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75.【そうじゃない】



俺が名古屋に来た理由を今ここで言わないといけないのか?



楓「本当のことを教えろよ」



俺の困惑する様子をしげしげと見つめる蓮池は、〝本当は?〟といつも俺に問いかける柊と同じ言葉を吐いた。



『で、雅臣は何で東京から来たの?』



それはピザパーティーの時に同じことを尋ねた柊の姿と重なって見えて、長年2人が一緒にいるのは単なる幼馴染なだけではなく、互いに似てる所があるからかもしれないと初めて感じた。


あの時は大して仲良くもない柊に答えたくないと軽く流した。



……でも、もし今同じことを柊に聞かれたら?



友達になりたい柊になら互いの知らない部分を晒け出せるのかもしれない。


しかし、蓮池にそこまでする必要があるのか?


柊と仲良くしたいなら蓮池とも友達のフリでなく出来るだけ円満な関係を築いた方がいいのは頭では理解しているがそれとこれとは別だ。



雅臣「母さんが死んだから……」



曖昧に濁してしまおうと、事情の1つであり大元の原因だけを口にするが、蓮池はやれやれとばかりに肩を竦めた。



楓「それはもう知ってるよ。まぁうちはババアが膝を痛めてジジイは泌尿器科通い、クソジジイは耄碌こいてるってとこだな」



友達になるためにも教えてやるよと蓮池は自分の親の病気を話した。



楓「で?お前んとこの母さんは何が原因だったの?」




何が原因って………。




『まーくんは私のことが大好きね』




また母さんの声が脳に響く。


俺が母さんを思い出す時、必ず聞こえてくるこの言葉の本当の意味は……。



雅臣「俺の母さんは……癌で、」


楓「いつから入院してたの?」


雅臣「な、何で……」



間髪入れずに質問されて、もっと違うことを言えばよかったと後悔する。



楓「これ以上言いたくないなら帰るよ。ただし二度と仲良しこよししたいとか抜かすなよ」




_____蓮池は本気だ。



意地が悪いのは元々の気質かもしれないが、こいつの言葉に嘘や曖昧さは微塵もない。


柊の為に互いに関わらざるを得ない曖昧な関係を許していたのは、蓮池にとって随分譲歩していたことだと気がつく。


予期せず蓮池と喧嘩みたいになってしまったが、今までこいつとこんなに話すことなんて1度もなかったからこそ、蓮池の知らなかった部分がようやく垣間見えた気もした。


言うか言わないかの2択を迫られ、息をするのが苦しくて仕方ないのに目が逸らせない。


嘘は許さないと言うような蓮池の真っ直ぐな目を見続けて、ようやく俺は心が決まった。




雅臣「いつからかは覚えてない。でも、統合失調症を繰り返して最後は癌で死んだ」




どうにでもなれと話した声がこんなに通るとは思わなかった。


周りの奴らが俺達の話を固唾を飲んで聞いていたせいなのか、自分でも驚くくらいに声が響いた。


俺への同情や哀れみ以外にも、蓮池も性格が悪いなと色んな声がひそひそと聞こえてくる。


敢えて自分が考えないようしてきた母親の死はこうして口にしてしまえば呆気ないもので、俺はどうして現実を見ないフリをして生きてきたのか。


もう何を言われても構わないと蓮池を見据えると、



楓「それは最悪のコンボだね、大変だったな」



蓮池は揶揄したりせず当たり前のように俺を労った。


その言葉に思わず、蓮池の手を強く掴む。



楓「何だよ」


雅臣「……ほ、本当にそう思うか?」




_____本当に?



本当に俺が大変だった、とお前は思うのか?


大須に行った時と同じだ。


考えたくないのに考えさせられてしまう、溜まった膿を吐き出したくなる感覚がまた襲う。


本当は母親の死は特に悲しくなかったが、それを言ってしまえば薄情だと思われるから黙っていた。


俺は母親が死んでほっとしたのにそれが何故なのか考えたくなくて、名古屋に来るまでずっと大変なフリをしながら生きてきた。



でも、本当は……。



母親について自分から誰かに詳しく話すのは今日が初めてだけど、あの蓮池が当たり前に大変だったなと言うくらいに、俺は本当は大変だったんじゃないのか?



いや、大変大変って……。



_____俺は一体、何が大変だったんだ?



そのままじっと見つめると気色ばむ俺を訝しんだ蓮池はため息をついて口を開いた。



楓「何なんだよ……、じゃあ髪伸ばしてたのは多様性でもなくて母親の為とか?」



さっきから蓮池はただ自分の聞きたいことを聞いているだけなんだろう。


でもその至って普通の質問が俺の考えを纏めるのにちょうど良くて、もっと聞いて欲しいと思ってしまう。



雅臣「そう……、母さんの……」


楓「じゃあ最初からそう言えよ。お前ただの良い奴じゃん」



……違う、そうじゃない。


本当はそうじゃないと蓮池に言いたい自分がいる。



本当は?



……本当は。





雅臣「……ごめん、違う。母さんの為じゃない。俺は自分の為に伸ばしてたんだ。その方が楽だったんだよ」




俺の本当の話を聞いて欲しいと蓮池の目を見ると、静かに口角をあげて頷いた。




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