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81.【納得するまで】



雅臣「蓮池は……確かにキツいし、嫌な奴だけど……今日初めてもっと蓮池を知りたいって思ったんです」



積極的に関わった結果、蓮池と仲良くなれないかもしれない、せっかく話せるようになった柊とも話せなくなるかもしれない。


……それでも。



雅臣「俺は自分が納得してからじゃないと別の道を選ぶことができません。だからあいつとこれからは向き合います。それがどんな結果になろうと」



怖くても傷ついても言葉にしないと分からないことがあるって、蓮池と言い合いをした今日初めて分かった。


嫌なものを一生見て見ぬふりをして生きていくことは俺にはもう出来ない。


ちゃんと考えて納得して、自分がこれからどうしたいのかを選びたい。



そうしないと_____。




雅臣「何も言わないままだと、俺の親みたいになる」




急にシンとした車内に、話しすぎたかと一瞬焦ってしまう。



小夜「お前すごいな」



しばらくして担任は感嘆のため息をついた。



雅臣「え、えぇ!?こ、これってもしかして都合良すぎる考え方…ですかね?」



良くない癖が出てしまったかと慌てると、



小夜「そうじゃない、嫌なら逃げたっていいんだよ。蓮池に理不尽なこと言われて八つ当たりされて、柊みたいにまた違う角度でキツい奴とも一緒にいて」



担任の言う、柊が別の角度でキツいという意味が今はよく分かった。


柊は気も利くし明るいし良い奴であることには間違いないが、蓮池にも言われたようにどこか、……言い方は悪いがおかしい気はする。


おかしいというか、ズレてるところがあるというか。


でもそれが柊の魅力でもある。


本当は?と何度も尋ねる柊と俺はやっぱり友達になりたかった。


蓮池だって……俺は多分本当は心のどこかで仲良くなれたらと願っていたんだと思う。


本当に嫌いだったら、俺だって念の為と蓮池の分まで弁当のおかずを作ったりしない。


嘘偽りがない2人に俺はいつしか惹かれたんだと思う。


いつだって見て見ぬふりをして自分を偽って生きてきた俺とは正反対の2人に憧れたんだ。



小夜「…ま、1番最初に仲良くなりたい、知りたいと思った奴は特別だよな」



担任の声が少しずつぼんやりとして、あくびが止まらなくなった。


色々な事がありすぎて本当に疲れたのかもしれない。


車の揺れが丁度心地良く感じて、自然と眠ってしまっていた。






_________


__________________




「……しろ、藤城、」



雅臣「え、あ、!!」



短い時間だったが気づいたら寝てしまっていた。


ガバッと体を起こし周りを見ると、俺の家のマンション横の平面駐車場に車は止まっていた。



雅臣「え、ここ停めていいんですか?」


小夜「ここ俺の駐車場、俺ん家お前のマンションと同じなんだよ」



15階な、と最上階に住んでるのをぺらっと話す担任に俺の方が焦ってしまった。



雅臣「えっ!?そ、それ話していいんですか?」


小夜「お前一人暮らしで今現在絶賛発熱中だろ?何かあったら駆けつけるから」



遠慮なく言えよ、と担任は車から降りるよう指示した。



……本当にいいんだろうか?



柔らかい笑みを浮かべる担任を見て、この人には言葉通り頼っていいんだなと少し安心した。


体調が悪化しても気兼ねなく連絡できる、それは親父を頼りたくない俺にとって本当に有難いことだった。


マンションのエントランスまで歩くと担任が自分のセンサーキーで扉を開けるのを見て、本当に一緒のところに住んでるんだなと心強かった。



小夜「明日まだ体調悪かったら朝休みの連絡はくれよな」



担任に礼を言って玄関先で見送ると、何とか家までたどり着けた安心感からか力がどっと抜けた。


早くベッドで眠りたくて制服を脱ごうとしてふと気がつく。


俺さっき蓮池にA定食ぶっかけられたよな……?


保健室で寝ている間に誰かが俺のポロシャツを替えてくれたのか、新しく綺麗になっている。


もしかして、桂樹先輩が俺を運んでくれた上に着替えまで………。


それなら運んだ時に先輩の制服まで汚れたのではと血の気が引いて急いで連絡した。



〝先輩遅くなってごめんなさい。今日はありがとうございました。制服が汚れてしまったと思うので後日クリーニング代を出させてください〟



これでいいか…と送信すると、すぐに既読がついた。


梓蘭世も桂樹先輩もどうも授業中にスマホを触ってるよな。


俺にはとても授業中にスマホを触る度胸なんてないので先輩達の心臓の強さに驚く。



〝気にすんなって!〟


〝それに山王の制服洗濯機で洗えるぜ?母さんにやってもらうから大丈夫〟



ちゃんと寝ろよ、と追って連絡がきて相変わらず優しい桂樹先輩に頭が上がらない。


それと同時に、制服が洗濯機で洗える衝撃の事実を知って自分の至らなさに項垂れ思わず床に座り込んでしまった。


俺は制服なんて全部クリーニングに出すものだと当たり前に思っていた。


山王の制服だから洗える、ということではなさそうだし、もしかしたら東京の制服も自宅で洗えたんじゃないのか?


親父が毎日クリーニングに出せと最低でも上下5着は制服を買ってくれていたが、今思えば制服を家で洗濯するとかアイロンなどそういった手間を省く為だったんだろう。


合理的以前に何でも金で解決していたことに改めて気がついて、つくづく嫌になってきた。


自分で洗濯表示を見れば良かったとも思うが、生まれた時からクリーニングが当たり前みたいに育ったらそもそも気づけるわけがない。


そんなことも俺に教えないで、母親も放ったらかして………。


あいつは一体何なんだ。


金で解決することが悪いとは言わないが一般常識的に子供が社会に出た時に困るとか考えなかったのか?


俺が将来親父と同じくらい稼ぐ保証なんてどこにもないんだぞ。


蓮池がカスと言い放ってくれて、初めて俺は自分が親父を不満に思うことへの申し訳なさがなくなった。


生活に困ってはいなかったが、俺は確かに困っていたんだ。


互いに向き合うことなく終わってしまった両親、そして俺もそのどちらともきちんと向き合ってこなかった。


親父が仕事ができるのは確かだし、傍から見て俺を1人で育てて頑張っているようにも見えるだろう。


でも自分の息子が原宿も新大久保も、何なら千葉のネズミーランドにも遊びに行ったことがないと知らないのはどうなんだ。


学校であったことや友達と何を話したかなんて聞かれたことはない。


だから俺自身も友達がいないことにも気づかず、親父も俺に友達がいないのを知らなかったんだ。



……アホらしくなってきた。



制服を脱いで初めて洗濯表示を確認した俺は、体調が戻ったら綺麗に洗って着替えを返そうとその場に脱ぎ捨てベッドにダイブした。




読んでいただきありがとうございます。

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