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コーヒーはマンデリン

作者: 天國朔世
掲載日:2026/05/09

コーヒーを飲み始めた。

★☆☆

 高校一年生、丁度春頃に留学した。

 アメリカだ。

 その時に出会ってしまった。気づいてしまった

 コーヒーの美味しさに。




 コーヒーを飲み始めたのは、留学先、歳が近く向こうで作った友人に薦められてからである。

 正確に言うと幼稚園児の頃に一度だけコーヒー牛乳を飲んだことはあった。

 だがあまりの不味さに吐いた事を覚えている。

 味覚が鋭敏だっただけのことだ。

 余り多くを思い出す事は出来ないのでこの辺でその話はやめておこう。



 さてそれからおよそ12年ほどが経ち私は今コーヒーというものにハマっている。

 その理由に重苦しい事情はない。

 偶然。

 その一言で片付く程度のことだ。

 相手方からすれば私という人間をもっと知る。その一環だったのだろう。

 コーヒーに誘ったのは打算だったと思う。

 珍しい日本人留学生は話の種だ。

 そんな感じの事を考えて無難に切り抜けようとしていた。


 しかしながら、私に取っての興味関心……人間関係と未知の比重はコーヒーの方へと寄っていた。

 あの時の小さな小さな出会いは……コーヒーとの遭遇は私の生活習慣を変える程度には大きいものとなったのだった。


☆★☆


 そういえば……人は三度(みたび)、人生という者の分岐点に、その中でも特に大きな機会に出会うらしい。


 案外、留学に行ったという事よりもコーヒーに出会った、その事実それそのものこそが私に多大なる影響を与えたかも知れない。

……知らないけれども。


 ちなみに私的お気に入りはエーデルワイスである。

 初心者的ではあるが、やはり美味い。

 香りは華やかで、コクが深い。


 そして……今朝コーヒーを入れようとして気づいてしまった。


 ストックしたコーヒー全てが切れてしまっている事に。


 オーマイガァッシュ



……という訳で、学校帰り新しくコーヒーを買いに行く途中だったのだけれども、どうしたものだろう。


 それがいた。



 迷子だ。誰が何と言おうとも迷子的な典型迷子である。


 幼稚園児か、歳を食っていても小学校低学年くらいの迷子である。



……非常に困った。

 行きつけのコーヒー店の閉店時間は確か17時40分。

 そして今は17時。

 行きで10分と選ぶ時間で10分と……となると20分くらいで彼女の親か、親代わりを見つけなければならない。

 近くに交番もない。商店街での迷子だ。


 とは言っても、ここで下手に催促してあの子が動いたら親御さんも見つけづらくなるだろう。




 ならば私は何もしない方が良い




……そう考えてふと思う。


 きっかけは人だ。

 私がコーヒーという趣味を見つけたきっかけも。

 そこに打算はあったのだろうが。間違いなくいい事だった。

 私が行きつけコーヒー店を見つけれたのも、そこを進めてくれた道すがらの人だ。

 渋い人だった。いい人だった。


 これまでなら、当たり障りのない言葉を自分の中で思い浮かべて、まるで言い訳をするかのように頼まれてもいない御託を勝手に並べる。

 そして終わりだった。自己満足で独りよがりの納得を隠れ蓑に動いて来なかった。何もしなかった。

 でも、人の温かさのおかげで、安らぎのひと時を得たのなら、そう思えたのなら……


ーー私にも何かできる事があるのではないだろうか。



 柄にもなく……かつてならば考えるよしもない事を思った。



 手を差し伸べてみよう、できる限り。

 探してみよう、やれる限り。


☆☆★


 まずしゃがむ。そしてゆっくり、ゆっくり目線を合わせていく。

「こんにちは。あなたのお名前は?迷子になっちゃた?」

「…ヒックだあれ?」


 あれ泣かれた?対応間違えた…か?

 いや今は柔和な態度を心がけて……


「私の名前は空天煇(ソラゾラヒカリ)。お母さんは一緒?」

「ーおかあさんとおとおさんと一緒にきたの。

でもねまぃごになっちゃっったの」


 涙目になり始めた。


 まずい。また泣かれてしまう。

 顔が引きつりそうになるのを必死に堪え笑みを浮かべる。


「大丈夫。私もあなたのママとパパを探してあげるよ。だから泣き止んで。そして一緒に探そう。ね?」


 その後、しばらく泣き腫らした顔で私を見ていたのだが、決心をしたのだろうか、ひとつ頷いた。


「うん。それじゃあ剥がれない様に手を繋ごう。」


 小さな手がこの手を掴んだ。

★★☆


「ーートンビさんのお母さんかお父さん。いらしゃいませんかー!ーートンビさんの……」


 この子の名前は小鳥遊鳶(タカナシトンビ)と言うらしかった。


 すごい名前だ。

 しかも世にも珍しい小鳥遊姓。

 何処かの中二病以外で聞いたことがない。

 一体どんな場所に……



……っと、それはともかくいったいこの子の親は何処で何をしているのだ。

 一向に姿を見せない。こんなに探しているのに。

 かれこれもう10分経ってるぞ。






……しかし、そもそもこう言う時はどう対処すれば良いのだろうか。



 分からなかった。知らなかった。


 こう言う時ばかりは自分の無知を……関心のない事への興味の無さを反省する。




 しかし狼狽えてばかりでは何も始まらないと言うのが事実だ。一緒に探すと言ったのならせめて考えよう。

 不毛な事は出来ない。何も産まない。考えなければーー


………

……


 うん?待てよ。待て待て。

 普通に携帯で調べれば良いのではないか?

 商店街で迷子を見つけた時の対処法とやらを。



 迂闊だった。

 本来なら一番初めにやるべき事だ。と言うか、大体の人間がそうするだろう。

 自分のバカさ加減を呪う、と同時に、元々コーヒーのことで頭がいっぱいいっぱいだったのだからしょうがないという言い訳も心の中で添えておく。

 その事に抜かりはなかった。

 ともかく、グー○ル大先生によると商店街振興組合とやら、つまりは事務所に連れて行けば良い、と言うことらしい。


 そっちの方向に向かって歩けば……探しながら歩けば良いと言う結論に達する。


 進路変更。


 時折、声をかけながら、自分にできる限りの優しさで、接してみる。とても難しい事だった。


 それでもきっと上手く行ってる。


 歩みを寄せて一歩ずつ進んで行く。


★☆★

「トンビはどうしてここに来たの?」

「トンビはもうすぐ小学生なの!らんどせるを一緒に買いに来た!」


 平和だ。日本は平和である。

 素晴らしい平和である。


「そうかー、小学生か〜うん良いね。友達できると良いね〜」


「うん!百人作ってみせるの!あと、あたまも良くなってぱぱとままをびっくりさせるの!」


 途中からひらがな表記になってしまうくらい純心な優しい子だ。

 眩しすぎる。


………

……


「そしてそして、お泊まり会して、お勉強会してたくさん遊ぶの!」


「そうか〜いいねぇ。お泊まり会楽しみだねぇ」


 かなりくっちゃべって歩いた頃、

 最早語彙が消失し始めていた頃。



 突然その子は走り出していた。



「ぱぱっままっ‼︎」

「「トンビ‼︎」」


 抱擁を交わす。


 いつの間にか目的地に到着していたらしい。

 この様子だと館内アナウンス一歩手前か既にしていたか……

気付いて無いから多分まだ……まだだよね?



 

……どちらにせよ、これで一時(ひととき)の冒険は終わったわけだ。


 僅かな寂寥が胸の内を駆け抜ける。

 既に17時30分である為にコーヒー屋さんは間に合わない。

 しかしそれでも……



「ひかるさん‼︎ ありがとうございましたー」


「「トンビをありがとうございます」」



 こうして何かをする事はできた。

 正直言って何かを渡したって訳でもないのだけれど、少し心がほっこりした。

 だからだろうか?

 咄嗟に口に出ていた。


「こちらこそ,ありがとうございました」


 全くなんだよ。

 あの子が礼をする必要なんてどこにも無いのに。

 あの子の両親もこっちが勝手にやった事でむしろ迷惑になったかもしれないのに。


 こっちもつい言ってしまった。



 でも、まあ……



 深く礼する。

 こちらこそ貴重な体験をさせてくれてありがとう、と。


 その時、少し嬉しかった

☆★★

 親子と別れて暫く歩いていた。

 コーヒー屋さんはもう既に間に合わない。

 だから軽く、この商店街を見回して帰ろうと思っている。


 歩く、歩く、トコトコと。


 トコトコトコトコ、歩いていく。


 そしたらあった。

 コーヒー屋さんが。


 嬉しかった。

 別に際立って善行をしたと言うほど他人に誇る様な事はしていない。

 それでも、何か運命を感じてしまう。


 きっと、こうして正解だったのだと思えたからなのだろう。

 偶然だ。この出会いは偶然でしかない。

 でもこんな事が素晴らしいと感じられて心地良かった。


「いらっしゃいませ」

 老紳士がそう声を掛けた。

 店内には如何にもな雰囲気が漂っている。

 独特なコーヒーの匂いが鼻腔をくすぐる。

 光の当たりがちょうど良い塩梅で袋の文字を映している。

 ゆっくり、ゆっくりと見回る。


 グアテマラ、モカ、クレオパトラ、エーデルワイス、クイーンシバ……


 これまで飲んだ事のあるコーヒーも飲んだ事のないものも沢山あった。




 だからこれを選択したのも、全て私の気まま。

 変わることを選んだのは紛れもなく私の思い。

 その報酬は偶然しか運ばない。

 美味しいか美味しくないか。どうだろうか?


 手に取った『それ』をレジに持って行く。


 2100円


 それが私の選んだコーヒーの値段だった。

★★★

 ポトスマーブル、ブルーマウンテン、モンステラデリシオサ……それら観葉植物が目を覆う。


 テーブルに飾ったそれら観葉植物群の奥、カーテンの向こうには庭がある。

 それがこの家の間取りだ。


 軽くチンしたトーストにバター、卵焼きにサラダ。 それらを掃き出し窓の隣に面したテーブルに配膳し、そして昨日買ったコーヒーを注いでいく。


 庭を見る。

 そしてコーヒーの匂いを嗅ぐ。

 これが正しい作法なのかわからないけど、この工程を得る事が私は好きだ。


 口に含む。


 そして思う。



 今日はどんな事があるだろう?

 何と出会うことが出来るだろう?








 今日のコーヒーはマンデリン。






 それは少しほろ苦く、初心者にはまだまだきつかったのかも知れない。



それでもとても美味しかった。

大体実話です。

話を書くのは難しい。

性別を描写しない事を意識しました。


何かミスがあればお知らせ下さい。


天國朔世

年齢 17

職業 高校2年生

執筆は趣味

特技はピアノを弾く事

好きなモノ、個性的な人間と小説、寿司、矛盾

嫌いなモノ、なし。

 強いて言えば、自身に関わりないもの全て

思想 ロマンチズムとリアリズムを反復横跳びしている

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