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23 真逆に進む存在


 缶蹴り鬼を成仏させて──いや、この言い方は良くない。こういうところがそもそもあの仙人に付け入る隙を与えているんじゃないか? もっと気を引き締めなければならないのかもしれない。


 とりあえず、一年二組の教室を片付けてから階段で寝っ転がっている幽の体を揺さぶると、ううん……と案外(なまめ)かしい喘ぎ声を発して目を開け、俺をじっと見つめて何かを待っている。こいつ、実は意識があったんじゃないだろうかとこんな時なのに俺は(いぶか)しんだ。

 階段を降り、一階の廊下へ辿り着いた時には、中野はもう自力で立ち上がっていた。


守勢(もりせ)! どうだった!? 俺がこうして生きてるってことは……!」


 俺たちが何も言わずとも、中野はもう結論を理解している顔だ。


「もしかして、これで部員たちも!」


「ああ。明日確認してみると良い。元通りになっておるはずじゃ」


「ありがとう! 本当に、ありがとう……」


 中野は座り込んで泣き始めた。

 俺たちはしばらくそっとしておいてやったんだけど、満足するまで泣いたらしい中野はミココに目をやるとやがて立ち上がった。


「なんでも一つ要求を聞かないと、だな」


 そうだ。ミココが事件を解決した報酬は後出しなんだ。

 前回の「要求」を思い出す限りそんなにメチャクチャなことを言う奴ではないようだが、それでも前回はミココの友達……正法(しょうほう)さんのことだったから。

 今回は赤の他人だ。ミココが本来どういう要求をするのか俺は見当がつかなかった。


 当の中野は「なんでも言ってくれ!」みたいな能天気な顔。

 だから俺は余計に心配だったんだけど、ミココが中野へ要求したのは──……。


「霊は、仮に成仏したとしても思い出の場所をあの世から見ておる。バド部の恒例として、月一で学校での缶蹴り大会を開催しろ。それが供養になる」


 正法(しょうほう)さんの時と同じく、やっぱり理解不能の要求。

 中野も口を半開きにしていた。だけど、奴はすぐにミココの言わんとしているところを察したようだ。満面の笑みを浮かべて、元気よく返事した。


「……ああ! わかった!」





◾️ ◾️ ◾️





 マジで疲れた。気持ちが切れたら家に着くまでに電柱にもたれて眠ってしまいそうだ。

 時間も遅いし、警備員さんに挨拶したあと校門から出たところで解散かなぁと俺は考えていたんだけど。


 ここでミココは、めちゃくちゃ嫌な笑みを浮かべて小首を(かし)げながら下からジロジロ見つめてくる。普通に見たら可愛いはずだが俺にとってだけ(・・)めちゃくちゃ嫌な笑みなのだ。

 俺はこの瞬間への対応をずっと悩み続けてきたから、もちろん見当はついている。


「さて、イッポー。儂がなんの話をしたいか分かるな? さすがにこれは幽霊を証明したと言えるじゃろう。これを認めぬなら、うぬは嘘つき(・・・)じゃ。文句は無いな? よし、これでうぬもとうとう儂の助手に──」


「待て」


 俺ははっきりと口にする。

 こういうのは理屈じゃない。意志だ。確固たる意志が敵を打ち砕くんだ。

 だから、仮にいまいち自信が持てない場合であっても、自信なさげに弱々しく主張するのは絶対にタブー。

 さも当たり前であるかのように爆押しで言い切る必要があるのである。


「今、この瞬間が夢でないとは言えない」


「……はぁ?」


 さすがのミココも、これにはあっけに取られていた。


「そこまで見苦しい言い訳をするとは見損なったぞ。では、いつからが夢なんじゃ? いいや、(みな)まで言うな。わかっておる。うぬはとっくに霊を信じておる。いや、最初から信じておる。そんなうぬの気持ちを儂が見抜いておらんとでも思うたか! うぬは自分自身の気持ちを素直に認められぬ愚か者なんじゃ。跳ねっ返りなんじゃ。クソ野郎なんじゃ! 先ほども缶蹴りに負けたら儂が死ぬのではないかと泣きそうな顔をして真剣に心配しておったくせにまだ怪異を──」


「聞き捨てなりません!!」


 早口で(まく)し立てるミココの抗議をかき消すように幽が叫ぶ。

 夜の学校周辺に響き渡るほどの大声だ。そのせいで、敷地内へ帰っていく警備員が俺たちのいる正門のほうへ振り向いた。


六原(りくはら)さんのことを心配だからって、かずくんが泣きそうになる意味がわかりません!」


「幽よ。友達が死にそうじゃったら泣きそうになってもそれは──」


「どう言い繕ったところでそんな時に流す涙は愛の結晶です。男女の友情なんて、あたしは絶対に認めません!」


「そうだそうだ!」


 幽の的外れな言動には正直「何言ってんの?」って思ったが、俺はここぞとばかりに幽の主張へ乗っかった。


 卑怯と言うならば言え。俺は、心霊現象を信じる奴らなんぞ嫌いなんだ。その一味と捉えられるのも嫌だ。霊を証明してみろと不覚にも口走ってしまったから、仕方なくミココに付き合ってやってるだけなんだ。


 なんのために俺が常識人に見えるよう印象操作してきたと思ってんだ。今までのことが全部無駄になっちまうだろうが。こんなところで「霊は存在する」なんて認めちまったら、俺は一体なんのために母ちゃんを否定したんだ。


 俺は母ちゃんを否定して、否定して、徹底的に否定し続けて、母ちゃんとはロクに喋らなくなった。そのせいで母ちゃんは、一人息子に嫌われていると思ったまま死んだ。

 ここで認めてしまったら、俺は本当に最低の、最底辺のクズ野郎じゃないか……。


「イッポー! うぬはいい加減に──」


 俺の手首を掴んだミココが言葉を止める。

 一瞬息を呑んだかと思うと、ミココは慌てて手を離した。

 幽と中野が見守る中、俺たちは数秒間、見つめ合っていた。 


「なんと言われようとも、俺は、心霊現象なんて認めない(・・・・)。何度見せられようともだ」


 こう言えば、さすがのこいつでも諦めるだろう。

 いっそのこと、ここで関係を断つのもまた良いタイミングだと思う。オカルトの精みたいなこの女と関わり合いになるのは、俺の生き方からすれば間違っているし。それに、どうせ所詮はネットゲームだけの繋がりだったんだから。

 

「そうか。なら、」


 言葉を続けるミココの目つきに、土台から感情を揺さぶられた。

 全ての思考を強制停止させられ、今度は俺が息を呑む。


 また、この目だ。

 正法さんちへ向かう途中でこいつが俺へ見せた目。

 自分を信じる、まっすぐな瞳。

 これで諦めるだろうと思っていたのに。普通の奴ならそうなるはずだ。俺の決意を目の当たりにしてなお、どうしてこの目ができるのか。


「なら、何度でもイッポーに見せてやる。絶対に、イッポーに認めさせてみせる」


 なんでこいつは、いつまでも……


「余計なお世話なんだよ! いつまで馬鹿なこと言って──」


「君が霊を認めないのと同じように、私は霊を認めてる。この世を去った死者たちは、消えてなくなったりしていない。真実を曲げることなんてできないよ。本当は君にもわかってるはずでしょ。だから私は絶対に、君に認めさせてみせる」


 謎に「のじゃっ娘」をやめたミココは、強烈な意志の塊だった。

 前もそうだったが、こいつは決して退()かないだろう。

 なぜなら、自分を信じているから。俺が自分の進むべき道を心に決めているように、こいつもまた決めているから。

 俺たちは、真逆に進む存在なんだ。


 だから────…………


「俺は。お前とは、決して相容れない──」


「だから必ず分かり合えるんじゃ。覚悟しとけよ、イッポー」


 すぐにいつも通り(・・・・・)のミココに戻る。

 呆然とする俺を指さして、白い歯を見せながら、彼女は自信満々の笑みを浮かべていた。



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