娘からの年賀状
妻と娘が交通事故で亡くなってから三か月が過ぎていた。
やらなければいけないことに忙殺される毎日がようやく落ち着きを見せた頃、世間はすっかり年の瀬を渡りきっていた。
郵便受けに入っていた手紙やら書類やらを持ち、玄関の扉を開けてふと、気が付いた。
——こんなに広かったっけ。
去年、三十年のローンを組んで構えた庭付きの木造一軒家。
小学校に上がったばかりの娘は、家の中を隅々まで探索し、一人部屋に大興奮していた。
妻の要望の通りに設けた広いキッチンからは、仕事帰りに外までいい匂いを運んできた。
リビングには三人で選んだ家具が、少しずつ歴史を刻んでいる最中だった。
もう一人くらい子どもが欲しいね、なんて話をしていた。
犬でも飼って、庭で日曜大工なんかをして、たまの休日には旅行なんかにも出かけて。
いつか年老いて、子供たちは巣立ち、妻と二人で晩年を共にする。
これから。これから、幸せを噛みしめようとしていたのだ。
持っていた紙束をテーブルの上に投げる。
バラバラに散らばった中から年賀状が出てきた。
産まれたばかりの子を抱いた友人夫婦の写真がプリントされている。
つい、くしゃくしゃに丸めて捨てていた。
葬儀等は身内のみで執り行ったし、忙しすぎて方々への連絡を入れていなかったとはいえ、これはあんまりじゃないか。
羨望と後悔の念が頭の中をぐちゃぐちゃにしている。
——いいんだ。俺もいま、そっちに行くから。
兼ねてから用意していた縄を剥き出しの梁に結び、輪っかを作る。
椅子の上に立ち、縄を首に括って、年賀状の一つに目が留まった。
差出人に娘の名前が使われている。
例えイタズラであっても、これは到底容認できるものではない。
怒りに震えながら年賀状に手を伸ばした。
表面にはここの住所と俺への宛名、『謹賀新年』の文字と娘の名前が書かれている。
ひっくり返して裏面を見た。
そこには、妻と娘とじいちゃんと他に知らない数人の、笑顔でピースをした写真が載っていた。
『元気にやっています!』
『お父さんはまだきちゃだめだよ』
娘のまだ拙い字で添えられたメッセージが涙で滲む。
「ごめん。ごめんな」
俺は首に括った縄を解いて、暗がりの家に一人、泣き崩れた。




