村長になりたい
――目の前には、巨体の人間よりもさらに二周りは大きな、異形の生き物がいた。
生き物は、猪のような顔で、二本足で立って、器用に丸太を振り回していた。
そして、剣と盾を持ってそれに果敢に交戦する戦士がいた。
その戦士をサポートすべく、神に祈りを捧げる僧侶がいた。呪文を詠唱する魔法使いがいた。
――そして、もう一人。
岩陰でうずくまる村人がいた。
*
「・・・・・・ふぅ~、手強い相手だった。」
「まったくね。最近のオークって何だか訓練されてる感じがするよね」
「ねえねえ、ソンミン~、もう終わったから出てきていいんですのよ~」
ソンミンと呼ばれた少年は、岩陰から半分だけ顔を出した。
目の前には、頭蓋骨を叩き割られ、赤黒い体液を垂れ流して活動を停止した怪物オークの姿。
そして、鎧姿に身を包んだ男の戦士と、鎖かたびらの上から法衣をまとった女僧侶、ワンピースの上から丈の長い赤いマントを羽織った魔法使いの女の三人の人間が見えた。
戦闘が終わったのを確認して、安心したのか力が抜けて、ソンミンはその場にへたりこんだ。
「ちょっとソンミン、アンタ何もしてないでしょ!アタシの方が疲れてるんですけどー」
魔法使いが杖を上下に揺らしながら不満を言った。
「まあまあマホ、ソンミンは一般の村人なんですから仕方ありませんよ~」
法衣の僧侶がたしなめる。
「そうだよマホ。リースの言う通り。お~い、ソンミン、ゆっくりでいいぞ~。そっち側から襲われないようにだけ気をつけてな」
快活に笑って鎧姿の男は手を振った。
「なんだかんだで、一番ひどいのはいつもシーセンじゃない?」
「そうですよね~」
女二人が顔を見合わせて笑った。
それから数分して、やっと膝に力が入ってきて、ソンミンは身を起こして三人の元に歩み寄った。
「・・・・・・三人とも本当にすごいよね。あんな化け物やっつけちゃうんだもん」
「まあ、何とかって感じだけどな。じゃ、ソンミンも剣でも習ってみるか?オレが教えてあげるぜ?」
「いえいえ、きっとソンミンは魔法の素質があると思うわ。私の使いっ走りから始めてみない?」
「きっと僧侶の道も素晴らしいですわよ。今なら神を信じるだけで祝福が二割増しでありますわ」
それぞれが思い思いに少年の将来像をああだこうだと語り始めた。
しかし、こういう時にソンミンはいつも答えるのだった。
「ありがとう。でも、僕は村で村長になりたいから、そういうのいいや」
三人の言葉が止まって、急に恐縮する。
「スマン・・・・・・。そうだな、ソンミンにはそれが一番合ってると思うな、ウン」
「・・・・・・やっぱり、手堅い職業の方って、何ていうか、信頼感があってイイよね!ウン」
「・・・・・・村長しながらでも信仰のいい方は確かに大勢いらっしゃいますわ~!ハイ!」
――ソンミンは、ただの16歳の少年。ただの村人。
しかし、ソンミンが住むべき村は、先月、魔物に襲われて、もう無い。
その時、隠れて生き残ったソンミンを見つけ出し、魔物を退治してくれたのがこの三人だった。
生き残ったソンミンは、行くあてもなく、三人についていくことになったのだった。
ソンミンにはこの時すでに、一つに決心が定まっていた。
「自分が村長になって、平和な村を作る」
この物語は、数奇な運命に巻き込まれた一村人が、村長になりたいのだけど大冒険をすることになる物語である。