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61.【幼馴染と違和感】



……桂樹先輩が牛乳を投げて寄越しただけで、蓮池の怒りが着火する理由って何なんだ?


柊と2人歩く中、俺は間近に蓮池の激昂を見て何をそんなに怒る事があったのかと疑問に思う。


ピロティの2階にいた桂樹先輩は蓮池に理不尽に怒鳴られても顔色1つも変えずにやり過ごしたが、俺だったら何で突然そんな態度を取られるんだと怒鳴り返してしまいそうだ。


たった2つしか変わらないだけなのに、桂樹先輩がとても大人に感じてその度量の広さに憧れを抱く。


俺も……


俺も高校3年生になったら桂樹先輩みたいな人にれるだろうか?


いや、桂樹先輩を目指すならまずはやっぱりコミュ障脱却、自然と会話ができるようになるまで諦めず頑張るしかない。



夕太「あっつい…………」



俺の真逆でコミュニケーションの達人とも言える柊は蒸し暑さに汗を垂らしてバテ気味だ。


6月の湿気と相まって髪の毛のくるくる度合いがいつもより強く感じる。


……これが天パって、どうも嘘くさいんだよな。


横目に見ながら、俺も首元に汗がまとわりつくのが気になってポロシャツの襟ぐりを引っ張った。


名古屋の湿度は連日異常で、気温はそこまで高くないのに不快指数はマックスだ。


東京とまるで違う嫌な暑さに、6月でこれなら夏本番の8月はどうなってしまうのか今から恐ろしい。


せっかく衣替えして半袖になったというのに、肌に直接当たる湿気が気持ち悪くて耐えられない。



雅臣「名古屋暑いな……」



坂道を登りながら思ったことが自然に口をついて出る。



夕太「これからもっと暑いよ……」


雅臣「そうなのか…」



その暑さを想像したのかげんなり肩を落とす柊に相槌を打つ。


会話に入るのが苦手な人は相槌を打つという調べを実践してみたが、ちゃんと聞いてるよと相手に伝えつついい具合に間が持つ事に気がついた。


今までも相槌は打っていたつもりだったがそれは俺の心の中でだけで、実際は一言も発していないという我ながらどうかと思うくらい酷い状態だった。


だからこそ、これからは出来るだけ意識して声に出して相槌を入れ話そうと心に決めたのだ。



夕太「夏は京都の方が暑いって言うけど、俺は名古屋の方が暑いと思う」


雅臣「夏の京都は行ったことがないからな…修学旅行で11月に行ったけど…」


夕太「あーね、冬はいいよね」



お、おぉ………!!


過去最高に友達っぽくていいんじゃないか!?


よく考えると、柊はいつも相手の言うことに一度賛同してい会話の繋ぎもスムーズだ。


これからこっそり真似してみようと思い前を見れば、俺達より大分先を歩く蓮池のおかっぱ頭が見える。


怒りに任せてそのまま自宅に帰るんじゃないかと思ったがどうやらそんなこともなく、蓮池は校門から一本道と呼ばれる坂道を上がって行く。


その先にあるスーパー覚王山ホランテを目指してるのが見て取れて、あいつがまだ一緒に買い出しに行く気があるのが分かって足早く俺と柊で後を追う。


俺達のどうでもいい話題に、先程の蓮池の様子は一切出てこない。



……柊はあの幼馴染をどう思ったのか。



梓蘭世のように分かりやすく拗ねている怒り方と全く違う激情はあまりに不自然だった。


しかし舌を出しながらヒイヒイ歩く柊が特に気にしてるようにも見えなくて、俺が気にしすぎなのかと別の話題を振った。



雅臣「あー…ホランテで前会ったよな」



柊は覚えていないかもしれないが、これもいつもなら心の中で思うだけなのでちゃんと口に出して聞いてみる。



夕太「そうそう!前会った!」



……お、覚えてくれていた!!


毎日色んな奴と会話する柊の記憶に俺が残っていた事実がとてつもなく嬉しい。



雅臣「お、覚えてたんだな」


夕太「そりゃ……あんな風にでんちゃんガン見して俺に助けてーみたいな目で訴えられたら、ねぇ?」



忘れる方が無理だよ、と笑う柊に俺はそんなに酷い見方をしていたのかと急に恥ずかしくなる。



雅臣「それはその……蓮池のあれをお前が止めるかと思って、」


夕太「何で?」



急に大きな目でじっと見つめられ、心臓が跳ねた。


瞬きもしない柊の大きな目は純粋な子供のようで、いつも嘘が通用しない気持ちになって困る。


……何でって、言われても。


あんなに酷いシーンを見たらそれは、その……。


言いたい事を胸の内で纏めようとするも、上手く纏まらない。


俺をじっと見つめ、次の言葉を無言で待つ柊に取り繕った言葉は通用しない気がして、観念してあの時思った事を素直に伝える事にした。



雅臣「びっくりしたんだ。蓮池があんまり…その、母親に向かって暴言吐くから」


夕太「あー、ね。あれは蓮池流継ぐストレスからくるこう、甘えというか?……それと半分試してんだよ」



柊は俺の答えを茶化すこともなく、至って自然に幼馴染への心情を吐露した。


何をどう捉えたらあいつのあれが甘えになるんだ。


それに、



雅臣「試す?」



何を?と言葉を続けようと横を見ると、柊は物憂げな表情を浮かべていてつい息を飲む。



夕太「自分から離れていかないかをね、……多分そんな感じ」



このどこか大人びた顔は前も見た事がある。


何ともいえない曖昧さに言い淀みそうになったが、俺は別の本音をきちんと言葉にする事にした。



雅臣「優しいんだな、蓮池のお母さん」


夕太「そうだねー、ほんと、でんちゃんは人使いも荒いからさぁ…」



蓮池に対する愚痴を聞きながらホランテに到着すると、その張本人が入り口で待ち構えていた。


蓮池は既にカートにカゴを2つセットして待機していたようで、柊にも同じようにしろと指示する。



夕太「もう!でんちゃんってほんと人使い荒い…ん?」



不満そうにカートを押す柊が立ち止まって腰をさすると少し顔を歪めた。


……どうしたその仕草は?


どこか痛いのか?それなら何か言え……


……。


いや、俺が気になるんだから俺が話しかけるべきだよな。



雅臣「……なぁ、腹でも痛いのか??」


夕太「うーん……」


雅臣「俺が持つぞ、貸せよそれ」



慮りカートを代わりに持つと、柊はこぼれ落ちそうな目を何度もぱちぱちと瞬いた。





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