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酒場、ギルド、「依頼」

 ソンミンが目を覚ました時、カーテンの隙間からうっすらと明るい日の光が差していた。どうやら朝まで眠り込んでいたようだ。酒場でお腹いっぱい食べた後のことはあまり覚えていない。おかみさんが色々と話してそれを聞いて・・・・・・、なんだっけ。

 ソンミンは部屋を見回してみたが、同室のはずのシーセンの姿が見えない。慣れない場所に一人でいると、柔らかなベッドの感触すら何か不安定で落ち着かない。

 カーテンを開けて窓の外を見回してみると、宿のちょっとした庭のところで、一人で剣を振っているシーセンが目に入った。良かった。


「シーセン!おはよう!」

「おっ!ソンミン、おはよう!今日もいい朝だな!」


 窓を開けて手を振りながら声をかけると、シーセンも剣ごと手を振って応えた。あの剣は実は7kgもあり、通常の剣の4倍以上の重さがするという。シーセンによると「軽い剣が必要な相手と重い剣が必要な相手がいる。軽い剣は対人間、重い剣は対魔物だ」とのこと。

 二人のやり取りを見て、庭の隅で洗濯物を干していたおかみさんが、シーセンのところに走り寄ってきた。身振り手振りをしながら、何やら話している。身振りからすると、どうやら静かにしてほしいということらしい。


「おーい、ソンミン!まだ他の客が眠っている時間だから静かにしてやってくれってさ!こっち降りて来いよ!」


 大きな声が三階のソンミンめがけて飛んできた。おかみさんの手がシーセンの背中を引っぱたいたのが見えて、ソンミンは苦笑して庭に下りていった。

 酒場の裏口から庭に出ると、シーセンがおかみさんに叱られてうなだれていた。この大男は人が良いのか、よく叱られている気がしなくもない。


「戦士のお兄ちゃん、アンタもう二十歳も過ぎてるんでしょ?そういう常識がないと冒険者として大成しないよ。私の若い頃は・・・・・・」


 子供のような目をシーセンから向けられた。「助けてくれ」と目が語っている。少年はメッセージを理解して小さくうなずく。


「おかみさん、おはようございます!」

「あ、お兄ちゃんおはよう。あんたんところのお仲間はみんな朝早いねぇ。感心するよ」


 おかみさんの話だと、夜明け前にリースが起きてきて、酒場で一人祈っていたそうだ。毎朝の夜明け前後の祈りはリースの日課となっている。その後にシーセンが起きて剣の訓練、同じような時間にソンミンが起きるのがこの一ヶ月の常だ。マホはいつも夜中まで起きて、そして遅く起きる。こうした各自の生活スタイルが幸いし、野営時の夜間の見張りはマホ、リース、シーセンの順番で確定している。ソンミンは見張りを任されたことはない。何かあっても対処が難しいからだ。


「そんじゃ、私は朝ごはんの支度があるから行くわ。朝のレベッカもいいわよ。ゆっくり散歩でもしてきたら?」

「お、そりゃいいね。ソンミン、行くか?」

「うん!」


 シーセンとソンミンが宿の正面から出ると、朝日が次第にレベッカの町を明るくしていくのがわかった。ソンミンは町を歩きながら、所々に植えられた花壇に目を留め、感心していた。


「へぇ~、道沿いにこうやってお花を飾るとこんなにきれいに見えるんですね」

「ああ、町ではこうやって見る人を楽しませてるんだよ」

「うちの村にはそういうのなくて。ただ道があって、畑があっただけだったから」

「そうだな。村の様子を見ても、まあ、なんというか、地味な村だったもんな」


 ソンミンの村は、地図にも記されていない小さな村だった。シーセンたちが行き着いたのも、山中で道に迷っていたときに煙を見て、人がいるかもしれないと思ったからだ。まさか魔物の群れに襲われているとは思いもしなかったが。とはいえ、魔物たちがなぜソンミンの村を襲ったのか、廃墟と化した村を見てもシーセンたちにはわからなかった。もちろん、その村で16年育ったソンミンにも。


 しばらく歩いているうちに、町の家々の煙突から少しずつ煙が昇り始めた。


「そろそろメシの時間かな?」

「うん、シーセン、戻ろう。何だかお腹すいちゃった」


 「星の輝き亭」に戻り、食堂を兼ねている酒場に戻ると、主人とおかみさんが忙しそうに給仕していた。この時間帯はこの二人だけらしい。

 二人がテーブルに腰掛けてしばらくすると、細身で、口ひげを生やした主人が牛乳とサラダとパンを運んできた。


「おはよう!昨日はお騒がせしたね。」

「いやいや、こちらこそ」

「ところで兄ちゃんたち、いつまでこの町に?」

「まだ特には決めてないけど」

「そうか。もし、兄ちゃんたちが良ければ、アンタらを見込んで『依頼』したいことがあるんだが・・・・・・」

「『依頼』かぁ。悪いけどご主人、それはオレじゃ決められないなぁ。全員そろった時にまた聞かせてくれ」

「そうか。わかったよ。じゃあ、朝食が終わって後片付けが済んだころにまたここに来てくれ。うちはギルドに加盟してるわけじゃないから、あくまで個人的な『依頼』だ。他には知られたくない。ウチのカミさんにもな」


 地声の大きなシーセンを制しつつ、主人は用件をパパッと話すと、パンの皿を一つ追加で持ってきてくれた。


「さっきの口止め料と昨晩のお礼だ。遠慮なく食べてくれ」

「お、ご主人、すまない。絶対にしゃべらないと男に誓って約束しよう」


 戦士は力強く胸を叩いた。大きな拳を分厚い胸板が跳ね返した。


「ハハハ。男に誓う、か。いいな。アンタみたいな奴がいっぱいいたらいいんだがな」


 主人が厨房に上機嫌で消えていくのを確認して、ソンミンが訊ねた。


「『依頼』って?ギルドって?」

「ああ、『依頼』ってのはな――」


 シーセンの説明によれば、レベッカのように、ある程度の規模の町になると、往々にして現地の人では処理しづらい問題が多数あり、それを地元の者でない冒険者に解決を頼むことを「依頼」と呼ぶ。通常、この「依頼」はギルドと呼ばれる組織が管理し、加盟している酒場を窓口に、冒険者を募集・依頼することが多い。依頼には当然報酬が発生するので、冒険者と町は持ちつ持たれつの関係である。そして、そうした事情もあって冒険者はギルドに加盟している酒場に出入りすることが多い。


「でも、ギルドを通すってことは何か意味があるの?」

「ああ。酒場ってのは、お抱えの冒険者を抱えていたりするもんでな。ギルドを通すことで、より腕のいい冒険者を利用しやすかったり、ギルドの情報網を使えるってメリットがあるんだ。逆にギルドを通さないで直接契約をすると、ギルドに手数料を取られないで済むから依頼主も冒険者にもいい条件になることが多いが、ギルドから情報をもらうの難しくなるな」

「ふーん」

「ま、オレら冒険者はそうした依頼を引き受けたり、冒険の中で見つけたお宝なんかを売買して生活費を稼いでるってことさ。ソンミンが村長になったときには仕事回してくれよな」

「へぇ~。お遣いみたいなものかなぁ」

「ま、そういうものもあるし。色々だね。ウチはマホがそういうの嫌いみたいだけど・・・」


 主人の焼いてくれたパンは柔らかくて食べやすかった。町には本当に知らないことがいっぱいだとソンミンは思った。自分が生まれて育ったあの村には、一体何があったのだろう。

 二人は部屋に戻って少し休み、身なりを整えると、起きてきた女性たちと合流して、状況を伝えた。寝起きで不機嫌そうではあったが、シーセンが熱意を持って説得した末、「とりあえず、話だけでも聞きましょうか」とマホが折れた。

 四人は、酒場の主人に会うため酒場に下りていった。


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