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78.【本質】



しばらくの沈黙を破ったのは桂樹先輩だった。



桂樹「お前さ、雅臣をバカにすんなよ」



桂樹先輩が蓮池の肩に手を置いてキツく言い放つ。



楓「は?」


桂樹「さっきから無理やり雅臣にこんな話全部言わせて……どういうつもりだよ」



どこから聞いていたのか分からないが、桂樹先輩は俺が無理やり家庭の事情を言わされたと勘違いしているのだろう。


俺を背に庇うようにして立つ桂樹先輩に慌てて誤解を解こうと一歩踏み出した瞬間、頭に鋭い痛みが走って体勢を崩す。



楓「バカにしてんのはてめぇだろ?」


桂樹「はぁ!?」



何とか耐えるが、その1歩を出遅れたせいで着火した蓮池を止めることができなかった。


1年にそんな口をきかれるとは思ってもみなかったのか、桂樹先輩は怒気を隠さず形相が一変した。


恐ろしいほどの圧を感じてビビる俺と違って、不敵な笑みを浮かべる蓮池は桂樹先輩を上から下までゆっくりと嫌らしい目つきで見る。


今まで蓮池に同じことを何回もされたが、自分以外にやってるところはさすがに見たことがなくて驚く。


それはそれでいいんだか悪いんだかと思うが、傍から見ると非常に人を馬鹿にしたよくない行為で、3年生相手に怖いもの知らずがすぎるだろう。



楓「学年29位現国96点の桂樹さん。こんな話って何だよ?こんなってどこの部分の話?人の事情をこんなって言うなよ」



そう言われると桂樹先輩は気まずそうな顔をして答えに窮した。



……もしかして、こいつ俺の事を庇っているのか?



とてもじゃないが普段の蓮池からは考えられない行動に唖然とする。


それと同時に、よくそこまで細かいところに気がつくなと改めて蓮池は揚げ足取りの天才だと思った。


〝こんな話〟って俺の話を軽視しているように聞こえたのだろうか。


いや、桂樹先輩の言い方なんて大したことでもないぞ。


何ならお前、今までもっと俺に散々酷い返し方をしてきただろうとつい恨みがましく見てしまう。


それなのにそんな相手に庇われたことが嬉しい自分もどうかしてると2人を眺めた。



桂樹「それは言葉のあやで__」


楓「あや?よく言うよ。それがアンタの本質だろうが。普段から思ってないと咄嗟に出ないんだよ」



俺を言いくるめる時よりも早口で蓮池は桂樹先輩に話す隙を与えなかった。



楓「大体部活だってあっちもこっちもいい顔して何なの?三木先輩のいない大会は大丈夫なの?」



一瞬で標的を俺から桂樹先輩に変えたことが分かる。


蓮池の強気の発言とその態度に、後ろでガタリと勇んで椅子から立ち上がる音が聞こえた。


桂樹先輩のそばに来たのは合唱部の奴だろう。



「おい、1年お前あんま調子乗んなよ」



蓮池に近づき胸ぐらを掴もうとするその手を桂樹先輩が止めた。



桂樹「やめとけ中田。いいって」


「……でも!!」



中田と呼ばれる人は桂樹先輩を軽く見られて腹が立って仕方がないのだろう。


蓮池を睨み続けるその人を桂樹先輩は宥め、あっちに行ってろと手で示す。



桂樹「……なあ、お前何が言いたいんだよ」



後輩の手は止めたものの激しい憤りが見て取れるが、その様子を蓮池はまた鼻で笑うと、



楓「アンタほんとは三木先輩のこと嫌いなんじゃないの?」



真っ直ぐに桂樹先輩の目を見てストレートに言い放った。


あまりにも自信のある核心を突いたかのような言い方に、一瞬本当にそうなのかと疑ってしまう。



桂樹「はあ!?俺と三木は友達で___」



楓「三木先輩はそう思ってるだろうけどアンタはそう思ってないだろ。何?俺らのサークルに入ったのも三木先輩引き戻すためとか?」



桂樹先輩を見ればそんなことあるかと憤慨した様子で、俺は急いで斜に構える蓮池を止めようと口を挟む。



雅臣「蓮池違うぞ!桂樹先輩は…その、断れなかった俺を見兼ねて、……一緒に名前を貸してくれただけだ」



蓮池は俺を見るといつもみたいに馬鹿にしたり茶化したりせず、俺がつっかえようが言葉を被せることなく最後まで話を聞いた。



楓「……お前の方がこいつらよりよっぽどマシだわ」



蓮池の言葉に目を見張る。



楓「俺には分かんないね。昨日までお前らの部長で、アンタのその大切な友達が突然合唱部辞める理由って何?」




…………は、はは、蓮池が。



あの蓮池が俺の方がマシと言ったか?



蓮池の標的は確実に俺から桂樹先輩と合唱部に移っていて、止めないといけないのは分かってはいるが聞き間違いかと耳を疑う。



お、俺の方がいいだなんて一体何事だ!?



恐ろしいほど好き嫌いがハッキリしていて用意周到で抜かりがない、その蓮池が皆の前でマシだといった。


明日槍でも降るのかと有り得ない出来事に凝視して固まってしまう。


同じ嫌いなら桂樹さんより俺の方がまだマシってレベルだとは思うが、それを口にしたことがまず信じ難い。


あんぐりと1人驚く俺とは違い、蓮池の言葉に何故か桂樹先輩も合唱部の奴も何も言い返さない。



楓「責任感強い三木先輩とずっと一緒にやってきたんだよな?簡単に投げ出すような人じゃないってわかるだろ?」



その言葉を聞いた三木先輩は腕を組んだまま何も言わずに見つめているだけだった。




楓「……なぁ、何で辞めたかよく考えろよ」




………蓮池は先輩たちが合唱部を辞めた明確な理由が分かるのか?


蓮池のその言葉に、何故か桂樹先輩と合唱部の奴らが追い詰められてるように見えた瞬間、目が霞んで足がもつれた。


足元が回ってる気がして耐えられない。



楓「何が理由で誰のせいなんだよ。自分達になんか理由があると1回も思わなかったのか?答えろ__」



桂樹「お、おい!!」



俺の記憶はそこでプツンと途切れた。



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