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79.【憧れの人】



______



____________




雅臣「……あれ……」



瞼を開けると真っ白な天井が広がっているのに気づいた。


……ここは?どこだ?



桂樹「……起きたか?」



ぼんやりと声のする方を眺めると、桂樹先輩が笑って椅子に座っていて、俺は慌てて体を起こす。



雅臣「か、か、桂樹先輩!俺……!」



急に起き上がったせいか、ぐらりと視界が揺れた。



桂樹「寝てろって!……熱出してぶっ倒れたんぜお前。朝から体調悪かったんだろ?」



そう言って桂樹先輩はベッドから落ちそうになった俺の身体を支えてくれた。



___そうか。



朝から何となく思考が纏まらず頭が痛かったのは熱があったからか。


蓮池と話している時から頭が上手く回らなくて……。


あれ?


さっきまで食堂で蓮池と言い合いをしていたよな?


そのまま倒れたのか?


記憶を辿ると蓮池が……確か、桂樹先輩に……。



雅臣「す、すみません!!俺のせいで変な雰囲気にさせて……!!」



色々と思い出すと、一気に血の気が引いた。


蓮池が桂樹先輩に食ってかかったのは良くないが、元々俺と揉めなければそんな事にもならなかったんだと慌てて謝った。



桂樹「いや、いいよ。またお前が蓮池に突っかかられたんだろ?」


雅臣「そうじゃないんです!!事の発端は俺で……陰キャでコミュ障でボッチな俺がこう、友達でもない蓮池にそれはもう余計な事を……」



誤解を解こうと必死に話す俺を、桂樹先輩は焦って止める。



桂樹「いやいやいや、待てって!誰が言ったんそんなこと!」


雅臣「えっ、蓮池が……」



2人で目を合わせて瞬きすると、先輩は重いため息をゆっくりと吐き出して苦笑した。



桂樹「……あー、あいつな……三木のキツさと違うもんな。俺らの代はあんなんいないぜ」



蓮池が強烈なのは確かだが、何故そこに三木先輩が絡むのか疑問に思い首を傾げる。


三木先輩のことを桂樹先輩はキツいと思うのか…。


意識が途切れる途中で、蓮池が三木先輩について何かを言っていたような気もするけど半分くらい記憶が抜け落ちている。



桂樹「蓮池って色んなとこよく見てるよな。俺はあんなにキツいのと正面切って向き合うなんてできないよ。……お前、強いな」



同じ高校生なのに蓮池が色んな角度から物事をよく見ているのは事実で、俺も今日初めて気付かされたことが本当にたくさんあった。


最初は蓮池みたいにキツくて変な奴に関わりたくないと思っていたのに、こんな風に思える日が来るなんて信じられない。



……でも。



雅臣「あいつは……確かにキツいけど嘘は言わないって今日で分かりました。いつでも何でもちゃんと理由があって、本当のことしか言わないんです」




嘘を言わない蓮池に洗いざらい自分の鬱屈した思いをぶちまけて、そんな奴が親父の悪口を言ってくれた。


おかしいものをおかしいと真っ直ぐ蓮池に言われて初めて自分が肯定された気がしたんだ。


俺のことを嫌っていた理由も、今なら全て理解できる。


倒れる間際に俺の方がマシだと言ったのも……多分何か必ず理由があるのだろう。



雅臣「まぁ、本当に嫌な奴でもあるんですけどね。出会い頭にブサイクとか言われましたし……」


桂樹「はぁ!?なんそれ!?」



思い出し笑いをする俺にマジかと先輩は呆れた顔をしてみせた。


俺が蓮池に今まで言われたことを全部教えたら先輩はひっくり返るかもしれないと少し可笑しくなる。



雅臣「まぁそれはただの悪口なんですけど。……でも蓮池の言う通り俺が考え無しってのは事実だったし、言葉に何か意味があるって蓮池に会うまで気づかなかった」



蓮池の言葉に嘘はない。


だからこそ、色々と言われたけど今は感謝しているし見る目が変わった。


そう素直に伝えると、先輩は俺を見てるのにぼんやりとどこか遠くを見るような目つきになった。



桂樹「……俺には無理だったな。でも、お前みたいにしてたら…そうだな。俺も今とは何かが違ったんだろうな」



俺には無理だった……?


桂樹先輩は何を思って言っているのだろうか。


心の内が分からずにじっと見つめていると、突然頭を下げられてぎょっとする。



桂樹「雅臣、さっきこんな話とか言って悪かった。お前を馬鹿にしてもないし…なんて言うか、その…」


雅臣「わ、分かってますよ、そんな!大丈夫です!」


桂樹「でもその言葉が出たのは事実だから。ごめん」



止めて下さいと必死に頭を振ったらまた痛みがぶり返してきて顔を顰めた。



………桂樹先輩はいい人だ。



優しくて思いやりがあって、俺のことをいつも庇ってくれて良くしてくれる。


今だって大したことじゃないのに真剣に俺に謝ってくれて……。



俺は桂樹先輩みたいになりたいんだと尊敬と憧れがやまなかった。



雅臣「___あの、俺コンクール応援に行きます」



高ぶる気持ちを抑えられず、柊が言った流れじゃなくて自分の気持ちを言葉にして直接伝えたくなった。


突然の宣言に先輩は驚いたのか少し目を見開いて、少ししてからそっかと嬉しそうに呟いた。



桂樹「うわー、なんか緊張するわ。気引き締まるっていうか」



雅臣来るなら伴奏間違えらんねぇな、と肩をぶんぶん振り回す先輩を見て、ふと三木先輩の顔が浮かんだ。


あの人が辞めた今、指揮は誰がやるんだろうか。


俺は何故か桂樹先輩が指揮をやるものだと勝手に思っていた。



雅臣「桂樹先輩は伴奏なんですか?指揮じゃないんですか?」



俺の質問に桂樹先輩は眉を上げると、



桂樹「俺は伴奏だよ。指揮は歴代部長がやるんだ」



合唱部のルールを教えてくれた。



桂樹「今はガクって奴が部長だから、指揮もガク」



3年2人の間でよく話題に上る名前を聞いて、てっきり三木先輩の抜けた穴は桂樹先輩が務めるとばかり思っていた。



雅臣「桂樹先輩が部長やってるんだと思ってました」


桂樹「俺は部長の資質なんかねぇよ」


雅臣「そんなこと___」



素直に口にしたら桂樹先輩は笑って俺の頭をガシガシと雑に撫でた。



桂樹「……部長は最初から三木って決まってたんだよ。あいつ何でもできるからな」



どこか寂しそうに言う先輩に、そんなことないのにと思った。


こんな俺にまで声を掛けてくれる面倒見のいい桂樹先輩に資質がないなんて。



雅臣「俺、合唱の大会とかとか見たことないから楽しみです。それにこっちに来てからの方が毎日楽しいです」



自分の親友相手に少し謙遜してるだけだと思い、少しでも先輩の力になればと思っていることを伝える。



雅臣「桂樹先輩と話すのもすごく楽くて…優しいし、かっこいいし…」


桂樹「お前俺を持ち上げすぎ。俺なんて大したことないって」



桂樹先輩は首を振って苦笑するが、



雅臣「そんなことないです!俺が困ってる時にいつも1番に気づいてくれて、フォローもしてくれて……」



ここで言っておかないと、二度と言えなくなってしまう気がした。


今、伝えたいこと…。


それは………。



雅臣「俺は桂樹先輩みたいになりたいです」



目標にしたいとしっかり目を見て伝えれば、桂樹先輩は頬をかいた後、ガバッと肩を組んでくれた。




桂樹「俺なんか目標にするなよ。雅臣は多分俺なんかよりもっといい先輩になれるぜ」




桂樹先輩に初めて自分の言葉でずっと言いたかったことを伝えることが出来て、とても嬉しかった。







読んでいただきありがとうございます。

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