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星の輝き亭

 夕暮れ時の「星の輝き亭」は、既に多くの人で賑わっていた。

 客層の多くは男性で、遠くから来た商人風の男たちが食事をしながらお互いの地域の名産品について語り合っていたり、大柄な冒険者風の男達が武勇伝を語り合っている。あちらこちらから伝わってくる熱気は、まるで市場の熱気とよく似通っていた。


「あらあら~、思ったより混んでますね~」


 一目で聖職者とわかる服装のリースは、女性ということもあり、ここでは際立って目立っていた。酒場に出入りする聖職者はそれほど多くない。


「あ、あっち空いてるよ!あっちにしよう」


 マホが見つけた隅の席に四人が座ると、程なく中年のウェイトレスがやってきた。若い女性と中年の女性の二人がフロアをせわしく動き回っている。


「お、ご宿泊のお客さんだね。私はここの店主の家内だよ。みんな私のことをおかみさんって呼んでくれてるんで、何かあったら言っておくれ。アンタたちのこと、最近には珍しい、純冒険者風の若いのが泊まりに来たって店でちょっとしたウワサになってたよ」


 おかみさんによると、冒険者というのは、一昔前に流行った職業らしい。まだまだ世界に未開の地域が多かった頃、異なる地域どうしを繋いだり、まだ見ぬ地域を開拓したり、過去の遺跡や洞窟、山中や砂漠を捜索したりしたのが冒険者たちだったそうだ。

 彼らの活躍によって、まだ見ぬ土地は減り、町と町は道で繋がり、人や物は往来し、文化は多様になり、人々の生活を豊かになった。冒険者はロマンはあるが、うまみが少なくなったとして不人気な職業になっていた。


「悪い悪い、ついついおしゃべりが過ぎちゃったね。お腹空いてるだろう?ご注文は?レベッカ名物は新鮮な野菜とお肉の丸ごと焼きだよ」

「じゃ、それを下さい~」

「あと、飲み物を!オレは麦酒!」

「アタシは赤ブドウ酒!」

「私は~、お水で大丈夫です~」

「僕は・・・・・・えっと・・・・・・。お水で」

「あとは適当におかみさんのオススメを並べてくれ。食べきれなくなったらストップするから!」

「はいよ!お兄ちゃん、よく食べそうだね。いっぱいお食べ!」


 大きな声でおかみさんは笑いながら注文をメモにとり、裏に消えていった。お店のガヤガヤの中でも声が通るのだから、相当な声量なのだろう。ソンミンはたくさんの人がいるというのが不思議な感じがして、あたりを見回した。今日見ただけの人でも、村で今まで見てきた人数を大きく越えている。

 ほとんど未開の地は無いとおかみさんは言っていたが、ソンミンは村に来客など見たことがない。村から誰かが出て他の地域に行ったのも見たことが無い。もしかして、住んでいた村は未開の村だったのだろうか。


 ソンミンが考え事に頭をめぐらせている間、残りの三人は町で見たあれこれについて買う買わないで盛り上がっていた。

 そうしているうちに、飲み物が運ばれ、メインの料理が運ばれてくる。


「レベッカ名物、ジュディ鶏の丸ごと焼きでございます!中に炒め野菜が詰まっておりますので、切り分けてお食べ下さいね!」


 若いウェイトレスが、軽く会釈して去っていった。


「じゃ、いただくとしましょう!」


 マホが器用に肉を切り分け、切り分けた側からシーセンとリースがどんどん平らげていく。圧倒されているソンミンの皿に、二人の間を縫ってマホが時折肉と野菜を置いてくれる。


「大丈夫。この二人だけに食べさせるなんてしないから」

「ありがとう、マホ」

「大体、アンタたち、もう少し気を使いなさいよ!アタシが食べられないじゃない!」

「おかみさ~ん、これもうひとつ~」

「イヤ、これはウマイ!おかみさん!ひとつじゃない、二つだ!二つ!」

「・・・・・・ちょっとは聞いてよアンタら・・・・・・」


 この光景も、だいぶ見慣れてきたなと微笑ましく見ながら、ソンミンはずっと気になっていたことを聞いてみたくなった。


「ねえねえ、どうして三人は冒険者をしているの?」


 一ヶ月以上一緒に旅をしているが、そういう話を聞いたことが無かった。最初の1週間は、滅びた村、失った家族、突然の旅立ち、色々な事情で気持ちが整理できず、とても会話どころではなかった。それからは山越えや魔物との遭遇など、緊張と疲労で、ゆっくり話す余裕も無かった。


「何でって、オレはマホの用心棒として雇われてるからかな」

「私はマホの幼馴染で、昔からよく冒険者ごっこをしていたのです~。冒険に行くって言ったら、神殿の司祭様にとってもとっても怒られましたけど、最後は『布教してきなさい』って言われましたの~」

「ふーん、みんな、マホ繋がりなんだ。じゃ、マホは?」

「ん、アタシ?アタシはね、修行なの。魔法使いって、師匠にもよるんだけど、五年から十年は旅をしていろんな経験と見識を積んでこそ一人前と認められるの。本を読めばたいていのことはわかるけど、実際に見聞きしたものにはかなわないっていつも師匠が言ってた。一人だと面白くないから、リースを誘って旅に出て、とある町の酒場でケンカしてたシーセンをスカウトしたわけ」

「シーセンもケンカするんだ?」

「そうよ、この男はね、意外とケンカっぱやいわよ。地元の悪口言われたらすぐに怒り出すの。ラーワの町って言って、熱血の町って言われてるんだって」

「熱血じゃない。「赤き血が燃える町」ラーワだ」

「それは熱血って言うのよ。文学的表現よ」

「いいや、熱血という言い方にはバカにしている感じがする。『赤き血が燃える町』だ」

「ハイハイ」

「へぇ~」


 一通りの会話が済んだ頃に、おかみさんが大量のサラダとスープにパン、そして若いウェイトレスがジュディ鶏の丸ごと焼き二つをテーブルに運んできた。シーセンとリースは初めと変わらない勢いで食べ続けている。


 そうして夜も更けていき、酒場の客も一人、二人と消えていき、半分以上の席が空いた頃になって、酔った数人の男たちが入ってきた。体格や雰囲気からは、商人ではなく、冒険者とも違う雰囲気が出ている。


「オウ、おかみさんよォ、ひさしぶりに来てやったぜ!」


 坊主頭に黒ヒゲをはやした、巨躯の男が手に持った酒瓶から酒をかっくらいながら大声を上げた。どうやらこの男がこの一団のリーダー格のようだ。


「ちょっとラーナズ、アンタらに食べさせるものは一切ないって言ったでしょ!商売の邪魔だよ!とっとと酒臭い息全部吸い込み戻して帰りな!」


 おかみさんが威勢よく啖呵を切ると、ラーナズの後ろにいた男たちが口々に「うるせぇババア」と悪口を浴びせ、嘲笑し、店内のイスを蹴飛ばし始めた。店内に緊張が走る。


「おっと、こりゃ、キナ臭い雰囲気だね。厄介ごとはゴメンだけど、放っておくのも男がすたる。ちょっと行って来るか」

「シーセン、一応気をつけてね。カタギじゃなさそうだし」

「私も行きます~。このままだと、おかわりできなさそうだし」


 シーセンとリースが見かねて立ち上がった時にも、おかみさんとラーナズたちの口論は続いていた。声がどんどん大きくなる中、ラーナズは突然、口に含んだ酒を霧状にしておかみさんに吹き付けた。


「るっせぇんだよ!商売するなら客に対する礼儀ってもんがあるだろーよ」

「そこまでだ」


 目を押さえて苦悶するおかみさんを後ろに隠すようにして、シーセンとリースが前に出た。乱暴な声をあげて、ラーナズたちは怒鳴った。


「――何だテメェたちは?」


 シーセンとリースの二人は、怯むことなく狙ったように同時に答えた。


「正義(神様)の宿泊客だ(です)!」


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