41 たとえ、わかりきったことでも(終)
海坊主を祓ったあと、後から追いついた幽と中野に助けられてミココは救急車で病院へ行った。医者に診てもらった結果ミココは入院することはなく、俺たちはそのまま家へと帰ることができた。
ミココは胸骨がやっぱりまだ痛いみたいだけど、次の日、学校へは登校した。
俺ももちろん登校だ。あんなキツい霊との戦いを終えて正直休みたかったけど、ミココが行くと言うなら俺も弱音を吐くわけにはいかない。
教室で自席に座っていると、予想の通り例の奴らが寄ってきた。悪霊と戦う緊張感とあまり変わらないことに気づく。
疲れているけど、戦う準備をしなければならない。
マジナイ代わりに身につけている腕時計に目をやった。
それは如何なる悪霊をも弾き返す退魔の腕時計だと知ったからか、それとも二度と邪険にはしないと誓った大切なものだからか。
案外、俺は信心深い奴だったのかもしれない。
「よお、心霊評論家。今日はあの頭のイカれた女は来るのかなぁ」
このコンディションだし安藤一派を相手にするなんて辛くなりそうだなぁ、なんて憂鬱に思っていたけど、いざ対峙してみると意外なことに現実は全くの正反対だった。
昨日まで俺を狂わせていた安藤の言葉は、嘘のように右から左へ流れていく。
不思議な感覚だった。
俺はずっと、こういうことに敏感になっていたのに。
普通の人間だと見られたい。イカれた奴だと思われたくない。可能な限り常識的に振る舞い、体裁に拘ってきた。
「おお、来るぜきっと。これから幽霊の話をするからなぁ」
「……はぁ?」
「よかったらお前も仲間に入れてやろうか? 無理だよな。頭の固いお前らは、この世の真実なんぞ理解できねーし」
安藤は顔を歪める。
「いやいや。馬鹿なの? マジでイカれたの? なら、俺のこと呪い殺してみろよ」
すると、俺を挑発する安藤に、教室の入口から呪いの言葉が浴びせられた。
「ええじゃろう。うぬの家を幽霊屋敷にしてやるぞ。今日の晩、霊たちに話をつけてやる。楽しみにしておれ」
「……はは。そりゃいいや! 安藤さぁ、明日、幽霊屋敷の感想聞かせてくれよ!」
俺のことを呼びに来たミココの横で、安藤を指さして言ってやる。
まだ苦しそうにするミココに肩を貸しながら、清々しい気持ちで俺は教室を出た。
こんな気分になれるのは、ミココの過去に触れ、幽や、中野や、一乗寺たちと付き合ううち、ずっと悩んできたことに一つの結論を出したからだ。
確かに、クラスで友達と話すとき、あえて本気で霊のことなんて語る必要はない。人から白い目で見られるのは、今でもやっぱり辛いから。でも、自分の気持ちに嘘をつく必要もないんだ。
たとえ常識的な友達を失くしても、霊のことを信じる人たちと一緒にいれば、自分の気持ちを解放して楽しく生きることができるんだから。
いつもの校舎裏の花壇の縁に座っていると、幽が普通にやって来る。
昨日はかなり傷ついてそうだったが、今、幽の顔は俺とどっちが清々しいかと悩んでしまうほどにさっぱりしていた。
だから俺は、幽の気持ちとか考えずに、また。
「お前、なんか企んでる?」
「かずくんが六原さんへの気持ちを貫くなら、あたしだってかずくんへの気持ちを貫いてもいいでしょ」
「いやいや、あれは人命の話であって、好きとか嫌いとか……。それにしてもいい根性してるよな、真性陰キャのくせに。俺にどう思われてるとか、気にならないのかよ」
「人の目を気にして自分の気持ちを抑え込むくらいなら、かずくんに嫌われても自分の気持ちを貫いて、あたしはかずくんのことを好きなままでいる。それが何か?」
「……はは。ちげーねー」
それにしても、あまりにもサバサバしている気が。
まさかこいつ、俺にミココを助けに行かせるためにワザとあんなこと言ったんじゃないよな?
まさかな……。
俺が考え込んでいると、ミココが突然俺の首に後ろから腕を回してきた。そのせいで自分の胸が痛んで「イタタタ」とおばあちゃんみたいになった。
「なんだよ。安静にしろっての」
「これだけは言っとかんとなぁ」
ミココは白い歯を剥き出して、いつものドヤ顔をする。
「完璧に霊を目の当たりにしたな。年貢の納め時じゃ、儂の助手になれい! 断ったら、うぬが儂のことをどう思っておるか、口が滑るかもしれんぞー?」
何を言ってやがんだこいつ。
……いや待て。こいつ、確かあのとき「盾になってやろうだなんて君はカッコいい」なんて言っていた。俺の心を読んだんだ。
え……じゃあ、その前の、俺をじっと見つめてた時も?
そのあと、抱きしめ合った時も……?
確か俺、あの時、ミココのことを女の子として──……
おぞましいくらいにニタニタする仙人。
うおおおおおおおおっっっ!!
「ならない」
「えっ!! なんでじゃっ!! バラされてもいいのか!」
「バラしたら絶交」
「う〜っ、卑怯じゃ」
「あははっ」
俺が笑うとミココも笑って、胸骨を押さえてイタタと呻く。
まあ、どうせ全部わかりきったことだったとしても、俺は言わないことにした。




