土曜日
「お待たせしました」
待ち合わせ時間よりも早く着いた綾乃が言った。
「まだ16時になってないよ」
郁杜はそういって時計を綾乃に見せる。そう、綾乃は時間にはルーズじゃない。今日も15:50には駅に着いているのだ。一体いつからここにいるのだろう。隣の紳士を見ながら考える。
待ち合わせの駅は普段綾乃が使わない駅だった。郁杜に誘導されつつ映画館へと足を運んだ。
土曜日という事もあり人はとても多く見受けられた。知らない街なのもあり、迷子にならないようについていく。
映画はいわゆるちょっと切ないハッピーエンドのラブストーリーで、終わった後も鼻をスンと鳴らす音が聞こえていた。綾乃もそのうちの1人だった。
時計は19時を回っていて帰ろうかとも思っていたのだが、家に帰って1人でコンビニのお弁当を食べるのは……と郁杜に言われ食事をする事となった。
着いたのは綾乃が普段あんまり縁のないとってもオシャレな和食レストランで、郁杜のセンスの良さも伺えた。よくこういうお店に来るんですか?と尋ねると友達に教えてもらったのだという。その真偽は定かではない。
食事がくるまで映画の話をした。まさかあそこでああくるとはねぇ。郁杜も楽しめたのだろう、満足そうだった。
メニューは郁杜にまかせてあった。海鮮類が好きだというと、郁杜は旬の魚やら海老やらと適当に数品頼んでくれたいた。友達に聞いたなどというさっきの言葉はきっと嘘だろう。どちらかと言えば教えている方だなと綾乃は思った。
出てきた料理はどれも美味しかった。さすがモテモテ好青年が自信を持って連れてきただけの事はある。
食事も終わり一段落してからお店を後にした。半分出しますと言ったのだが自分が無理やり誘ったんだといって郁杜は聞かなかった。ではご馳走になりますと言って駅へ向かった。駅につくと郁杜は真剣な顔で質問をしてきた。
「那由多は付き合ってる人いるの?」
いないですよと答える。しかも今まで付き合ったのなんて高校生の時に一瞬付き合ってすぐ別れてしまった1人だけです、などと説明もした。私モテナイですから、そういって苦笑いをする。
「そんな事ないよ」
郁杜は真剣な顔で続ける。
「僕は、那由多の事が好きだよ」
ストレートに言われた。突然の告白に頭の回転が追いつかない。
またそんな事言って~、などと茶化す雰囲気では無かった。返答に困っている綾乃にさらに質問が襲いかかる。
「好きな人でもいるの?」
そう言われた瞬間自分の鼓動が早くなったのを綾乃は認識した。
好きな人。
果たして好きな人がいるのだろうか。その単語で頭の中を張り巡らせる。
1人の姿が脳内に映し出された。好きなのか。そう聞かれるとまた返答に困った。自分でもよくわからない。
しばらく考えこんだ綾乃は、真っ直ぐに郁杜を見つめ返して静かに口を開いた。
「気になっている人造人間はいます。」
気のせいかも知れませんが、今までの中で一番<小説らしい文章>が書けた気がします。




