どうかお気になさらずに
こいつは機械、こいつは機械。悪意なんて欠片もない。
そこがタチが悪いのよねぇ。
自分の右手をさすりながら綾乃はそう思う。
しかも見た目は成人男性。かつイケメン。本当に慣れるのかな?不安いっぱい夢皆無。
奏也は何事も無かったかのように夕飯の準備に戻っている。
しばらくするとトマトソースのいい匂いがするペスカトーレ風なパスタとシーザーサラダがやってきた。
わぁ、おいしそー。
食事は綾乃が座っているテーブルの前に並べられる。どうぞ、と奏也が掌でうながす。
「あんたのは?」
口に出してから気づく。
「私には食事は必要ありません」
機械である事を忘れてしまっていた。バツの悪い顔になってしまったのを奏也が察知したのだろうか付け加えた。
「必要は無いのですが、飲食をしても平気な作りにはなっております。どうかお気になさらずに」
へぇー。どういう構造なのだろう。そう思ったが聞いてもわからなさそうなので止めた。
その代わりに台所に向かい、小皿とフォークを取ってきた。
「あんたも一緒に食べなさい?」
奏也はその意味の無い行動を勧められた理由を検索しているようだ。
「一緒に食べた方が、私も美味しいから」
恐らく理解はできていないのだろう、が、かしこまりましたと言って2人でイタダキマスをする。
味の方は…… 文句のつけようもなく美味しかった。機械だもの調味料の分量などそれはもうキッチリしているのだろう。
綾乃は食べながら考えていた。いろいろ開発者の文句を言ってきたが、ボンクラって訳でもないんだな、と。
食事を終えて、奏也は洗い物を済ませお風呂の準備をしていた。綾乃は食事の後に渡されたレポート用紙と<取扱説明書>に目を通していた。
なになに……
・飲食も可能です。
うん、さっき見た。
・耐水性もバッチリ。
この性能でそれは当然じゃ……
・1日1回を目安にしてAIデータをセーブして下さい。
オートセーブじゃないのかよっ!
突っ込みを入れつつも続きを読む。セーブ方法が図解入りで書いてあった。
・肌と肌を約1分間合わせる事で保存されます。
そう書かれた下の絵に目を向ける。
手と手を繋いでいる絵
キスしている絵
裸で抱き合っている絵
丸めて破り捨ててやりたかったが我慢した。後から困るかもしれない。
「入浴のご用意ができました」
奏也にうながされる。
奏也が綾乃のボタンを外し始める。待て待て待て待てっ!
「お背中お流し致します」
い・い・か・ら
「あっち行けーっ!」
奏也を部屋に押し込み、座ってなさい。と命令する。オスワリさせられた奏也はおとなしくしている。
ペットを飼った経験、そういえばそんな質問項目がアンケートにあったなぁ。
この疲れは取れるのだろうか。お風呂に入りつついろいろ考えた。それにしても……
やっぱりダメだ、エロボンクラ開発者めっ!
寝る前に案の定、奏也は添い寝を提案してきた。丁重にお断りした。少し慣れたかな?
それでは、と、お休みのキスをしようとしてきた。本当にAI機能ついてるのか?
ああ、セーブしなきゃ。とりあえず握手をする。機械だと思えばこのくらいはいける。
それに、これでエロさが減るのだ。明日になって忘れられてはたまらない。
こうして波乱万丈の1日目が終わった。
周防さんは何を考えて基礎情報をインプットしたのでしょう。
感性がとても心配です。