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蓮池楓という男4




……藤城雅臣、か。



時計を見ればあと10分。


よくよく考えればいくら夕太くんに言われたからってアホだわ俺、こんな長々とどうでもいいこと考えて。


いい加減結論を出そう。


俺とあいつは似ているようで全然似てない。


俺の不幸とお前の不幸を一緒にすんなよ、それに俺はあんなにチョロくねぇ。



『お前、柊よりいい奴なんじゃ…』



あの言葉を聞いて寂しさはそうも人をおかしくかさせるのかと鳥肌が立った。


たかだか話を聞いてくれただけで良い奴認定して人を信じるなよ。


友達でもない俺に1人不幸自慢ショーなんて愚の骨頂、俺は友達でもない奴になんか死んでも本当のことは言わないね。


それにお前だけが不幸の元に成り立ってるんじゃない。



……俺にだってキツいことが沢山ある。



それにしても全く、ストレスとはよく言ったもんだ。


名古屋中で顔が知られているとか、俺が身売りするみたいに生徒のババア達に触られるとか?


それがストレスってか?


ハイハイ、お前の言う通り、俺は家のプレッシャーとストレスでブランド買い漁ってますよ。



______で?



それを友達でもないお前が言うの?


やっぱどこポジの一言に尽きるだろ。


俺が唯一お前に謝るなら、以前母親について〝死んだ〟って言わないで欲しいと言われた時のことだけだ。


それ以降2度と口にしていないし、友達でもない俺から言われたくないよな。



だからお前も俺に一々余計なこと言うなよ。



ストレスだけじゃない、お前が俺の母親の懐具合を心配するのも余計なことなんだよ。


だから言い合いみたいになっただけで、俺がどう振舞おうが俺の勝手だろうが。


友達でも何でもないお前なんかに1番言われたくねぇわ。


触れてほしくない領域に何も考えずにずかずかと踏み込みやがって図々しい。


そこが1番気に入らない。



本当にさ、夕太くんはこれのどこがいいんだろう。



……でも俺がいくら嫌いでも夕太くんはあいつがいないと間が持たないんだよね。


緩衝材のように間にあいつを置いておきたいんだと思う。


あいつが来てから夕太くんは随分変わってしまった。


改めて3人で飯を食うことになってから2人だけの時よりも格段に会話が増えた。


それは陰キャ本人が無駄に話そうと努力しているのもあるけど、シンプルに俺との間にない話題があいつがいると夕太くんからたくさん出てくるんだ。


俺は夕太くんがディスカバリーチャンネルを見てるなんて全然知らなかったよ。


陰キャは陰キャでたまに撮ってきた野良猫の写真を見せたりして夕太くんを楽しませてるけど、俺にはそんなこと出来なかった。


家にいる鳥だって夕太くんが頼んだから生かしてるだけで、特に写真を撮る気もない。


可愛がっていつか悲しい思いをするくらいなら最初から情をかけない方がいい。



……そんなの自分だけでいい。



今日何度目かのため息をつきながら、どんどん気が滅入っていく。


それに大須あたりから明らかに俺とあいつに対する扱いの差を感じるようになった。


夕太くんは俺には当たりが強くて、幼馴染だし友達だからと何とか自分に言い聞かせてきたけどそうじゃないと確信してしまった。


あれはもう意図的にやってるんだよね。


あいつにはそんなことをしないと2人を見る度に気づいてしまって、やっぱり俺が嫌なんだと思ってしまう。


少しだけ首をもたげて空いた目の前の席を眺めると、



〝でんちゃん〟



そこにいないのに夕太くんの声が聞こえるなんて俺もいよいよかもしれない。



……やっぱり夕太くんって俺のことがもう嫌なんだ。



息が詰まるんだよね。



分かるよ、俺だってこんな自分が嫌だ。



感情のセーブが上手くいかず、もう終わりにしたいと机に突っ伏した。


だから考えるのなんて嫌なんだよ。


気鬱になればなるほど行き着く先は夕太くんのことになってしまう。


俺たちの間にあいつが入ることで、今まで何とか堪えていた足元が崩されそうで怖い。


俺を置いて夕太くんがどこかへ行ってしまう気がする。



……ねぇ、夕太くん。



俺の知らない顔をあいつばかりに見せないでよ。



この間だって東京の大学もいいよなと話す姿に驚きが隠せなくて呆然としてしまった。


俺は夕太くんがそんな顔で将来の話をするなんて子供の頃しか知らない。


キラキラと輝く大きなその目を俺にも見せてよ。



〝おれおおきくなったらおすもうさんになろうかな!かっこいい!でんちゃんもなろうよ!〟


〝おれも!かっこいいよね!〟



幼稚園に来た力士に抱きつきながら笑い合ったことを思い出す。


俺にはもうあんな風に簡単に夢や未来を教えてくれないのに、他の奴には聞かせるの?



それなら夕太くんから離れてくれればいいのに。



山王(ここ)だって……何でわざわざ一緒の高校に行こうなんて言ったんだよ。


夕太くんならもっと上の高校に行けるのに俺に合わせたの?



ねぇ、何で俺が嫌なのにずっと傍に置いてくれるの?



考え出すと必ずこの堂々巡りになるのが嫌で、いつものように何も考えず眠ってしまいたいとキツく瞼を閉じるが今日は何故か上手くいかない。



「蓮池、起きなさい」



暗雲めいた感情は俺を起こそうと教壇から降りた教師が軽く肩を揺さぶることで中断した。



楓「⋯⋯はい」



仕方なく起き上がった視界にノートに書いた3人の図式が見える。


奥へ奥へと引っ張られるような渦巻く思いをどうすれば消化出来るんだろうと、陰キャの文字をシャープペンで黒く塗り潰した。


俺にはとてもあいつみたいにバカ正直に真実に向き合う勇気なんてない。



ねぇ、夕太くん。


あの時の事をどう思っているの?




〝本当は〟




いつもそうやって聞く夕太くんの子供のような純粋な瞳が頭に浮かんだ。



俺は知りたくない。



聞きたくない。



どうしたって過去には戻れない。




俺が夕太くんにはめた重い枷は二度と外せない。




暗澹たる気分のまま、終礼の鐘が鳴った。






読んでいただきありがとうございます。

ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!

いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪


本日も小話!

楓くん視点の小話は次でおしまいです!

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