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63.【自分から】



買い出しの後、俺の分も一緒に袋詰めをしながらそれしても凄い量だと感心する。


そのほとんどは蓮池のトッピングだが大荷物な事に変わりはなく、勿論俺は蓮池の家まで運ぶのを手伝うつもりでいた。


カートに詰めた袋を乗せ直し出口ギリギリまで3人で運ぶと、蓮池がエレベーターに乗り込むのでその後について地下駐車場へ向かう。


一瞬どうしてわざわざ地下からと思うが、何か別のルートがあるのだろう。


長年地元にいる蓮池の方がホランテに詳しいはずだから大人しくついて行くことにした。


エレベーターの扉が開くと、正面の駐車場にはいつ連絡したのか蓮池のお母さんが車で待機していて中から手を振る姿が見えた。



楓「おいババア、さっさと中からトランク空けろよ!夕太くんは後ろ乗って」



運転席の扉を叩き言うが早いが蓮池はそのまま助手席に乗り込み、バン!と力任せに扉を閉めた。


……まあ、ほとんど蓮池の支払いだもんな。


それにきっと荷物が多いのを見越して、わざわざお母さんを呼んでくれたんだよな。


運転席の窓から会釈する蓮池のお母さんに頭を下げ、素直に開いたシルバーのベンツのトランクへ荷物を詰め込んでいく。


いざ習慣化していた不満をやめて出来るだけ良い方に意識を向けてみれば、不思議といつもみたいに苛立つこともなかった。


冷戦に考えると、いかに俺が何もしないでただ文句だけいう嫌な奴だったかに気がついた。


俺が荷物を全部詰め込むつもりでいたが、柊は後部座席に乗り込まないで、



夕太「…っとに人使い荒いな」



と、ブツブツ文句を言いながらも俺を手伝おうとしてくれた。



夕太「ああやって動こうとしないからでんちゃんはブタなんだよ」


雅臣「……俺が全部やるからいいよ」



さっき柊が体調が悪そうだったことを思い出しカートから袋を取ろうとする柊の手を押さえて止め、俺1人でトランクに全ての荷物を詰め終えた。


代わりにカートを片付けてくると素早く柊が置き場まで運んで行く姿を見て、当たり前のことを当たり前にするあいつを見習わなければと思った。


……俺も同じようになりたい。



夕太「ふぃー、ミッション完了!」


雅臣「…柊、明日の朝さ…俺も運ぶの手伝おうか?」



いくら学校から近いとはいえ調理室まで何気に距離があるので蓮池と柊の2人だけでこの量を運ぶのは大変だろう。


戻ってきた柊に初めて自分から意欲的に聞いてみた。



柊の返答を少し緊張しながら待つと、



夕太 「え、マジ!?助かる!でんちゃん寝汚いから朝起きないかもしれないしさ…よかったー!じゃあでんちゃん家の門の前に8時集合ね!」


雅臣「……ああ、明日8時な」



〝また明日〟と約束をして、柊が後部座席へ乗り込み車が出発するのを見送った。


窓ガラス越しに笑顔で手を振る柊を見て、勇気を出して声をかけて良かった、言って良かったと嬉しくなる。


車が見えなくなった後も、俺はしばらく喜びをそのまま噛み締めていた。





_________________





朝起きて約束の時間より少し早めに蓮池の家の玄関前で待つ。


見れば入口が3つもあって、あまりにも敷地が広いのでここが正しい玄関かどうかがわからない。


7時58分……柊に着いたとチャットするか。


スマホを取り出し打ち込むが、1番縁の門からひょっこり顔を出したのは柊だけだった。



夕太「雅臣おはよ!」


雅臣「おはよう」



こっちが勝手口だと招かれ、まるで柊の家かのように案内される。


一応蓮池が遅刻するから起こした方がいいのではと言ってみるが、蹴飛ばしても起きないから放っとけばいいと柊は聞かなかった。


2人でクーラーボックスと袋を運ぶのには手が足りず、柊と走って2往復する途中で調理室の鍵はどうするのかを柊に尋ねれば、柊はふっふっと笑いながらポケットから取り出した鍵を見せつけた。


三木先輩が今日の為に前もって生徒会に調理室の使用許可を貰い、鍵は俺が来る前に柊が三木先輩から受け取っておいてくれたらしい。


顧問件担任に調理室の冷蔵庫を使いたいから鍵を空けて欲しいと前日に頼んでおいてくれた柊の活躍があって、現在俺らは無事に冷蔵庫に食材を詰める事ができている。



夕太「間に合った……、雅臣が早く来てくれて良かったよ」



クーラーボックスから買ってきたものを次々冷蔵庫に移す柊を見て、全ての手際良さに感心する。


こんな所も見習うべきだよな……。


柊の要領の良さや気の利き方を何度も目の当たりにして、俺もそうなりたいと思った。



雅臣「柊、今度からサークルで使う教室の申請を俺も一緒に手伝わせて欲しい」



やって貰うばかりではダメだと気づいてその場で伝えると、びっくり眼の柊はきょとんと効果音がつきそうな表情だ。



夕太「急にどしたの?」



何で?と言わんばかりの声と俺が何かに取り憑かれたみたいな顔のままの柊に、素直に思ったことを伝えることにした。



雅臣 「……今までお前に任せっぱなしだったから」



サークルなんて名前だけ貸すつもりだったのに、いつの間にかこんなことまで申し出るようになった自分に驚く。


でも、何も考えず文句だけ垂れていた頃より今の方が気持ちが高揚しているのだ。


それは目の前の柊のお陰でもある。



雅臣「は、蓮池は仕事とかあるし。風邪とかさ、柊1人で大変な時もあると思うから」



だから俺も一緒にやりたい。


そう伝えると、柊はへへっと笑って何故か俺に体当たりしてきた。



夕太「……そっか。じゃあ明日から場所決めんの手伝ってよ」



昨日の買い出しの時も体当たりしてきたなと思い出し、どうやら柊は嬉しくなると何度もぶつかってくる癖があるようだ。


少し痛いが、このふざけた所も柊の魅力だよな。


ありがとう、と笑う柊の言葉とともに、友達になりたい奴の1面を知った気がして嬉しくなったのが朝1番の出来事だ。


……1限の終わりに遅刻してきた蓮池はなんで起こしてくれなかったのさと柊に大変おかんむりだったけど。




______そして、現在昼休み。



夕太 「タコパはジュリオン先輩の歓迎会でもあるからさ!俺らで早めに行って先輩達は焼いて食べるだけの状態にしよっか」



俺の作った肉団子を気に入った様子の柊が、5個目に箸につけるかつけないか迷いながら気配り満点の提案をした。


さすがの柊も人の弁当のおかずを5個は食いすぎかと思ったのか、海外アニメのカナリアみたいに上目遣いでチラチラ俺を見る。



雅臣「そうだな。……柊、食べていいぞ」


夕太 「ありがとな!!…ふぉんでね、ろくぐぇん…」


最近の柊は、俺の作るおかずを美味い美味いと良く食べる。


相変わらず頂戴の一言もなければ口に入ったままペラペラと話すが、美味しそうに食べる姿を見るのが嬉しくて俺は予め2人分のおかずを用意してきてるのだ。


蓮池にもお裾分けするか?と少し前から気にかけてはいるが、俺を無視して黙々と自分の弁当を食べるのは変わらない。


今はまだその時じゃないよなと黙っていた。


とりあえず、弁当箱を新しく大きなものに変えた甲斐があった。


いっぱい食べて大きくなれよと頬をパンパンに膨らせる柊を見て、勝手に親鳥みたいな気持ちになっていた。



_________


_______________



夕太「雅臣早く!!でんちゃんもっと早く走れよデブ!!」



柊の提案通り6限が終わると俺達3人はダッシュで調理室に入った。


柊は先輩達が来たらすぐ食べれるよう手際よく生地を作り、蓮池は買ったトッピングを紙皿に並べていく。


その横で俺はコップやジュースを並べて率先して洗い物をすることにした。


たこ焼き粉やホットケーキミックスも含めて一体何個作って何個食べる気なんだという量だが、自宅でたこ焼きなんてしたこともない俺はとても楽しみだった。





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