吉条さん、現る
鳰家から僕ら3人は出た。
出たと言うよりも追い出されたと言うべきだろう。
あの後、泣き崩れた鳰ママは僕たちに
「今は、一人にさせてください」
と言い、家を追い出された。
「なあ、みくるは車のナンバーとか見てなかったのか?」
斗賀野は言う。
「ごめん。あの時はあまりにも焦っていて・・・」
「仕方ないよ。誰だって取り乱す。とりあえず、色は白なんだね?」
「うん。白い車で、よく現場仕事とかに行くような感じの車だね」
「この周りでそんな車あったっけ?」
「うーん。思い出せないなあ・・・」
やはり地元の人間だから車も多少は把握しているらしい。
その後、僕は自分の家に着いたので日生と斗賀野と別れた。
もし仮に、騒ぎが大きくなってしまったら、あの二人を巻き込んだことになるんだもんなあ・・・
鳰さん、見つかれば良いな・・・
多少の不安に駆られた僕は、その日家から出ないで眠りについた。
翌日、日生と斗賀野がやってくる。
「おはよう!みくるくん!!」
「だから三廻部だって」
「昨日は普通に反応してたじゃんよー!」
朝から非常に元気なやつだ。
「三廻部くん。聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
「良いよ、分かる限りで答える」
「何人くらいいた?」
「暗くてよく見えなかったけど、鳰さんをさらったのが二人くらいいて、その後に一緒に乗った後に出発したから運転席にすでに誰かがいたと考えれば三人かなあ」
「三人組の犯行か・・・」
学校について出席を取るが今日も鳰さんはいなかった。当たり前だが。
一応、鳰さんは病気で入院したと言うことになっているらしい。
お昼にまた三人で考えていると一人の女の子がこっちへ来た。
「ねえ、あなた達もしかして鶫のこと何か知ってるの?」
顔をあげると、髪が長くてカチューシャをした女の子が僕らを見下していた。
「ああ、吉条か。別に何も知らないよ」
日生は嘘を吐いた。話を合わせなければと僕も脳を切り替える。
「でもさっき鳰って言ってなかった?」
「まあ、吉条よ。座れよ。お前も一緒に考えてくれよ」
斗賀野は全く空気を読んでない。日生はキッと斗賀野を睨むが全く気付いていない。
「斗賀野、鶫のこと何か知ってるの?」
「知ってるも何も、鳰は」
「斗賀野!!」
日生はついに怒鳴った。
「吉条、悪い。ちょっと斗賀野借りるぞ」
「え?うん。別に良いけど・・・」
日生は斗賀野の手を引っ張って勢いよく教室を出て行った。
知らない女の子と二人きり。気まずい・・・
「ねえ、三廻部くんは鶫・・・ううん。鳰のこと何か知ってるの?」
「い、いや・・・僕はクラスのことはあまり・・・」
「あ、ごめんね。私は吉条 蒼。よろしくね」
そういうこと聞いたわけじゃないんだけどな・・・まあ、良いか。
「よろしく。その、聞いて良い?」
「何?」
「吉条さんは、鳰さんの友達?」
「友達も何も、幼稚園からずっと同じよ。腐れ縁ってものね」
なるほど。だからここまで彼女のことを心配してるのか。
「鳰さんの家に行った?」
「もちろん。でも、鶫のお母さん、何か様子が変だったの」
心臓が飛び跳ねた。念のために何時いったのか聞いてみる。
「あ、あのさ。吉条さんはさ、いつ鳰さんの家に?」
「昨日の学校終わってすぐだったから十七時頃かな・・・?」
僕らが追い出されたのもそのくらいだった。もしかすると誘拐されたこと、話されたのか?
「鳰さんのお母さん、何か言ってた?」
「ううん。出てきても泣いててね。何言っても『今は一人にさせて』って」
良かった・・・誘拐については何も触れていなさそうだ。
日生と斗賀野が戻ってきた。
「吉条、お前は確か鳰と仲が良かったよな」
「仲は良いよ」
「じゃあさ。放課後、図書室に来てくれないか?部活あるなら部活後でも良い。とにかく、図書室へ来てくれ」
「何で?」
「その時に話す」
斗賀野の口元が引きつっていることに僕は気付く。
日生と吉条さんが話している間に僕は斗賀野に何があったか小声で訊く。
「喜べみくる。今日から吉条もこの捜査に関わってくれる!」
「何で!!?」
「やっぱり仲の良いやつがいた方が良いだろ?しかも吉条みたいな美人と一緒にいられる時間なんて早々ないぞ!?」
「これが目的か・・・」
吉条さんは部活後に図書室に来ることになった。
今日の帰りは遅くなりそうだ。
つづく




