64.【歓迎会スタート】
蘭世「おー!何だこれ既視感すげぇ、よく用意したな」
梅生「ピザの時より…」
雅臣「多いと思います…」
急いで準備した甲斐もあり、2年生が調理室に入ってきた時には後は焼くだけの状態になっていた。
梅生「あ、ジュースも買ってくれたんだ。重かっただろ?」
夕太「これは小夜先生から!楽しめよって差し入れてくれました!」
色んな種類のジュースに、たこ焼き器はなんと5台。
これはどうしたんだと尋ねる先輩たちに、担任に掛け合ったら気前よくジュースを差し入れてくれて、しかもたこ焼き器は今後も使えるからとサークルにプレゼントしてくれたと柊が説明する。
ピザといい今回といい、財布の紐が緩すぎないか?
桂樹「おー…!!」
三木「これはまたすごいな」
3年は調理室に入ってくると同時に扉を閉めるとすぐに換気扇のスイッチを押した。
まだ焼いていないがきっと匂いがこもると思い、窓を開けようとしたら、
桂樹「あー、……雅臣、暑いから開けんな」
雅臣「あ、はい」
確かに湿気が凄いもんな、タコパが終わってから空気の入れ替えで窓を開ければいいかと手を止めた。
全員揃ったところで先輩達は各々が買ってきた具材を調理台の上に乗せて見せる。
蘭世「俺はチーズとウインナーと、」
がさ、と梓蘭世が保冷バッグから一緒に取り出したのは大きなポテトチップスだった。
6限までにウインナーが傷むのを考慮したのか、梓蘭世の保冷バッグにはかなり大きいサイズの保冷剤が何個も入っている。
それを見ながら俺の弁当も傷むわけだと初めて弁当を作った時を思い出す。
梅生「蘭世冷蔵庫使わなかったの?」
蘭世「調理室行くのだるかった、何気に教室から遠くね?」
2人の会話に、確かに地味に遠いし面倒だったんだなと思うがたこ焼きの具材に何故ポテチと気になった。
雅臣「…何でポテトチップスなんですか?」
蘭世「何でって…砕いて入れたら美味いだろ」
そう言うと梓蘭世は早速袋を開けて1枚口に放り投げた。
これはもしかしてただ食べたいだけではと思うも、梓蘭世に怒られる事なく自然に会話ができたことが嬉しい。
桂樹「蘭世コンソメ味はセンス良すぎ。1枚寄越せ、あ、俺はやきとり缶にツナ缶にコーン缶」
蘭世「缶詰ばっかじゃん」
桂樹「うるせー文句あるなら食うな!」
桂樹先輩が缶詰を大切そうに抱えるから思わず笑ってしまう。
先輩達が持ってきた具材は俺には思いつかず、たこ焼きという枠に縛られないものばかりで見ているだけで楽しい。
三木「俺はたくあんと大根おろし、あとポン酢」
雅臣「和風、ですね」
桂樹「ちげーよ、ジジくせえって言うんだぜ」
俺の相槌を茶化した桂樹先輩が三木先輩の肩を叩こうとするが、三木先輩はその手を払い除ける。
三木「リオ…コンソメの粉を俺のシャツで拭くな」
桂樹先輩は指に着いたコンソメの粉を見つめ、バレたかと舌で舐めとった。
更に手を振って粉を落とそうとする桂樹先輩に顔をしかめた梓蘭世が席を移動するのを見て、この間の俺と柊みたいだなと思う。
分かるぞ、流石に嫌だよな。
そんな中で、次は俺と一条先輩が持ってきたものを嬉しそうに出しながら説明を始めた。
多分何となくだけどこの人は甘い系ばかりでは……と覗くと、
梅生「俺はマシュマロと、レーズンとチョコレートソース。柊がホットケーキミックスも買ってきてくれると信じて」
夕太「相思相愛ですね!」
予想的中だった。
微笑む一条先輩に柊はホットケーキミックスを見せつける。
砂糖とか持ってこられたらどうしようかと密かに構えていたが、さすがにそこまではなく普通の甘いものばかりで安心した。
蘭世「んなの相思相愛でもなんでもねーだろ」
梓蘭世が一条先輩の肩を組み自分の傍に寄せて不機嫌な声を出した。
一条先輩が重いと身体を揺さぶって離れるのを舌打ちし、まさかこんな事で不機嫌になるのかと身構えるも、
楓「俺は王道食材とタレ。甘いやつも餡子しか買ってないから被ってませんね」
蓮池がタイミングよく冷蔵庫を開けて見せ、新鮮な魚介類をどーだとばかりに見せつけた。
そのとんでもない量に先輩達全員がすげー!と気を取られ梓蘭世の気も上手い具合に逸れる。
……ナイスだ蓮池。
夕太「よーし!ジュリオン先輩の歓迎会を始めます!どんどん焼いていこーー!!」
柊の明るい掛け声と共にたこ焼きパーティーはスタートした。
たこ焼き器は調理室の真ん中の大きな調理台に5台並べてあり、既に温まっているそれに柊が油を引いていく。
続いて蓮池が順に生地を流し込むと、ジュワッとしたいい音が調理室に響いた。
5台並ぶたこ焼き器のうち2台は俺ら1年生が普通のシンプルなたこ焼きを、もう2台を3年がオリジナル、残る1台で2年が甘いものをと分担して焼き始める。
梅生「蘭世これ入れていいの?」
蘭世「いいよ、梅ちゃんが食べたいの入れな…って待って餡子多すぎる!梅ちゃん!!」
梓蘭世の焦る声に覗いてみると、一条先輩は生地に溢れるほどの餡子を詰めていて最早たい焼きのようになっている。
餡子まみれのたこ焼きはとんでもなく甘そうで、さすがにあれは1個か2個でいい。
入れすぎだと止める梓蘭世の手を一条先輩が払い、尚餡子を詰めるその姿を見て意外とこの人譲らないよなとクレープを食べに行った時を思い出した。
三木「…リオ」
桂樹「うお、下手くそすぎるだろ貸せよ」
3年は主に桂樹先輩が手際よくたこ焼きを焼いている。
桂樹先輩はピックでクルクルとたこ焼きを回していてイケメンで更に料理まで出来るのかと驚くが、その一方で三木先輩はかなり苦戦していた。
この人にも苦手な事があったのかと普段は見れない姿に少し親近感が湧く。
夕太「でんちゃん生地少なくない?」
楓「半回転させたらまた足すんだよ」
夕太「へー、知らなかった…さすが__」
楓「デブは料理に慣れてるって?はいはいそうですよ、俺はたこ焼き100個は食べれるブタですよ」
夕太「まだそこまで言ってな…あ、そうだでんちゃん金だこあるじゃん?今期間限定の___」
俺達1年生のたこ焼き器はさっきから蓮池の独壇場で、2台を前に蓮池1人でくるくると裏返していくので俺の出番がどこにもない。
そして2人の恐ろしく早いテンポの会話に俺の入る余地がない。
2、3年の会話は1つのことを割と長く話しているのに、柊と蓮池は次から次へと話題が移り変わる。
柊が1つ話せば蓮池が3つ、それに加えて違う話しを柊がまた5つ、と言った感じで俺が相槌を打つ隙がないのだ。
目まぐるしく話が変わっていくから、俺は会話に入る事もできず聞いてるだけで疲れてしまう。
……でも、先輩達の会話には入ろうと思えば入れるよな。
会話に入るタイミングも分かりやすく、さっきだって桂樹先輩たこ焼き作るの上手ですね、と言えば桂樹先輩は多分何かしら反応してくれただろう。
どうしたものかと考えあぐねていたら、
楓「おい、突っ立ってないでやる事ありますか?くらい聞けよ陰キャ」
雅臣「……は、はぁ!?」
下を向いてたこ焼きを焼き続ける蓮池の声でハッとする。
この前のピザパーティの時にも同じように言われたのを思い出し、今日こそ上手く立ち回らないとと心を入れ替える。
雅臣「……何したらいいんだ?」
楓「自分で考えろよ」
…………。
……な、何でこいつは!!いつもいつも!!
もし俺が焼くと言っても、蓮池と代わったら下手くそだのセンスがないだの確実に罵詈雑言の嵐になるのが目に見える。
なら俺が焼くのはやめた方がいい……というか、蓮池がやめる気はなさそうだし、そうしたら俺は待つ以外に何ができるんだよ。
一刀両断の答えに、やはり蓮池は蓮池だと心でため息をつくもこれは柊に聞くのが1番な気がした。
雅臣「あー、柊、俺は何を…」
夕太「俺とでんちゃんでたこ焼きやるから、そこにソースとか準備してくれる?」
雅臣「…わ、わかった。教えてくれてありがとう」
柊が自宅から持ってきた小さめのカップを見て用意周到さに驚いた。
夕太「あ、スプーンはその袋に入ってる!」
ソースを各自で掛けられるようにプラスチックスプーンまで持ってきていて、聞かないと分からない俺なんかとは大違いだ。
チリソースやチョコソース、おろしポン酢など俺が準備している間に先輩達は次々とたこ焼きを仕上げていく。
桂樹「雅臣ソースありがとな!そろそろいけるから食おうぜ」
紙皿の上には焼きあがったたこ焼きがたくさんあって、どのたこ焼きに何が入っているかパッと見分からない。
夕太「ここはノーマルたこ焼き!そのお皿はホットケーキミックスのドーナツとアメリカンドッグで……」
三木「これはオリジナルだな、エビに焼き鳥、変わり種を用意してあるぞ」
雅臣「あっ……飲み物は各自前に置いてある紙コップでどうぞ」
3年から順に好きなジュースを選んでくださいと奨めててみる。
俺の声掛けをきっかけに先輩達が楽しそうに選ぶ姿を見て、柊の足元にも及ばないものの俺も前より成長した気がして嬉しくなった。
焼くのに必死な蓮池にも紙コップを差し出してみるが、こちらを見ることもなく絶対に受け取らない意志を感じたので早々に諦めた。
夕太「雅臣、俺コーラ」
代わりにそのコップを柊に渡してコーラをいっぱい注いでやると、全員がコップを片手にこちらを見て待っていた。
夕太「じゃあじゃあ、うーんと、ジュリオン先輩の入部と、テストお疲れ様と、全部に…乾杯!」
柊が紙コップを掲げて大きな声を上げると、楽しい歓迎会は始まった。
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