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66.【デンジャラス】



ショックで打ちひしがれていると、柊が傍に来てバツの悪そうな顔で口を開いた。



夕太「まぁ…、えーっと、雅臣は陰か陽かで言えば陰ってことだろ?」



慰めのつもりで言ったのかも知れないが、そんなの全然慰めにもならない。


その2択なら俺だって〝陰〟だと思う。



桂樹「いやいや、雅臣は大人しいんだよなぁ?お前らみたいにうるさくねーの」



桂樹先輩は倒れそうな俺の肩をもう1度抱いて支えてくれた。


…………桂樹先輩、貴方は本当に優しい。


俺は俗に言う陰キャですよ、なのに紛うことなき陽キャの貴方がこんな陰キャにいつも優しくしてくれて……。


自分が完全に陰キャだという事実に項垂れていると、梓蘭世もさすがに見兼ねて笑うのを辞めた。



蘭世「……んー、いやまあ陰キャってか…その顔だから言われないっていうか?」


梅生「あ、ぁー!分かる!ほら、藤城かっこいいから」



な、と一条先輩が俺に駆け寄り手を伸ばして頭を撫でてくれる。



雅臣「……そんなこと生まれて初めて言われました」



無理やり気遣いをひねり出してくれてありがとうございます。


ただ男子校の育ちの男の言う事なんて信用ならないんです、俺は陰キャでも一応共学出身ですよと本音は漏らさず優しい一条先輩に甘えて撫でられたままでいた。



蘭世「それは言いすぎ、梅ちゃん」



一条先輩が俺に優しくするのが気に入らないのか否定する梓蘭世に、思わずムッとして柊のように勢いよく振り向いてしまった。



蘭世「なんだよ陰キャ」



すかさず俺を睨む梓蘭世の顔がこの間柊が見せてくれた猫のチャーにそっくりで思わず吹き出してしまった。



蘭世「てめぇ何がおかしいん___」


三木「蘭世止めろ。それにしても藤城、お前の顔はなかなかいいぞ、武士系でキリッとしていて……着物も似合いそうだな」



珍しく三木先輩が助太刀をしてきたので梓蘭世は舌打ちしてコーラを煽った。


……陰キャと言われた俺を庇うこともなく目も合わせなかった人の言葉なんて信用なるものか。


実家が芸能事務所の三木先輩の言葉をはいそうですか、と素直に受け入れられないところがもう陰キャなのかもしれないが、ふと蓮池に出会った当初時代劇のコスプレだと言われたのを思い出す。



雅臣「……俺なんかが蓮池みたいな着物着たら、それこそコスプレで笑いものですよ」



あの時は腹が立って仕方がなかったが、結局蓮池の言うことは的中していたため半分自虐も込めてそう言うと、



夕太「あー、でもデブの方が着物似合うし!でんちゃんが似合うのはそういう事だよね!」



俺の自虐を無視してズレた答え方をする柊に、皆が大笑いするうちに何だか俺も笑えてきてしまった。



楓「デブデブうるさいな夕太くんは。……ほらそこの陰キャは放っておいてたこ焼き新しいの焼けましたよ、さ、先輩方どうぞ」



蓮池の言葉を合図にまた和気あいあいと皆でたこ焼きをつつく。



………楽しい。



多少ショックはあったものの今までに無い経験にたこ焼きがより美味しく感じる。


少し感動していると、突然人さし指を上げた柊に皆の視線が集まった。



夕太「同じ味ばっかも飽きるんでそろそろ皆でゲームしませんか?その名も…デンジャラスたこ焼き!!」



何だそのネーミングは……と思うが不敵な笑みを浮かべてペラペラと話す柊の説明を要約すれば、



〝1人ずつ好きな箇所に好きな具材を入れ、具材を入れ終わったら中身が分からないよう直ぐに生地を被せて蓋をし、焼きあがったものを選んで食べる〟



これがデンジャラスたこ焼きらしい。



蘭世「面白そうじゃん!!」


桂樹「甘いも塩っぱいも関係なし、何が入ってるかはお楽しみのロシアンルーレットたこ焼きか」



悪ノリのような提案に1番に飛びついたのは梓蘭世で、更に桂樹先輩の補足を聞いて俺は普通のたこ焼きで十分なんだがと少し慄く。



梅生「例えばだけど、タコとマシュマロが一緒になることも……」


夕太「ありえますね、それがデンジャラスたこ焼きの醍醐味です」


梅生「なるほど…楽しそう!」



非常に気持ち悪い組み合わせで嫌になるが、2年のどちらも乗り気なのを見て口を閉じるのが正解だなと思う。



楓「まぁ確かに普通のも飽きてきたしいいんじゃない?早速生地流し込むから……そうだな、先輩達からどうぞ」



手際のいい蓮池が空いた1台にざっと生地を流し込む。


お前ら後ろ向け、と桂樹先輩が先陣を切ってたこ焼き器に向かった。



桂樹「これ時間との勝負だから持ち時間1人10秒な」



わくわくする!と柊は楽しそうに両掌で瞼を押えているが、いつも不味いと直ぐに吐き出してしまうくせに大丈夫なんだろうか。


もしかしてそれを蓮池に押し付ける気なのか?


それとも……まさか俺に!?と青ざめる。


いくら柊と友達になりたいとはいえ、そいつの口から出したものを食べるかはどうかは別の話だ。


待ちきれないのか柊は瞼を押えたままくるくる頭を左右に揺らしている。


……もし柊が口から出したら、言い出したのはお前なんだから残さず食べろと絶対に言うからな。


それこそハッキリ言わないと、と目を閉じたまま力が入る。



桂樹「おっけ!次三木な」


三木「おお……リオ、お前な…」



後ろを向いているのでどのたこ焼きに何が入れられたのか全く分からずヒヤヒヤしてるのは俺だけか?


三木先輩の反応を聞く限り、何かとんでもない物が出来ていそうな……。


3年、2年とバトンタッチしていき、ついに俺の番になった。


たこ焼き器を見れば皆中々上手に具を入れたようで、生地が被さっていて中が見えない。


……定番物をいれた方がいいよな?


明らかにチョコレートソースを入れた様子の茶色い生地を避け、イカとタコ、そしてエビを選んで空いていそうな場所に入れてみる。


箸の感覚でどこも既に何かが詰まっていて、俺もその上から見えないように生地をかけて誤魔化した。



雅臣「柊、次」


夕太「おっけー!任せて!」


……。


背後で「あっ」とか、「やばっ」と騒ぐ柊の声に、おいおい大丈夫かよと思うがこれが醍醐味だと先輩達は笑ってる。



夕太「よし、でんちゃん後は頼んだ!」



面倒だから俺は入れない、と蓮池はある程度焼けたものから裏返していく。


全員で蓮池を囲んで焼き上がりを待つが、



梅生「すごい色のやつが何個か……」


三木「チョコレートソース…いや、たこ焼きソースか?やけに茶色いのもあるな…」


雅臣「パッと見…どれも同じですよね…」



一条先輩と三木先輩が眉を顰めるのを見ながら俺も自然と口をついて出る。



桂樹「まじでな、こんなわかんねーんだ」



桂樹先輩が隣に来て指を指し、あれ中身透けてんのイカじゃね?と言うのでバレないかドキドキする。



楓「…多分もういけますよ、誰から行きます?」


蘭世「年功序列だろ、先輩方お先にどうぞ」



梓蘭世がにやにやしながら勧めるが、今回ばかりは俺も賛成だ。



桂樹「珍しく敬ったと思ったらこれだからな…三木どれいく?」


三木「どれも同じだろ……これだな」



3年生は選んだたこ焼きを同時に口の中へと放り込

み、数回噛んだ三木先輩が何とも言えない顔で口を押え、怪訝そうに味わう桂樹先輩は身体をくの字に曲げて叫んだ。



桂樹「うーわ!!なんか…何だこれ!?」


夕太「ジュリオン先輩何味!?」



……どうやらこのリアクションを見る限り2人ともハズレを引いたっぽい。



桂樹「タコと…餡子……、紅しょうが」


三木「……俺は明太子と…チョコレートだな」



2人ともよく吐き出さなかったな、組み合わせを聞いただけで寒気がしてきた。


梓蘭世がゲラゲラ笑っているのを見ながら三木先輩は静かにお茶で流し込み早くお前らも食えと言わんばかりに顎で支持する。


次は2年が…と思ったが、梓蘭世が全員で行くぞと言うのでたこ焼き器を囲んだ。



夕太「えー、怖くなってきた」


蘭世「言い出したのお前だろ」



ゴツンと柊の頭を叩く梓蘭世の言う通りだが、当たりの場合もあると信じできる限り事故は避けようと真剣に選ぶ。



梅生「甘いやつだといいな」


楓「あれなんかピンクで甘そうですよ」



蓮池それは明太子の可能性が……と戦慄する俺らを横目に、既に口直しを終えた3年が早く食えと後ろから急かす。


全員が意を決して、選んだたこ焼きを同時に口に入れた。




………………。




……ん?


俺が考えていると、柊が鳥のように上下にバタバタと手を動かし悶え始めた。



夕太「誰!?!?大根おろしにマシュマロ入れた人!?!?」


楓「……キムチ餡子イカ、死んだ方がいいよこれ作った人」



やばい、そのイカの原因は俺かも知れないとさっと目を逸らす。



蘭世「マジで最悪!!めっちゃ不味いのに何かわかんねぇ!!」



柊と蓮池が烏龍茶を取りに行こうとする横で梓蘭世が叫ぶ声に、三木先輩も桂樹先輩も大ウケだ。


たしかに聞いただけで不味そうだが、俺は別に……と一条先輩と顔を合わせる。



雅臣「先輩どうでした?」


梅生「多分エビと餡子かな?でも餡子がいっぱいで美味しいよ」



……この人は甘かったら何でもいいのか。


海鮮と和菓子みたいな組み合わせでよくそんなリアクションでいられるな。


実は1番底知れないのはこの人なのかもしれないと凝視する。



梅生「藤城は?」


雅臣「いや、俺のは何も入ってなくて……」



何度噛んでも何も味はせず、たこ焼きの生地だけで中には何も入っていないという俺にとっては最高の大当たりだった。



楓「1番つまんねーな」


雅臣「はぁ!?」


夕太「いやでも、絶対その方がいい、むしろすごい」



柊が次は俺も当たりを引くぞと意気込んで箸を伸ばすが、余程不味いのか食べた瞬間固まって動かなくなった。


皆それを見て笑っているが、食べるのが恐ろしいからか誰1人次へと箸が進まない。



三木「作った責任はあるからな、とりあえず最低1人あと2個は食べろよ」



三木先輩の言葉に全員渋々返事をし、残すことは許されなくなった。


不味いと声を上げる皆の顔を見て、あんなに嫌々だったサークルが今は楽しいだなんて人は変わるものだと思う。


次は変わった味のものでもいいなと迷う俺の横で、柊がめげずに再チャレンジをしようとしていた。



「あらぁ、どれにするの?」



夕太「いや、これかな……これかも」



「そう?これがいいんじゃないかしら?」



……ん?


何だこの癖のある話し方は。


誰かふざけて……。




「楽しそうだな、SSC」




その声に全員がバッと後ろを振り向く。



「なぁにしてるの?このサークルは」



そこにはあの多様性生徒会長と眼帯カラーグラスがいた。


読んでいただきありがとうございます。

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