一条先生と嫌な予感
超濃恋愛!の舞台である神楽学園高等部の教室は現実でいう大学のようだ。それをいいことになるべく教師から離れた席に座る。
ちなみに私は現実では大学生をしていた。童顔でよかったと思ったのは初めてだ。
「またこんな遠くに座るの?」
「いつも付き合わせてごめんね。嫌だったら放っといていいから」
「嫌じゃないよ」
ほんと美羽ちゃんはいい子だ。
それからしばらく美羽ちゃんと話していると扉が開き教室が水を打ったように静かになる。
青みがかった白髪を肩で適当に切り揃えたむかつくほど顔の整った男、彼こそが超能学の教師一条巡だ。
「皆さん揃ってますかー?」
「はい」
「では前回のところから…っと、忘れてました。皆さんおはようございます」
「「「おはようございます」」」
どこか抜けた頼りない先生だが超能学の教師としては非常に優秀らしい。まだ先生が能力を使ったところは見ていないが噂では精神関与系と聞いた。優しそうな顔をしてえげつないものである。
「今日は何やるんだろうね?」
「うーん……。この前が発見されている超能力の系統と種類だったから、今日はそれに対抗する術とか?」
「かなぁ?楽しみだねぇ」
超能力は一般人にとっては憧れの対象だ。能力を持ったものは必ずA組に集められるから接点がないし余計憧れるのかもしれない。そんなわけで超能学の授業は楽しみとされている。…まぁ私は早く終わって欲しいんだけど。
唯一会った攻略対象はお察しかと思うが一条先生である。攻略対象を避ける身としては顔を覚えられる前に終わって欲しい。そんな私の願いを嘲笑うかのように一条先生は言った。
「一番後ろの端っこの子…そう、君。ちょっと前に出て手伝ってもらえるかな?」
「……はい」
断る選択肢なんてない。あるのははいかイエスだけだ。
くそぅ……一条先生が超能力者じゃなければ……!
そうである。もし一条先生の能力が精神操作だとすれば断ると能力で従わされることにもなりかねない。それは嫌だ。絶対嫌だ。となれば大人しく従うしかない。
「えーっと、名前は?」
「鈴木玲奈です」
「そう、鈴木さん。それじゃあ僕が鈴木さんに能力を使うから皆は見てて。まずは対抗する術を持たなかった場合」
え、え、え。私能力使われるの?え、今から?嘘嘘嘘!ちょっと待って!
「僕の目を見て」
少し低くなった声が甘く耳を擽る。あぁ、意外といい声してるんだなぁ。それにさっきまで真っ青だった目が赤くなってる。綺麗……ずっと見ていたい。このままずっと……………………………ってバカか私!
ぶるぶると思考を振り切るように頭を横に振ると教室がざわめいた。それだけじゃない。一条先生も真っ赤になった瞳を丸くして呆気にとられている。
「一条先生……?」
何かおかしなことをしてしまったんだろうかと名前を呼べば、一条先生はハッとした顔をしてすぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「ごくろうさま、鈴木さん。席に戻っていいよ」
「え、でも…」
「いいから。ほら、戻って」
「はい……?」
たくさんの視線を感じながら納得いかないまま席に戻ると美羽ちゃんにすごいすごいと褒められた。え、本当何事?
でもそれ以上は途端に何も教えてくれなくなって、結局別の生徒が代わりに手伝いをして無事に終わった。……いや、私が無事じゃない。
「鈴木さん。ちょっと残ってくれるかな?」
一条先生のその笑顔はいつもより優しく見えるのに、同時にいつもより恐かった。
「……はい」
「じゃあ私先に戻ってるね!あ、荷物持ってってあげる」
「うん、ありがとう」
「じゃあねー」
妙に聞き分けが良すぎる美羽ちゃんを見送る。あぁ、背中が遠い。二人きりになってしまった教室はやけに広く感じられる。
「「…………」」
「…あの、先生?」
「うん?」
「ご用件をお聞きしたいのですが」
できるだけ手短にお願いします。
「そうだね。じゃあ僕の目を見てくれる?」
何でまたと内心思いながらも「こうですか?」と一条先生を窺う。あ、また目が赤い。例えるなら人を酔わすワインのような色だ。
数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。ただ私にはとても長い時間に感じられた。先程までの溺れていく感覚ではなく、ただ綺麗だなぁとしか思えない時間は苦痛でしかないから。
「……一条先生」
「うん、ごめんね。もういいよ」
「………あの、これに何の意味が?」
「ちょっとした実験、かな」
「実験?」
「今はまだ教えてあげない」
悪戯に笑った一条先生はひどく綺麗だったけど、何故か私の背中には悪寒が走った。
遅くなってしまい申し訳ないです。今回は一条先生。
超能学教師→一条巡。能力は精神関与系。青みがかった白髪。能力を使うと赤い目になる。生徒に好かれる多分おっとりした人。