カメムシ。
窓を開け放った部屋で本を読んでいたら、虫が一匹侵入してきた。
白い壁に止まった緑の虫。カメムシ。
どうか突かないで下さいと言わんばかりに、背中の模様を見せつけてくる。
突いたら臭うことなんて百も承知で、敢えて突く。
何の抵抗もせずに、ころりと床に落ちた。今度は死んだふり。
しばらくじっと見ていると、ひっくり返ったカメムシの足がもぞもぞと動く。
面白いから、また突く。また死んだふり。また突く、死んだふり……。やっぱり面白い。
そんなことを10分続けて、やめた。
はいはい、私の負けですよ。
ティッシュペーパーでやんわりと包んで、外へ逃がしてやる。羽を広げて悠々と、夜の空へ飛んでいった。
後々になって、気づいた。
そういえば、臭くなかった。
ってことは、私は完全に遊ばれていたんだろう。
背中の模様は気持ち悪いけど、悪いやつじゃないんだろう。
きっと、すごく恥ずかしがり屋なんだ。
また私は窓を開け放って、本を読み始める。
いつでも遊んであげましょう、カメムシさん。今度は負けませんからね。