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初めての町

 町の衛兵が守る門を抜けると、活気に溢れたレベッカの町が姿を見せた。

 大通り沿いに立ち並ぶ市場では、各地で取れた様々な食物や珍しい雑貨が立ち並び、道行く人々の足を止めていた。足を止めた人々どうしや、商人たちとの会話の声が幾重にも聞こえてくる。まるでお祭りみたいだ、とソンミンは思う。


「さて、そんじゃまず宿を見つけて、荷物を軽くしてきますか」

「そうですね~。町で鎖かたびらは要らないでしょうし」

「シーセンの全身鎧はもっと要らないしね」


 まだまだ町のあれもこれも見ていたかったが、三人とはぐれるわけにもいかない。ソンミンは慌てて三人の後を追った。

 ソンミンの生まれた育った村は、山中を切り開いて作った小さな集落で、全ての人を合わせても50人にも満たない小さな集落だった。幸いにも山に豊かに食物もあり、野生動物たちもいたために猟に出れば食べるものに困ることはなかった。それゆえ、外界との接点を持つこともずっとなかった。

 ソンミンにしてみれば、初めての外界。初めての町。気になることも多いが、だからと言ってここで置いて行かれたら不安だ。


「よし、ここだな『星の輝き亭』」


 町の人に紹介してもらった宿屋は「星の輝き亭」という少し大きめの宿だった。一階には食堂兼酒場があり、二階からが宿屋になる。


「じゃ、部屋はオレとソンミン、もう一部屋はリースとマホで」

「二人部屋なんだから男女別れるのは当然でしょ!」

「まあ、一緒に何泊も野営してますけどね~」

「・・・・・・部屋?部屋ってどういうこと?」


 ソンミンにとって、宿屋は初めての経験だった。外と交流のない村に生まれ育ったのだ。宿屋も当然初めてになる。


「・・・・・・そうか、ソンミンは初めてか。宿屋ってのは数泊だけ自分の部屋を借りて寝泊りするところなんだ。オレらみたいな冒険者や、市場に遠くから商売をしに来る人のための施設だな。時々、飲みすぎて帰れなくなった人が泊まったりもするけど」

「へぇ~。いくらくらいするの?」

「ここはまだ安いんじゃないかな。一泊一部屋三千オカーネ。高いところだと一万オカーネはするんだぜ」


 シーセンの言葉を聞いて、ソンミンが慌てる。


「あ・・・・・・、お金、僕、そんなに持ってない・・・・・・」


 シーセンは手のひらで、ソンミンの頭をポンポンと軽く叩いた。


「だ~いじょうぶ。お金は全部マホが払ってくれてるよ。うちのパーティーの会計係だからな。オレらは自分で買い物する時だけ自分のお金で払えばいいの。」

「そゆこと。じゃ、支度して一時間後にもう一度ここに集合ってことで」

 

 長旅を終えた魔法使いは、目を輝かせて上階の客室に上がっていった。


「ではのちほど~」


 リースもマホを追って上がっていく。

 そして、残されたのは、男二人と、大きなリュック二つ。


「じゃ、オレらも上がって、荷物の整理でもするか」


 シーセンはリュックを二つかついで階段を上がっていった。ソンミンもそれに続く。

 ドアを開けると、ちょっとの空間にベッドが二つと、小さなテーブルが一つ、イスが二つ、部屋の中におかれていた。空いている空間にリュックを下ろし、一息つく。

 ガチャガチャという音と共に、シーセンは鎧を脱ぎ始めた。盾や剣の重量を合わせると、マホやリースの体重より多分重いらしい。ただ、それを言ったら危険だから絶対に口にしてはいけないとシーセンは大真面目な顔で語った。


「じゃ、ソンミン、リュックの中のものを整理しようか」

「整理?」


 そういえば、何がこんなに入っているのだろうと前から思っていた。食糧や毛布が入っているのは知っていたが、改めて広げてみると、大きな輝く石や、動物の角、骨、木の実の入った袋など、実に色々なものが入っていた。


「オレら冒険者ってのは、あちこち回って手に入れたものを売って当座のお金に換えてるってわけ。ソンミンにも荷物持ちしてもらったから、ちょっとバイト代はあげるよ」

「え、いいの?僕が取ったものって何もないけど」

「いいのいいの。少なくとも、リースやマホはソンミンに払わないといけねぇ。いつもオレたちだけ荷物持ちすぎだ」


 売るべきものを一つのリュックにまとめ、腰に剣だけを携帯してシーセンはリュックを背負った。日頃は鎧で隠れているが、改めて見ると盛り上がった上半身は威圧感があって、彼とケンカはしたくないなとソンミンは思った。

 一緒に部屋を出て、宿のフロントで待っていると、上からリースとマホが降りてきた。二人ともシーセンのように見た目に変化はないが、ジャラジャラという音が聞こえないのでリースは鎖かたびらを脱いできたようだ。リースは長杖、マホは短杖を普段通り携帯していた。


「・・・・・・みんな、何で武器持ってるの?」

「一応、何があるかわからないからね」

「そうそう。冒険者ってのは他所者だから、地元のゴロツキに絡まれやすいんだ。ま、できる限り使いたくはないけどな」


 シーセンに絡む人っているのかなとソンミンは思ったが、リースやマホなら絡まれることもあるだろう。なんせ、二人とも並以上の容貌だ。


 四人は市場に行き、色々な店を見て回りながら、各地で集めてきた品々を売りさばいた。しめて71万オカーネ。会計係のマホの表情が緩む。


「今回は頑張っただけあって随分儲かったわねー。今晩は久々に美味しいもの食べまくりましょう!」

「わ~い。食べ放題!食べ放題!神様マホ様ありがとうございます!」


 リースが一番嬉しそうにしている。彼女は何せ、パーティーで一番の大食いなのだ。体の大きなシーセンよりもずっと食べる。


「・・・・・・リースはほとほどにしといてね。財布が飛んでくから。大体、僧侶って普通もっと禁欲的なもんよ。あと、神様とアタシを並べちゃダメ」


 呆れた顔でマホがたしなめる。子供のように残念そうな顔をするリース。マホってみんなのお母さんみたいだと、ひと月ほど接しながらソンミンは思うようになった。町の路地に目をやれば、子供たちが遊ぶ姿をほほえましく見守っている母親の姿もよく見られる。

 当たり前の平和が、レベッカの町にはあった。それがソンミンには嬉しくもあり、また寂しくもあった。初めての町は、何だか全てが眩しく見えた。


「それじゃ、暗くなる前に宿に戻りましょう。買い物はまた明日ね」


 四人は「星の輝き亭」に戻り、酒場で食事をすることにした。


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