同調する
「スリー!」
相手チームの先輩がディフェンスの注意を呼び掛ける。対応がもたついている隙を逃さず、綾乃の手から放たれたボールは美しい放物線を描いてネットの擦れる音のみを響かせる。
普段から割りと本気でやっていた綾乃だったが、ここ最近は特に気合が入っていた。コートの中を縦横無尽に動き回る。途轍もない運動量を見せていた。
「あやのん凄かったねぇ」
隣のシャワーを使っている優奈が感嘆の声をあげた。
「調子いいねぇ」
紗希も感じていたようだ。
「……たから」
綾乃の声はシャワーの音にかき消されて2人には届かない。なあに?と紗希が聞きなおした。
「太ったから、いっぱい動くのっ!!!」
はぁ、言ってやった。好きなだけ哀れむがいいさ。綾乃は体を洗い続けた。
「そぉ?どれどれ」
そう言って紗希は綾乃が使用しているシャワーの扉を開けた。
「えー、そおぉ?」
優奈も駆けつける。
狭いシャワーの区切りに3人がひしめきあう。大変羨ましい2つの裸体を眼前にした綾乃は敗北感と焦燥感でいっぱいになる。
「いいから、あっちいきなさいよー」
不貞腐れ気味の綾乃が吐き捨てる。そんな綾乃を尻目に紗希が体中を触りだした。
「ちょっと、やめっ……」
くすぐったさに耐え切れずに綾乃はしゃがみこんで丸くなった。
「平気じゃない?それくらいでいいと思うよー。ねぇ優奈?」
勝ち組の紗希は優奈に同意を求めた。
「うんうん、大丈夫だよぉ」
それに優奈も同調する。完全に上から見てるだろっ!そう思いつつもシッシッっと手を振り2人を追いやった。
3人がシャワーから出た頃にはほぼ全員が体育館前に揃って談話していた。集まったのを確認するとみんなで駅方面へと向かった。
相変わらず君島先輩の周りには1年女子が多く、帰り道での会話を楽しんでいた。
靴にちょっとした違和感を感じた綾乃は優奈達に先に行っててと言い残し、ガードレールに手をかけて靴を履きなおしていた。
「大丈夫?」
突然の声にビックリしてふと見上げるとそこには郁杜が立っていた。
「ああ、すみません。大丈夫です」
そう言って履きなおした綾乃は郁杜と並んで歩き始めた。
「那由多って映画好きだったよね?」
唐突に郁杜が会話を切り出してきた。
「ええ、まぁ」
前にそんな話したっけな? 映画は好きなのだが特に覚えていなかった。
「もらったチケットが2枚あるんだけど、那由多一緒に行ってくれない?」
爽やか好青年からドラマの台詞まんまの様に誘われて、クスッとしそうになった。でも絵になるなぁ。
「君島先輩なら他にいくらでも行ってくれる女の子いるじゃないですか」
本当にそう思ったのでそのまま伝えた。
「そんな事ないよ。それに映画が好きな娘と行った方が楽しいじゃない」
謙遜する事も忘れない。モテる訳だ。
「那由多は明日暇?」
明日は土曜日で学校は休みだ。特に予定は無いのだが返答に困っていた。
「何か用事あったりする?」
いえ、特には…… でも、とまごついている間にチケットを見せられた。これなんだけどと差し出されたチケットは綾乃の見たかった恋愛映画だった。
「あーこれ見たかったんですー」
ついうっかり口に出してしまった。
「じゃあ明日16時に駅でいいかな?」
断るタイミングを逃してしまった綾乃の手にはチケットが握られていた。
まあいっかぁ。
そう思いチケットをバッグにしまった。
皆さん大変長らくお待たせ致しました。
待望のシャワー回でございます。
……
見えねーよ。ここだけアニメ化し(デジャビュ)
映画に誘うのくらい友達でもあると思うんですが、恋愛映画となるとどうなんでしょうねぇ。
まぁ綾乃はオコチャマで気づけないのだと思います。
申し訳程度のバスケ描写に関しては、スラムダンクとあひるの空でしか知らないため、ボロが出るのを防いだ形になります。




