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24 小悪党をしのぐには防衛センサーを張っておけ


 次の日。登校してからも、缶蹴り鬼を成仏させた後のミココとの会話が胸につっかえて、俺は心ここに在らずだった。

 授業のことなんてまるで頭に入らないまま机に頬杖を突いて過ごす。何かにつけてミココのことが俺の思考を占拠してしまうんだ。


 俺はキッパリ「霊は認めない」と言い切った。

 なのに、ミココは凹むどころか逆に「絶対に認めさせてやる!」と息巻いてきやがった。

 妙にイライラする。あれだけ拒絶してるのに、あの真っ直ぐな目は何なんだろう。


 俺の席は、窓際の列の真ん中くらい。

 幽は俺と同じクラスだ。あいつの席は最前列のど真ん中。目が悪い奴の席だ。しかし、今日はその席は空席。

 どうした。風邪でも引いたのか。


 色んなことが混ざり合って俺はひたすら悶々としていたが、ミココは休み時間になるとなんの遠慮もなく俺のいる教室へやってきた。

 昨日の会話なんてなかったかのように陽気に手を振り、自席に座ったまま過剰に不機嫌を装う俺に構わず、こいつは俺の机に腰掛ける。ミココの腰の真正面にいる男子生徒の視線がスカートに固定されているがきっと催眠術が発動したのだろう。


「なあイッポーよ。実は一つ面白い話がある」


「なんだよ。まとも(・・・)な話だったら聞いてやる」


「うぬはアホか。儂の助手のくせに霊を否定するなどもってのほかじゃぞ!」


「大声で言うな、大声で!」


 教室中の視線はすでに俺とミココに釘付けだった。

 その理由は、陰キャ──ではなく敢えて陰キャっぽく振る舞っている(・・・・・・・)俺が、学校一の美少女と馴れ馴れしく喋っているからだろう。

 しかも、どちらかというとツンケンしているのは俺で、ミココのほうから俺へ絡んでいる感じに見えているはずだから余計に注目を集めてしまう案件。まあ実際そうなんだが。


「面白い話というのはな」


「おい。ここで話すのはやめろ」


 授業の合間の休み時間ではどう考えても尺が足りなさそうだから、この件は放課後へ持ち越す羽目になったんだが。

 最悪なことに、近くでこの様子を観察していたクラスメイト・安藤(あんどう)冬馬(とうま)が、ミココが去るのを見計らったように俺へ声をかけてきた。


「なあ防戦(ぼうせん)一方(いっぽう)。お前、六原(りくはら)さんと知り合いなの?」


 こいつは、このクラスの中心人物。ちょっとでもイジりがいのある奴は虐めるようにイジり、気に入らない奴がいたら周りを味方につけて異端児扱いに追い込み排除する。

 つまり、似たような友達とつるんで団体戦で戦うタイプの小悪党だ。漫画やアニメだったら雑魚確定の取るに足らない存在であるが、現実に存在するとこれほど嫌な相手もいない。


 そしてまた嫌なことに、俺は、こいつとはまあまあ長い付き合いだったりする。なにを隠そう小学校の頃、俺のオカルト話を真正面から馬鹿にしてきたのはこいつなのだ。

 だから、こいつがやりたいことは概ねわかる。俺は依然として頬杖をついたまま、視線を合わさずに答えた。


「ああ」


「なんで? だってお前、陰キャだろ」


「だとして、それが何の関係があんの」


 ここで俺は、陰キャだと言われたことについてムキになって釈明したりはしない。

 そんなことをすれば余計に墓穴を掘るに決まっているからだ。こいつは、そういう()を見つけることだけは長けている。


「何で陰キャのお前が学校のアイドルと喋ってんだよって言ってんの。こりゃ何かあんな……。そうか!」


 クラス中に聞こえるように声を張る。

 やけに絡んでくる。どうやら俺は、今日の奴の暇つぶし相手に選ばれたらしい。

 神経を尖らせて集中する必要があることを、俺はここで自覚する。

 

「なんか一瞬、霊がどうとか言ってたよな? そういやお前も昔はオカルト信者だったもんなー! 同志ができたからオカルト復活したのかよ」


 安藤は、俺ではなく周りに顔を向けて喋る。この話は俺に向けて喋っているが、同時に、こいつは仲間(・・)を招集しているんだ。

 ポケットに手を突っ込んでニヤニヤと鬱陶(うっとう)しい笑みを浮かべる小判鮫どもが、餌の匂いに釣られてウヨウヨ寄ってきた。

 こいつは常に団体戦を挑んでくる。どんなに弱い相手だろうが、一対一では戦わない。


「言ってたよな? 霊がどうとかって」


「言ってないよ」


「でなきゃ、何で六原さんとお前が喋れんだ? 理由が()ーだろが」


「ネトゲ仲間なんだよ」 


 これは嘘じゃないから、俺は自信を持って口にできる。

 だからか、安藤は少しつまらなさそうな顔になった。オカルトに関するパワーワードをもう少しはっきり聞き取られていたらヤバかった。

 が、俺が安心しかけたところで途端に奴は表情を負の方向へ明るくする。何かろくでもないことに気が付いたんだろう。


「まさか、一軍女子の間でそのゲームが流行ってんのかよ? 今度俺のことも誘えよな。何のゲームだよ?」


「『パーフェクト・シャドー』だよ」


 これも本当だ。俺とミココがいつもプレイしているFPSネトゲのゲーム名。

 選択できるキャラはさまざまな特技や武器を持った殺し屋で、闇の世界に住む殺し屋たちの頂点を決めるという世界線だ。


「だけど、六原は鬼ツヨだから相当な腕じゃないと相手にされないと思うぞ」


「……ちっ。しょうもな」


 こいつらは、おそらくネトゲを本格的にはやらない勢なんだろう。

 単に女子を狩るツールとしてしか考えていない。だから深入りしようとする興味も持っていない。

 そのおかげで早々に俺から興味を失ってくれて、俺はなんとか奴らを凌ぐことができた。




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