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69.【テーマ決め】



上裸で髪が濡れたまま首にタオルを掛けて教室に入ってくる桂樹先輩だが、トレードマークだった光り輝く金色の髪は不自然な程に黒くその変わり果てた風貌に驚きを隠せない。



蘭世「桂樹さん!?まじ!?染めたの!?」



か、桂樹先輩の髪が黒い…!?


立ち上がった梓蘭世はその髪は本物かと触りに行った。



桂樹「聞いて驚け、大会当日染めてくるか怪しいって今しがた水泳部のシャワー室で黒染めさせられたとこだよ」



梓蘭世は桂樹先輩の髪を1束指で摘んで似合わねーと大爆笑するが、全然そんなことはなく結局イケメンは何をしてもイケメンなのが証明されただけだった。


それにしても初めて会った時から金髪だったせいか別人のようで落ち着かない。


髪色1つで印象は大きく変わるんだなと眺めていると、俺と目が合った蓮池が左口角を上げてニヤリと笑った。


……はいはい、陰キャの俺は染めませんよ。


陰キャが急に髪を染めたら皆がドン引きするんだろ、とため息をついた。



梅生「綺麗に染まりましたね…久しぶりに黒髪の桂樹先輩見ました」



興奮を帯びた声で一条先輩が目を見開く気持ちも分かる。


誰が染めたのかは分からないが、学校で染めたとは思えないほど根元から綺麗にしっかり染まっていて、あの金髪がこんなにも真っ黒になるのかとまじまじと見てしまう。



三木「ガクか。懸命な判断だな」


桂樹「いーや、これやったの中田。最初ガクにやらせたら色ムラヤバくて殺そうかと思った」



後輩がやったと俺達1年にも見せて回る桂樹先輩に似合ってます、と一言言おうと口を開くも、黒髪姿が相当ツボな梓蘭世の笑い声に気が逸れた。



蘭世「ウケる!桂樹さんほんと黒似合わねーな!!」


桂樹「そんな事言ってると……」



上裸のまま桂樹先輩は梓蘭世の後ろから抱きつき、梓蘭世の絶叫が教室に響くがこれも既に見慣れた光景になってきた。



蘭世「離れろよ制服濡れるだろ!!!」



一条先輩が自分の傍に避難する梓蘭世を見て笑う姿に、2人とも先程の浮かない顔は何処かへ行ってしまったようだと安堵した。



三木「リオちょうどいいところに来たな。とりあえず学年ごとで1曲作り上げて歌うところまで決まった」



早速決定事項を伝える三木先輩に、



桂樹「俺作曲やるからお前が作詞しろよ」



桂樹先輩は何の躊躇いもなくそう言うとタオルで髪を拭きながら椅子に座った。



桂樹「で、他には?何か決まった?」


夕太「何にも決まってないです。ジュリオン先輩良い案ある?」



投げやりだなと笑う桂樹先輩は一瞬考え込むように天井を見上げる。



桂樹「……テーマ決めるとか?作詞作曲はいどうぞ、じゃあまりにも無茶だろ?」


夕太「確かに!!」




___なるほどテーマか。


桂樹先輩の名案にさすが陽キャは考える事が違うと感心した。


学年ごとにテーマを決めれば似たり寄ったりの曲になることもなく、雰囲気もバラけていいかもしれない。



楓「テーマねぇ……。どう決めます?」


梅生「学年ごとで話し合う?」



退屈なのか眠いのか蓮池は欠伸をしながら先を促し、一条先輩の案にも首を縦に振らない。



楓「もっと手っ取り早く___」


夕太「じゃあクジにしよう」



柊は言うが早いがリュックからノートを取り出し1枚ビリビリと雑に引きちぎったかと思えば、更にそれを細かくしていく。



蘭世「クジぃ?」


夕太「そうです!思いついたんです、何個かワードを用意して……あ、雅臣」



柊は訝しむ梓蘭世をスルーして、机の上にイヤホンが刺さったままの俺のスマホを手にして勝手に曲を再生すると自分の耳にイヤホンを突っ込んだ。



雅臣「な……!おい!!いいなんて言ってないぞ!」



柊がドーナツを食べた手でイヤホンに触ろうとするのが嫌で外してそのままにしておいたのがまずかった。


弁当のおかずを勝手に食うのはいいがスマホは勝手に触るなよ!


そして勝手にイヤホンを耳に入れるな!




雅臣「返せ___」


蘭世「歌詞からワード抜き取ってクジ作るんか」



柊からスマホとイヤホンを奪い取ろうと手を伸ばすが、梓蘭世が立ち上がって俺の横に来たせいでその手は下ろすしかなくなった。


梓蘭世の言葉が聞こえていないのか、真剣に曲を聴く柊は何とも微妙な表情を浮かべてちぎった紙切れにペンを滑らせる。


その顔は十面相のようにコロコロと変わって忙しく、きっと歌詞の意味が分からないんだろうと考えた。


俺が聴いていたのは最近ハマったばかりの4人組のロックバンド〝Not Bad〟の買ったばかりの新譜で歌詞が全て英語なのだ。


曲調もとにかくかっこよくて毎日聴いているが、日本語訳が載っていないので俺も歌詞の意味がまだ分かっていない。



楓「夕太くんできた?」


夕太「うん、まぁ」



急かす蓮池をよそ目に柊は一瞬チラと上目遣いで何か言いたそうに俺を見つめる。



雅臣「……どうした?」



英語の歌詞が聴き取れなかったのか?と心配するが、何でもないと出来上がったクジを柊は教壇の上に並べていく。



梅生「どれでもいいの?」


蘭世「いいよ、梅ちゃん好きなの引けよ」



一条先輩はクジというのが楽しいのか少しテンションが上がってきたようで、梓蘭世に確認して1番左端を取った。



桂樹「三木ー、」



桂樹先輩に頼まれた三木先輩は適当に1枚引く。


俺らは…と柊と蓮池を見ると、



夕太「雅臣引いていいぜ」



珍しく柊は遠慮し俺にどーぞと手を差し伸べた。


……妙に笑顔で気持ち悪いな。


鼻から引く気もない蓮池に、柊の様子が気になるが仕方なく1番真ん中を選んで引く。



夕太「よーし、せーのであけましょう!せーの、」



柊の掛け声で三木先輩、一条先輩、俺の3人同時にクジを開くが何故かなんとも言えない空気が漂った。



梅生「……あ、愛?」


三木「絆」



まず一条先輩が俺の方を見て困り眉で答えると、次いで苦笑した三木先輩が紙をひらひらと皆に見せた。



雅臣「…………ゆ、友情って…」



____な、何だこの言葉にしたら恥ずかしい単語の羅列は!?



楓「いやどんな曲聴いたらこんなワードになんだよ」



目を疑って柊を見れば、その横にいる蓮池に速攻馬鹿にされてしまった。



夕太「えー。それはまだマシな所を抜粋したんだよ」


雅臣「ちゃんと訳したのかよ」



ハードな曲調からは想像がつかない単語ばかりで俺の顔が激しく引き攣る。


ニヤニヤと何か言いたげな顔をしている柊を前に、蓮池が衝撃の事実を打ち明けた。



楓「夕太くん英語ペラペラなんだから歌詞の意味全部言っちゃえよ」



…………え、


英語がペラペラ!?


驚いていると更に衝撃が襲いかかる。



夕太「これスラングばっかで困っちゃったよ。普段はイケてない女友達だけど夜はエロいからゴム勝手に外しちゃおうかなみたいな男の歌、ね、雅臣?」



柊は後ろ手を組んで唇をすぼめながらニヤニヤ上目遣いで俺を見た。



蘭世「まじかよ!陰キャやるじゃん!」



手を叩いて笑う梓蘭世を皮切りに皆が爆笑しだした。


この曲を聴かなかれば良かった、と思うがそんなことより柊がスマホをいじるのを何としても止めるべきだったと酷く後悔し羞恥に震える。


愛と絆と友情、単語だけ並べればよくある言葉なのに、ハードロックな曲調にあのテンポからして普通の意味で使われていないのだろう。


そんな意味の歌とは知らずに今までお洒落だと思って聴いてきた己が1番恥ずかしい。



雅臣「た、たまたまオススメで流れてきたやつ聴いてたんだよ!!」


楓「どーだか」



焦って無理やり誤魔化してみるが蓮池の口角がこれ以上ないくらいに上がっていてバレてると観念し項垂れる。



桂樹「はー、笑った笑った。雅臣ごめんって、それ〝Not Bad〟だろ?メロハーで俺も好き、お前曲のセンスいいよ」



恥辱に震える俺の肩を叩きながら桂樹先輩が俺もその曲持ってると教えてくれて気持ちが浮上し、おまけにセンスいいとも言ってくれて恥ずかしい気持ちが半減した。



三木「よし、せっかくくじ引きまでしたんだからこのテーマでいいな?」



そして強引に決定を促す三木先輩の一言で、学年ごとの歌詞のテーマはあっさり決まってしまったのだ。




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