どんなに…… (終)
秘密?
戸惑う綾乃を前に奏矢は静かに語りだした。まず1つ目ですが……
「階段から落ちて以来、私には感情のような物が芽生えました」
綾乃はじっと奏矢を見つめて耳を傾ける。
「初めは……これが何なのか、コネクト社で周防さんが教えてくれるまではよくわかりませんでした。聞いた後ようやく自分の気持ちであり考えであり感情なのだと理解しました」
奏矢はゆっくりと、言葉の意味をかみ締めながら続けた。
「星や海を見て美しいと思うだけですごく世界が鮮明になったよう……な、そんな世界に色が増えたような錯覚を起こしました」
確かに世界観が変わるのだろう、綾乃は思う。
「自分の意思というか、綾乃さんに会いたくなっ……てお祭りにも行きました」
前に言われた時と同じ言葉なのに。お祭り会場で聞いた時はただのプレイボーイ設定の一言だと思っていたものが、今回は綾乃の胸に響く。嬉しい。すごく嬉しい。
そこまで話を聞いて綾乃は君島の件を思い出した。奏矢はあの時どんな気持ちだったのだろう。やっぱり傷つけていたのだろうか…… しかし奏矢はその事には触れなかった。
「でも綾乃さんにこの事実を告げる事は……できませんでした。私は女性に喜んで頂く為に作られたアンドロイドですので。感情があると知られて……遠慮されてはいけないと」
そんな事気にしなくていいのにと綾乃は思った。
でも失敗した事も何度かあるのですよ。そういって奏矢は誕生日ケーキの事を覚えているか綾乃に尋ねた。もちろん覚えている。そういいかけて綾乃はハっとした。
「はい。ケーキを食べると言った……綾乃さんに、無理しないで下さいと」
確かにそうだ。主人の綾乃が食べると言ったら素直に用意すればいいのだ。奏矢は苦笑いをする。
楽しい思い出が沢山あります。奏矢はまた放し始めた。
「本当にいろい……ろすばらしい体験をする事ができました。とて……も感謝しています」
奏矢の話し方が気になった。調子悪いのだろうか?
私は何もしてないよ。そんな事よりもこれからいっぱい思い出を増やしていこうね。綾乃はそういって奏矢の手に触れた。
手を握り返した奏矢は綾乃から目を背けて言った。
「それは少し難しいか……もしれません」
言い終えると奏矢は再び綾乃の顔を見つめる。眼鏡越しの瞳は悲しげな色をしている。
「私は多分も……うすぐ完全に停止す……ると思います」
え?何?停止?
「こうな……る事は前からわかってい……ました。周防さんにもどうに……もできないらしくて」
最初のうちは回数も少なく、固まる時間も短かったのだけれど最近は回数も時間も増えてきたと奏矢は苦しげに伝えた。
ちょっと、しっかりしなさいよ、ねぇ、奏矢、ねえってば。
奏矢の体を揺すりながらあふれ出した涙を気にも止めずに綾乃が叫んだ。奏矢の反応は途切れ途切れだ。
「綾乃さ……んに出遭え……て奉……仕する事がで……きて本当によ……かったです」
そうよ、まだ半年しかたってないじゃない。私は主人なのよ。言うこと聞いてもっと奉仕しなさいよ。ずっとそばにいてよ……
「あり……がとうご……ざいまし……た。と……ても幸せで……した」
過去形にしないでよ。いなくなるなんて嫌……
「綾乃……さ……ん、大好……きです」
私も、私もだよ。好きだよ、奏矢。大好き……
「こん……なアンド……ロイ……ドを好……きに……なってく……れてあ……りが……」
綾乃は何度も、何度も奏矢の名前を呼び続ける。
けれど、どんなに名前を呼んでも、返事はなかった。
綾乃は奏矢の眼鏡を外した。瞼にキスして奏矢の目を閉じさせた。
「最後まで嘘ばっかりついて。アンドロイドが……涙を流す訳ないじゃない……」
綾乃の唇は濡れていた。
この作品を書いた経緯
人と機械の恋が書きたい>でも機械って心ないよね>じゃあ何かショックでもたせよう>でもそんなショック起きたら壊れるよね
この4つだけを念頭に見切り発車で書き始めました。展開や文がおかしいのはそのせいと作者の力不足によるものです。
次に書く事があればしっかり練って書くように努力します。
人と機械という相容れないものが奇跡的に心が通じ合い、しかも最後にまるで人間のように涙を流したと思われるアンドロイド。(なぜアンドロイドに眼鏡が必要か。周防のイメージ戦略もあるでしょうが、ずっと泣いていた綾乃の涙が奏矢の目の周りにつくのを保護する為でもあります)
念願の<ハッピーエンド>が書けました。これ以上の幸せはありませんよね?w
いやぁ、ハッピーエンドっていいよ、うん。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
影響を受けたと思われる作品
電影少女 そらのおとしもの 狐僕SS 黒執事




