どこから見ても
ねむっ。
なんでこんな日にかぎって1限から授業があるのだろう。綾乃は机に突っ伏してタレパンダのようになっている。幸いな事に広い講堂での授業だったため、後ろの方に陣取ってダレていた。
寝つきはいいのだが、部屋に男性がいる状況など初めてであった。浅い眠りについたのは空が明るくなりそうな頃だった。
「あやのん大丈夫ぅ?」
右から心配そうに小声で話しかけてきたのは同じバスケットサークルの原田 優奈。サラサラの黒髪セミロングが小さな体とおとなしめの性格にマッチしている。非常に女の子らしく守ってあげたくなってしまう。それに、これはどうでもいい事なのだが……背が低いのに私より胸がある。どうでもいい事なのだが……
「優奈。男だよ、オ・ト・コっ!」
私の左に座っている女はそういって親指を付き立ててニヤニヤしている。いつの時代のオヤジだお前は。 いいからその指をやめなさいっ!左手でその手を払おうとしたが掠るくらいで空を切った。この娘も同じサークルの杉浦 紗希。167cmでスタイル抜群の体から放たれるレイアップシュートは否応なく周囲の人間を魅了する。でも、そんな事ばっかり言ってると周りの男子が引いていくゾ。
「えー!あやのん彼氏できたのぉ?」
目に星をいっぱい浮かべて若干ウルウルさせながら優奈が乗ってきた。
いやいや、できてないから。そう言って右手を軽くブンブンさせる。ま、よくわからないのとは一緒にいたんだけどと心の中でつぶやく。
「早く彼氏作りなさいよ。ちょっと気を使えばできるわよ、綾乃悪くないんだから」
紗希が溜め息混じりで嘆く。はいはい、紗希さんは大変おモテになりますからね。
その紗希が悪くないとお世辞でもいうのだからそれなりなのだろう。
ミルクティー色のショートカットにクリっとした目。158cmの平均身長に一部を抜いてほどよい肉付き。男受けする服と猫かぶればいけるわよ、と紗希は言う。
紗希さんは猫をかぶられますのが大変お上手であらせられますものね。嫌味を言うとそんなのはして当然でしょう?と返ってくる。
しばらくやり取りした後、ごめんね、ちょっと眠らせて…… そう言って1時間の仮眠についた。
夢の中で、少し髪を伸ばしてふんわりボブになり可愛い服を着た私が出てきた。どこから見ても違和感がある。
うん、ないな。
かき消してまた浅い眠りに戻った。
今朝の目覚めはそれはもうひどかった。寝起きが悪いのはいつもであるが、今日は睡眠時間が全く足りていない。毎日8時間寝たい私にとって拷問のようだった。
それでも起きられたのは、奏也に耳元で囁かれたからだ。目覚ましにはいいのかもしれないが、耳元は禁止にしておこう。
とりあえずシャワーを浴びて無理やり目をこじ開けようとしたが余り効果は無かった。昨日の学習のおかげで一緒に入ろうとはしてこなかったのはいい傾向だ。
昨日までなら、朝シャワーを浴びた後などバスタオル1枚で部屋を闊歩するのだが、そういう訳にも行かない。仕方なく服を用意してから入った。
面倒だし開放感を感じたいのもあり、少し外で時間を潰しててと言おうかとも考えたのだが可哀想な気がして言えなかった。
いつも朝食は食べない事を伝えておいた。出してくれたヨーグルトだけを口に入れて学校へ向かった。
2限目も3限目も寝てしまった。ようやく調子が戻ってきたのはお昼になってからだ。
お昼は学食にサークルで集まって食べる事になっている。先に着いていた紗希と優奈に手招きされた。
先輩方も数名見受けられた。こんにちはーと挨拶をする。
こんにちはーとかおうとかいろんな返事が返ってくる。席につこうとすると挨拶以外の言葉を投げかけられた。
「どうしたの?眠そうだね?」
見るからに爽やか好青年から発せられる声には人を惹きつけるものがあると以前から感じてはいた。3年の君島 郁杜先輩。そのルックスから1年女子の間でも大人気なのだがバスケも上手い。
「昨日寝つきが悪くて」
苦笑いをしつつ優奈の隣に座った。
サークルの活動は週に2回、火曜と金曜に行われる。学校の体育館の一部を借りてゲーム中心に行うお遊び程度のものだ。
私は体を動かす事が好きで、中学まではバスケ部だった。高校では続けなかったものの、それなりには動ける方だと思う。
紗希も中学までやっていたと言っていた。優奈は運動はあんまりらしい。
今日は木曜なので明日は活動日だ。今日はちゃんと眠れるといいな。
人物説明回ですね。全部ダメなのですが、こういう回が一番苦手です^^;
優奈のような女の子が好きな男性も結構いそうですね、本当にいればいいのですが。騙されてしまえ。騙されても本望か・・・