行動
僕は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
女の子は白い車に乗せられてどこかへと消えた。
今思うと、僕はこの時、車のナンバーを見るなり出来た。
だが、あまりにも焦っていて結局何もできなかった。
僕は家に戻り、自分のしたことに嫌気がさした。
何も出来なかった。見ていることしか出来ない自分が憎かった。
転校初日の夜は、あまり良い気分で眠れなかった。
翌朝、斗賀野と日生がやってきた。
「おはよう!みくるくん!!」
「いや、だから三廻部だって・・・」
「よく眠れたかい?」
日生はそう言ってきた。よく眠れたって言うべきなんだろうな。
「う、うん。まあ眠れたよ」
「本当か?お前、目のクマ結構酷いけど?」
斗賀野に痛いところを指摘された。意外と観察力あるな・・・
「も、もともとだよ!!それより早く学校へ行こう。用意してくるし適当にくつろいでて」
僕は急いで制服に着替えて、急いで玄関は向かった。
日生と斗賀野は楽しそうに何かを話している。
今この二人に昨晩のことを言うべきなのだろうか。
念のために聞いてみた方が良いかもしれない。
いや、今はまだ言わないでおこう。
学校へ行き、まず先に図書館へ向かおう。今朝読み忘れた新聞を読まないと。きっとニュースにはなっているはずだ。
学校に着き、上履きに履き替え、図書室で新聞を見る。昨晩のことは何も書かれていなかった。
「何だよいきなり図書室に連れてけって言うし連れて来たら、新聞なんか読んじゃって。偉いなみくる」
「あ、ううん。気にしないで。ちょっとここの新聞が気になったからさ」
図書室から教室へ向かう。下級生と何人かすれ違う。
僕の教室である一年E組。教室に入るとほとんどの学校でも見られそうな光景が広がっていた。
昨日のテレビの話、今日の授業の話、宿題、ゲームの話などなど。
僕は自分の席に着く。そして前にいる斗賀野に質問をぶつける。
「あのさ。斗賀野に聞きたいんだけど」
「ん?何でも聞いてくれ。この町は何もないけどいいこともたくさんあるぜ」
「あ、いやそう言うのじゃなくて・・・昨日の夜さ」
言いかけたところで予鈴が鳴る。
「悪い。またあとでな」
斗賀野はそう言って前を向く。意外とまじめだったんだな。
数分後には担任の芦原先生が入ってくる。
「はい。じゃあ出席取るわよー」
みんな名字を呼ばれると返事をする。僕も、斗賀野も、日生も。
しかし、クラスで一人だけ、名前を呼んでも返事をしない人がいた。
「鳰~?鳰 鶫は今日休み?」
ゾッとした。鶫・・・と言うことは女だろうか。
「斗賀野。鳰さんって女の子?」
「ああ、女だよ。結構可愛いんだぜ。クラスでも上位に」
「いやそう言うのは今度聞くよ。とにかくあとで話があるから、大丈夫?」
「ん?まあ良いよ」
ホームルームが終わり、僕は斗賀野と日生に昨晩のことを話す。
「お前それ本気か?」
最初に反応したのは斗賀野だった。
「僕の家の近くの河川敷から聞こえたんだ。鳰さんかは分からないけど、髪は長かったし女の子だと思う」
「そんなことがあったのか・・・」
日生も斗賀野も驚いている。
「なあ。今晩そこに行ってみないか?」
「「はあ!?」」
いきなりの斗賀野の提案に僕と日生は口をそろえて驚く。
「それはいくらなんでも危なすぎるだろ・・・なあ。三廻部君」
「僕もそう思うな」
「いやいや。よく言うじゃん。『犯人は犯行現場に云々』って」
「じゃあ聞くけど、捕まえてどうするんだ?」
日生の強い質問に斗賀野は答えられなかった。
放課後、今日もまた三人で帰る
「なあ。今からなら大丈夫だろ?行ってみようぜ」
斗賀野はどうしても行ってみたいらしい。
「今はまだ夕方だからね。まだ安全かもしれないね。行くだけ行こう」
僕の提案に日生も斗賀野も賛成した。僕たちは昨日の犯行現場へ向かった。
数分後、昨日鳰さんか分からないけど女の子が誘拐された場所に来た。
僕は昨晩のことを改めて説明する。
「うーん・・・分からない」
「もういっそ鳰の家に行くか?」
日生の提案に斗賀野は目を輝かせた。
「何!?お前鳰の家知ってるのか!!?」
「クラス委員だからな。全員の家と家の番号は知ってるぜ。て言うかこんな小さな町なのにお前は知らなかったのか・・・」
「い、良いだろ別に。俺はそんなストーカーみたいことはしないからな」
「ストーカーって・・・」
そして僕たち三人は鳰さんの家に向かった。
「ごめんください」
鳰家に着くと、日生が家の呼び鈴を押し、僕と斗賀野が日生のすぐ後ろに立った。
「はい」
鳰さんの母親が出てきた。美人だなおい。
「初めまして、鳰さんのクラスメイトでクラス委員を務める日生誠です。今日鳰さんが学校を欠席したのでお見舞いへ来ました」
「あらあら。わざわざごめんなさいね。どうぞあがって」
「では、おじゃまします」
日生はそそくさと入って行った。
「なあみくる。俺はクラスの上位に入る可愛さの家に来るのはな。初めてなんだ」
「ふーん。良いから入ろうよ」
何故か斗賀野は動かない。
「・・・何してるの?」
「分からないのか!クラスで上位に入る可愛さなんだぞ!!そんな子の家に・・・家に・・・!!これはもう斗賀野銑十郎十六年の歴史に切り刻まれるぞ!!」
「・・・良いから入ろうよ」
玄関から廊下を通り、応接間に招待された。
日生はとても落ち着いている。斗賀野はずっとキョロキョロしている。
「なあ、鳰のお母さん、美人だったな!!」
「そうだね。鳰さんも可愛いんだろうね」
「そりゃもう!!クラスで上位に入るからな!」
「さっきから気になったんだけどさ。上位ってことはランク付けすると何番目なの?」
「分かってない!みくるは何も分かってない!うちのクラスはな、女子のレベルが異常に高いんだ。分かるか?他クラスから恨まれるほど可愛い子しかいないんだ。つまりだな。何を言いたいか分かるか?」
「全然」
「全員可愛すぎてランク付けなんか出来ないんだよ」
そんな事を話していると鳰ママが麦茶を持って入ってきた。
「ごめんなさいね。暑かったでしょ?これ飲んで」
「「「ありがとうございます」」」
キンキンに冷えた麦茶が喉を潤す。ゴクゴクと良い音が斗賀野と日生から聞こえる。
「ごちそうさまです。では、本題に入らせてもらいます。単刀直入で申し訳ないのですが、鳰さん、鳰 鶫さんは現在この家にいらっしゃいますか?」
イスに座っている日生は指を組んで、前かがみになって問う。
「鶫は、昨日の夜に散歩に出かけてから帰ってきていないの」
「それは何時頃でしたか?」
「そうね。大体お風呂をあがった後だから・・・二十一時頃かしらね」
僕が見たのもそれくらいの時間だ。
「三廻部君。君が見たのは何時?」
「二十一時くらいだよ。もしかして本当に・・・」
「娘は、鶫はどうなったの!?」
鳰ママは半泣きで僕と日生に聞く。斗賀野はポヤポヤしている。暑いのだろうか。
「率直に言います。鶫さんは、誘拐されました」
やべ。ちょっと日生かっこいい。僕と初めて会ったときと印象が全然違う。
「それは、本当なの?」
「本当です。目撃者もいます」
鳰ママは泣き崩れた。僕たちはどうすることも出来なかったので泣き止むのを待った。
時計の針の音と、鳰ママの鳴き声が応接間に広がっていた。
つづく




