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(つむじかぜ)博飆Ⅲ~知恵袋  作者: sadakun_d
老夫婦の’孫’誕生
1/6

浜辺の旅館ー老夫婦

白浜が何処までも続く海岸線。時折大波が打ち寄せ浜辺を綺麗に掃き清めていく。


水鳥が遊び優雅に大空を飛び回り青い松林と岸壁は海の自然を感じさせていく。

白い砂浜は夏に海水浴のお客が幾人か戯れている。


ここは小さな漁村の浜辺である。浜には個人経営の料理旅館や釣具店がぽつんぽつんとあった。


その浜辺にこじんまりとした料理旅館があった。


ある日を境に突如"美貌の若女将"がいなくなり村の噂となった料理旅館である。


矢のごとく歳月は流れ浜辺の旅館の噂は消えいつしか旅館としてだけそこにあった。


うら寂れた漁村は消えた若女将の消息を知ろうという者はほとんどいない。


若女将が立ち消えた料理旅館は今は老夫婦がいる。


この浜辺に点在する料理旅館の中で一番はやる宿であり辛うじて健在していた。

料理で勝負する旅館。泊まり客の切り盛り(サービス)は最大の重労働である。


高齢の域にある老夫婦。自分らの世話さえも難儀な話。旅館業務から退いて従業員にすべて任せていた。


旅館が毎年繁盛することが老夫婦の楽しみである。


さらには


消息を絶つた若女将が残した子供が立派な男の子に成長することが嬉しかった。

忘れ形見なる男の子。老夫婦は実の祖父母として接し育てたのである。


男の子は幼年から成長し尋常小学校に入学する。


子供が成長して老夫婦は養子縁組みをしている。


同じ苗字にし戸籍の上で養父母で親子になる。


若女将は立派な子供を残していた。頑張って旅館で働き盛り立ててくれた。


今の旅館を立派なものにしてくれた。


浜辺にある民宿程度の旅館の面影はなく漁村一番の繁盛した旅館として格の違いをみせていた。


旅館の繁栄は広がってとどまりを知らない。


立派な料理をこさえて素晴らしいもてなしと評判である。


泊まり客はひっきりなしに訪れており嬉しいことに一年中予約はいっぱいであった。


「おじいさん嬉しいですね。夏から秋口にかけてお客様がわんさかです。旅行会社から問い合わせがあったんですけど。もうお部屋がありません。お断りしなくてはなりません」

連日満員の旅館とは嬉しい悲鳴である。


夏休みから秋口にかけて泊まり客の予約はいっぱい。

一年で一番の夏の繁忙は目の回る旅館である。


旅館の繁忙はすべて"あの女"がいたから。


若女将として旅館業に精通をし明るい経営手腕を発揮してくれたからこそである。


老夫婦は若女将に感謝をしている。残した子供を育てながらも消息が知れない若女将の帰りを待つ。


老夫婦は神棚に毎日手を合わせる。


「子供はよい子になりました。貴女の帰りだけをお待ちしております」


老夫婦には女が旅館に転がり込んだその日から消息を絶つ日までしっかりと思い出されていた。


ある日を境に忽然と消息を絶った女。旅館で若女将ともてはやされ商才はずば抜けていた。

たまに訪れる程度の泊まり客にも3度の料理をすべて女の手料理でもてなした。

若女将はお客様の様子を見ては品を変え味つけを変えてみた。


創造性も豊かで旅館の泊まり客の要望に応える手料理を考案してみせた。


煮込み料理は得意中の得意。様々に味をつけては食卓に出す。女の腕の見せどころである。


泊まり客の意見を子細に聞き出し"お客様の舌づつみ"の具合を見つけ出す技術にも長けていた。


煮込み手料理を仕掛けたら若女将の右に出る者はないとまでその浜辺界隈で言われた。


バラエティに富む煮込み料理。毎日毎晩に工夫と創意を加え万全な料理となっていく。


甘味が欲しい。


辛味を効かせたい。


酸味のあるマヨネーズ和えが欲しい


お客のリクエストを聞くだけで舌の越えた味覚をうまく満足させる。


うま味の効いた煮込み料理を出す。若女将の評判は泊まり客の間で頗るよく鰻登りである。


「あの料理旅館の煮込みは最高だな。田舎料理と言ってしまえばそれまでだが」

泊まり客が一度は言う台詞である。


「一度食べたら二度目三度目と食べに来たくなる煮込み。うまいなあ~あの料理。さらには若女将の料理の戦略がよりうまいもんさ」

泊りにくる常連は増える一方だった。その頃の煮込みの評判は今でも語り継がれ評判となる。


2年前に老夫婦は手狭な旅館だけでなく念願の別館をオープンさせた。


浜辺の旅館からは少し離れた山肌に土地開発事業があった。土地の造成は国と自治体が行い商業スペースとして造成地は売り出されていた。


自己資金は15%。土地開発事業と観光地開発事業と公共自治体が支援。両方からの資金援助は買い主の老夫婦を後押した。


老夫婦の建設予定は近代的なホテルである。浜辺にある和風料理旅館とはまったく異なりショウシャなホテルだった。


近代的なホテルのオーナーは老夫婦に望外の喜びである。

「ワシら老夫婦はよい冥土のミアゲができたもんだ。このホテルは孫が将来経営してくれる。思えば若女将が浜辺の旅館に泊まってくれたおかげ。ここまで大盛況な旅館にしてくれた功労者だよ」


神棚に手を合わせ拝むのである。


ある日突然の行方不明の女がこの旅館に帰ってきてもよいように。


老夫婦はいつも暖かく迎え入れたい。


そのために


無理をしてホテルを買いつけた。


女にお礼の意味で造成地にホテルを建設したと言うべきか。


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