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最強黒猫の絶対防御と、無自覚バフの歌姫 〜心を閉ざした少女は、極上の音色で異世界を無双(癒や)します〜  作者: ぱすた屋さん


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第13話:【黒猫の裏側】お買い物中のご奉仕。近隣のゴブリンの巣、単独殲滅完了

 


 今日は久しぶりに、ギターを弾かない休日だ。

 宿屋の女将さんから「たまには息抜きをしておいで」と、おつかいを頼まれたのだ。


 渡されたメモ(もちろん文字は読めないけれど、イラストが描いてあった)と、少しばかりの銀貨を握りしめ、私は活気あふれる朝の市場へと足を踏み入れた。


「さあさあ、獲れたての魚だよ! 活きがいいよ!」

「東の国から仕入れた珍しい香辛料はいかがかな!」


 色とりどりのテントが立ち並び、人と荷車がひしめき合う大通り。

 いつもの噴水広場とは違う、むせ返るような熱気と様々な匂いが混ざり合った空間に、私は少しだけ圧倒されてしまった。


 それでも、店先に並ぶ見たこともない野菜や果物、キラキラと光るガラス細工のアクセサリーを見ていると、自然と胸が高鳴る。

 元の世界でも、ショッピングモールを当てもなく歩くのは好きだったから。


『おい人間。あまりフラフラするな。迷子になっても、俺は探しに行かんぞ』


 私の足元を歩く黒猫が、器用に人混みを避けながら呆れたように尻尾を揺らした。


『それにしても、こんな人間の密集地帯の何が楽しいのやら。俺は早く宿に戻って、あの赤いベルベットの上で極上のマタタビを聴きたいんだが』


 文句を言いながらも、私が立ち止まると必ず足元で待っていてくれるのだから、本当にこの相棒は面倒見がいい。

 私はクスッと笑い、女将さんに頼まれた香草ハーブのようなものを探して、露店を一つ一つ覗き込んでいった。


 あ、あそこにイラストと同じような葉っぱがある。

 私は小走りで店に近づき、店主のおばあさんにメモを見せた。


 声が出ない分、身振り手振りで「これと同じものをください」と伝える。

 おばあさんはニコッと笑って、香りの良い草の束を紙に包んでくれた。


 よし、無事におつかい達成だ。

 ホッと胸を撫で下ろした私は、残りの時間で少しだけ自分のための買い物を楽しむことにした。

 広場での演奏で稼いだお金が、少しだけ貯まっていたからだ。


 ふと、通りの隅にある小さな楽器屋の前に、綺麗な模様の入った布が掛けられているのを見つけた。

 ギターを拭くのにちょうど良さそうな、柔らかい布だ。


 私はそれに夢中になり、布の感触を確かめようとしゃがみ込んだ。


 * * *


【黒猫の視点】


(……まったく。布切れ一枚選ぶのに、どれだけ時間をかけるつもりだ)


 俺は店先で真剣な顔をして布の端を指で擦っている娘を見上げ、小さく欠伸をした。


(まあいい。娘が機嫌よく買い物をして、その後の演奏の質が上がるのなら、これくらいの付き合いは安いものだ)


 俺は石畳の上で香箱座りになり、目を細めて春の陽気を楽しむことにした。

 ……はずだったのだが。


 ピクリ、と俺の右耳が不快な振動を捉えた。


(……風の匂いが変わったな)


 市場の喧騒や香辛料の匂いに紛れて、ひどく生臭くて土気た悪臭が鼻を突く。

 この匂いは、ただの野良犬や街のネズミのものではない。

 もっと凶悪で、数が多い。


 俺は娘に気づかれないように立ち上がり、市場の外れ、街を囲む城壁の方向へと視線を向けた。


(……城壁の外、東の森か。微かだが、ゴブリン特有の汚らしい魔力を感じる)


 ゴブリン。知能は低いが繁殖力が異常に高く、群れをなして人里を襲う厄介な下級魔物だ。

 どうやら、あの森の奥に新しい巣を作り、この街を襲撃する機会を窺っているらしい。


 冒険者ギルドの連中が気づいて討伐に向かうだろうが、万が一にもあの群れが街に侵入し、俺の楽士の平穏な日常――もとい、俺の極上マタタビタイムを脅かすようなことがあれば由々しき事態だ。


(……チッ。仕方ない、買い物ついでに少し運動をしてやるか)


 俺は布選びに夢中になっている娘の足元から、スッと影の中へと溶け込んだ。

 娘がこの布を買い終わるまでの、ほんの数分の間に片付けてしまえばいい。


 俺は音もなく城壁を飛び越え、東の森へと向かって漆黒の弾丸のように駆け抜けた。


 森の入り口から少し入った洞窟の前に、予想通り、おぞましい数の緑色の小鬼たちが群れていた。

 その数、およそ五十。粗末な棍棒や錆びた剣を持ち、街の方角を見て涎を垂らしている。


「ギギャッ! ニンゲンノ、マチ! クウ!」

「ヒャッハァ! オンナ、サラウ!」


 下劣な鳴き声を上げるゴブリン共を見下ろし、俺は洞窟の上の大樹の枝から、静かに魔力を練り上げた。


(薄汚い害獣共が。お前らの立てる耳障りな足音と悲鳴で、俺の楽士の繊細な音色が濁ったらどうしてくれる)


 俺がほんの少しだけ『伝説の魔獣』としての圧倒的な殺気を解放すると、周囲の空気がビリビリと凍りついた。

 ゴブリンたちが一斉に動きを止め、恐怖に引き攣った顔で上を見上げる。


「ギ、ギィ……ッ!?」


「俺のシマに手を出そうとした罪、その身で償え」


 俺は大樹の枝を蹴り、ゴブリンの群れのど真ん中へと音もなく着地した。

 そして、後ろ足で立ち上がると同時に、極限まで魔力を圧縮した両方の前足を構える。


『奥義・肉球大旋風フルスイング・トルネード』。


 ドゴォォォォォォォォッ!!!


 俺の体を起点にして、凄まじい衝撃波と漆黒の竜巻が巻き起こった。

 柔らかな肉球から放たれる圧倒的な破壊力が、周囲の空間ごとゴブリンたちを薙ぎ払う。


「ギャベェェェェッ!?」

「グペァッ……!」


 悲鳴を上げる間もなく、五十匹のゴブリンの群れは、洞窟の岩肌ごと粉々に吹き飛んだ。

 文字通り、一瞬の出来事である。


 土煙が晴れた後には、綺麗に更地となった森の一部と、完全に沈黙したゴブリンの山だけが残されていた。


(ふん。他愛もない。準備運動にもならんな)


 俺は前足の肉球をペロリと舐め、毛並みについた埃をパンパンと払った。

 娘が布を買い終わる前に戻らねば。


 俺は再び漆黒の弾丸となり、来た時よりもさらに速いスピードで街の市場へと帰還した。


 * * *


「……よし、これにしよう」


 私は綺麗な青い模様が入った布を手に取り、店のおじさんに銅貨を渡した。

 これでギターをピカピカに磨いてあげられる。


 満足して振り返ると、足元にはいつの間にか黒猫がちょこんと座っていた。


「あ、ごめんね。待たせちゃった?」


 声には出さないけれど、少し首を傾げてそう伝えると、黒猫は大きな欠伸をして尻尾を揺らした。


『ふん。全く、女の買い物というのは時間がかかってかなわん。俺は退屈すぎて、あくびが五回も出たぞ』


 黒猫の言葉に、私はクスッと笑ってしゃがみ込み、その柔らかい頭を撫でた。

 ごめんごめん、これで帰るからね。


『分かればいい。さあ、宿に戻るぞ。今日の午後は、たっぷりとマタタビの音色を聴かせてもらうからな』


 偉そうに歩き出した黒猫の背中を追いかけながら、私は買ったばかりの布を大事に抱きしめた。

 この街の平和な空気と、相変わらずちょっと態度のでかい相棒。


 私の異世界での休日は、今日も何事もなく、のんびりと過ぎていくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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