行対象者」
「へぇ」
じろじろと不躾な視線を感じる。その視線は興味を持ったようにも失ったようにも思えた。
「じゃあ絶対仲良くなれるよ、俺達」
「さぁ、どうだろうね」
「なんでいっちゃん先生はそんなに弱気なのさー」
「こればかりは僕にもわからないから」
「そりゃそっか」
私一人を置いて会話が進む。私を会話の種に入れるなら私にもわかるようにして欲しい。
「ま、大丈夫だよ。仲良くなれる」
御子柴くんのその自信がどこからくるのかはわからなかったけど、彼が言うと本当にそうなりそうで怖かった。
御子柴蓮→染めたのか地毛なのかわからない金髪。顔は子犬みたい。目上の人でもフレンドリー。でも不思議と嫌われない珍しい人。ゲーム好き。勉強はそこそこだけど頭の回転の速さは異常。




