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13/22

どちらにいらっしゃいますか?

 9月22日。朝から綾乃は1人でブラブラしていた。奏矢からは夜まで帰ってきちゃダメだと言われている。今頃必死に準備してくれているのだろう。夜が待ち遠しい。


 1人で1日丸々過ごすのなんて久しぶりだ。とりあえずウインドウショッピングする事にした。ただただブラブラとしている。


 時計を見た。まだ13時を少し過ぎた所だった。あんまり時間たってないな。


 やや遅い昼食を食べる。美味しい。でもちょっと物足りないかな。


 本屋へと向かう。雑誌を立ち読みしたり、気になっていた小説を少し読んでみたり。とりあえず購入決定。


 再び時計に目をやる。17:30か。思ったより時間潰せてないゾ。


 ネカフェに入ってみた。6時間パックで丁度いい。漫画の山を積んだ。あはは。うん、面白いんだけど……





 どうにか丸一日時間を潰す事ができた23時過ぎに奏矢からメールが来た。漫画を放り投げて確認をする。


 「準備が整いました。お迎えにあがります。今どちらにいらっしゃいますか?」


 絵文字も顔文字もない質素な文章に返信をする。自分がすごい勢いでメールを打っている事や自然と笑顔になっている事などに綾乃が気づく事は無かった。


 外に出ると奏矢を見つけた綾乃は小走りで駆け寄っていく。ご飯なにかなぁと語りかけて歩き出した。


 「内緒です」


 口唇に手をあてて奏矢は教えてくれない。ふーんだ、いいもんねー。軽やかな足取りのまま家に到着した。


 


 簡単な手作りの飾りつけされた部屋はキラキラしている。思わずワァーと声がもれた。


 テーブルにはシーフードいっぱいのパエリアにコーンポタージュスープ。それに……金平ゴボウにバンバンジー、ホウレン草のおひたし、ノンアルコールのシャンパン。それにホールケーキが並んでいた。


 イタリアンに中華に和食、普通ではありえない組み合わせだった。でも綾乃はすごく、とてもすごく嬉しそうに目を輝かせている。全て綾乃が大好きなメニューだという事以外にも理由はあった。


 

 グラスに奏矢がシャンパンを注いでくれる。ケーキの蝋燭に火が灯される。奏矢は1度電気を消しに席をたち再び戻ってきて例のバースデーソングを歌ってくれている。


 19本の蝋燭の火は、2度息を吹きかけた所でおとなしくなってくれた。おめでとうございます。そういいながら奏矢が明かりを付けに行った。


 


 「食べていい?」


 我慢できずに綾乃が催促をする。どうぞお召しあがりくださいと聞き終える前にいただきまーすと綾乃がかぶせた。


 美味しい、とても美味しい。恐らく食べ合わせとしては相当おかしいのかもしれないのだがそんな事は一切感じなかった。


 

 「ふごくおいひいょ」


 お行儀悪い事など気にせず食べながら綾乃が満足気な顔をする。それを見た奏矢も嬉しそうにしていた。


 


 ただ、量がいっぱいあって食べきれなくなってしまった。お箸の止まった綾乃を見て、奏矢は無理しないで下さいね、ラップしておきますのでと心配そうにいう。


 シャンパンで喉を潤している綾乃に向かって奏矢が言った。


 

 「ご満足頂けたようで何よりです。ケーキは冷蔵庫に入れておきますね」


 そういってケーキに手をかけようとする奏矢を綾乃が制止する。


 


 「ちょっと、何してんのよ」


 別に怒った口調では無かったのだが奏矢が不思議がる。


 「ですから冷蔵庫に……」


 「食べるわよ、ケーキは」


 すごい勢いで綾乃は返答する。


 「ですがご無理されてもよくな……」


 「いいからお皿と包丁っ!」


 

 そういって奏矢にケーキを取り分けさせると、満面の笑みを浮かべてフォークを握り締めケーキに向かい合う。


 上に乗っていた飾りのチョコももちろん要望した。


 「いただきます」


 元気に2度目の挨拶をして、綾乃は即座にケーキをたいらげた。非常に充実した、やりきった満足そうな顔でゴチソウサマをする。


 

 「すごくおいしかったよ、ありがとう。あ、残りは冷蔵庫にお願いね?」


 いかにも<余は満足じゃ>と言い出しそうな雰囲気で片付けを促す。


 かしこまりました、という奏矢の表情は少しだけ呆れているようにも見えた。



 

 マッタリと余韻を楽しむ綾乃。そこに片付け終えた奏矢がやってきた。


 「これはお渡しすべきか少し迷ったのですが……」


 珍しく歯切れの悪い奏矢はやや俯き加減に言いながら綾乃の右手を優しく手に取った。


 不意の出来事に抵抗する余裕もなく力を抜いている綾乃の薬指には、ビーズで作られた指輪が飾られていた。


 訳もわからず、しばらくボーっと眺める。右手を上げて電気の光にかざしてみた。


 キラキラと輝くビーズの光は綾乃をウットリさせるのに十分であった。



 

 「ありがとう」


 振り返った綾乃の笑顔は部屋の飾りやビーズの指輪よりも輝いていた。

 

 

前半の短文の連続は作者のやる気がない訳ではありませんw


さて終盤に向けて残す所あと数話。お付き合い下さい。

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