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73.【無自覚】



楓「じゃあ何で夕太くんがいいの?」


雅臣「それは……その……」



全ての返しがが異様に早い蓮池が左口角を上げて薄笑いを浮かべている。


何故柊なのかって……。



雅臣「あいつしかいないからだ!!俺なんかに声を掛けてくれて……柊は……すごく良い奴なんだよ」



つっかえながらも何とか自分の考えを纏めて蓮池の目を見てきちんと答える。


蓮池の切れ長の目は俺の一挙一動を見逃さないとばかりに鋭く、ここで何かを間違えたら取り返しがつかない気がした。


今思えばぼっちでお門違いの俺に柊だけが声をかけてくれたんだ。


柊がどうして俺に声をかけたかなんて分からない。


でもあいつだけが優しくしてくれてることに縋って何が悪いんだと己を奮い立たせた。



雅臣「誰でもいいわけじゃない、柊が優しくしてくれたから……俺は柊がいい」



突然周りからヒューっと口笛やらの野次が上がるが、恥ずかしがっている余裕なんてない。


足を組んで俺をじっくり見据える蓮池はなるほどね、と1人納得するように頷いた。



楓「だからあの弁当?突然弁当作って擦り寄ってきておかしいなと思ったんだよ」



コミュ障を治したくて会話の糸口を掴めればと必死に頑張っていたことは、傍から見たら擦り寄っているように見えていたのかと愕然とする。



楓「お前さ、何かセミナーでも参加したの?こうすれば全て上手くいくみたいな?」



後ろの席の奴らがその言葉に反応して大ウケで手を叩き、カッと頬が紅潮して奥歯を噛み締める。


瞬間頭に痛みが走って痛みをこらえるように眉を寄せるが、



楓「つい最近まで人を見下した顔してたのに胡散臭いと思ってたんだよ。俺が何か言えば文句あるのに言い返せなくて、ずっと不満タラタラな顔してたのになぁ?」



またもや心の内を見透かされ、それに関しては自覚があるだけにどうしようもできない。


ただ、擦り寄っていると思われるのは嫌だと鼻息も荒く否定する。



雅臣「俺は柊と仲良くなろうとしているだけで擦り寄ってるわけじゃない!!そんな言い方するなよ!!それにお前がコミュ障って言うから治そうと___」


楓「夕太くんに好き放題おかず取られてんのに?取るなの一言も言えないんだからコミュ障治ってねーよ」



話す度に痛みが酷くなる頭を手で押さえながら、柊が俺の弁当のおかずを何も言わずに取っていくのを蓮池は見ていたんだと初めて知る。



楓「人の本質なんてそう簡単には変わらないよ。何も考えず努力もしないお前が簡単に友達なんかできると思うなよ」




___何も考えず、って……。




雅臣「俺だって毎日考えてるよ!!」



コミュ障を直そうとしていたことも、必死に弁当作りをしていたことも、自分が変わりたくて必死に努力してきたのに何もしてないと決めつけられて腹が立った。



雅臣「今目いっぱい努力してる!人の努力をバカにするなよ!そういうお前だって上から目線じゃないか!」



声を荒らげたせいか少しフラフラするが、負けてられないと踏ん張った。



雅臣「俺は最初から柊にやるつもりで多めに作ってきてるんだよ!だから取られてもいいし何ならお前だって食いたきゃ食っていい!」



……やった、ついに全部言い切ったぞ!!


しかし肩で息をしながら思ったことを全部ぶちまけることが出来てスッキリしたのも束の間のことだった。



楓「金持ちは違うなぁ、心のゆとりが」



蓮池はパンパンとわざとらしく音を立てて大袈裟に拍手しながらそう言ってのけた。



雅臣「はぁ!?俺の家は別に金持ちじゃない!!」



いつも以上の斜め上の返し方に苛立ち、それはお前の家だろうがと言い返そうとした瞬間、蓮池は左口角をあげて鼻で笑う。


……この顔は。


蓮池がこうやって笑う時は絶対何か言ってくる前の予兆だ。


蓮池のターンが来ると身構えると気味悪いことにその目が完全に三日月になった。



楓「じゃあお前が分けてやるっていうその食費はどっから出てんの?俺のブランド物もお前の飯もどっちも親金だろ?」


雅臣「えっ…」



突然の言葉に動けなくなる。


確かにそう言われればそうだけど、どこか引っかかる物言いと態度に違和感を感じた。


こいつ……本当は何が言いたいんだ?


蓮池の言い方を疑い、事の発端を思い起こしてみる。


大分話が逸れてしまっているが、ストレスを抱えた蓮池があれこれ買うのを俺が心配したのが始まりで……。



『どの口が言ってるんだ』



その次の蓮池の言葉を思い出し、俺はさあっと血の気が引いた。



楓「Aランチコーヒーゼリー付き980円のそれも、ID決済の請求先はお前の親父だろ?」



蓮池はそんな俺の様子を見て楽しげに笑い、とっくに冷めてしまった机の上の定食を指差した。


どの口が……って、あれはお互い親の世話になってることに変わりはないだろって意味だったんだ!


それなのに俺は自分を省みず蓮池の母親を大変だなんて、俺こそがどこポジで話してるんだ!!



雅臣「それは……!!」



罠にかかったと言わんばかりの顔は、蜘蛛の糸のように罠を張り巡らせ俺の隙を付こうと狙っていたのか、それともただ頭が回るだけなのか。


何にせよこいつがこれから何を言ってくるのか予測がつかない。



楓「弁当に作ってきた唐揚げってホランテの名古屋コーチンもも肉1枚1000円越えのやつだろ?お前って他のスーパーで値段比較とかして買ってんの?どうせホランテかほしみつの二択だろうけど」



な、何でそんなことまで分かるんだ!?


昼飯を食う時蓮池と話すことも無ければ目が合うこともないのに、今言われたことの全てがまた当たっていて怖い。


そして値段を見ずに買ってると思っていた蓮池が俺よりとちゃんと値段を見てることに驚いた。


互いを見てないようで見ていたのは俺も蓮池もどちらも同じだったのかと目を瞠る。



楓「お前が食ってるそのA定食コーヒーゼリー付きも何気なく買ってるオーガニック茶も、毎日作ってくる弁当の食費も全部親金だろ?」



いつもは声がかき消されるくらい騒がしい食堂なのに今は全く声が聞こえない。


周りが固唾を飲んで俺達を見てるのが分かるし、皆が次に何を言うのか蓮池に注目をしていた。



楓「お前の生活費も親金、俺のブランドも親金、お前の生活にざっと月30万かかってるだろうに俺の母親を大変だとか心配すんの?俺はお前親父を心配した方がいいと思うけどね」



蓮池はひと息に捲したてると眼鏡を外してわざと俺の目の前で振ってみせ、分かりやすく定食の隣に並べておいた。



楓「値段も見ずにカードでバカスカ生活するバカ息子、ブランドをバカスカ買い漁る俺、2人纏めてバカ息子!おめでとう!」



___俺と蓮池が同じ括りになるなんて。



今蓮池に言われた全てのことを確かに俺は1度も考えたことがなかったと、自覚の無さに呆然としてしまう。



雅臣「か、考えたこと無かった……そんなこと……」



素直にそう口を開けば、



楓「俺はお前のそういう考え無しで生きてるところが大嫌いなの」



初めて蓮池は俺の嫌いな理由をはっきりと述べた。






読んでいただきありがとうございます。

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