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60.【買い出し目前で】



その後は再び先輩達総出で、蓮池の追試対策を行い叩き上げていた。


苦戦したのは蓮池本人よりも教える方で、俺は横で見ているだけなのにげんなりしてしまった。


今までこの馬鹿を1人で支えてきたのか……。


チラリと柊を横目で見ると、購買で人気の手作りラスクを頬に詰めボリボリ貪るその姿に俺の中に芽生えた尊敬の念は一瞬で消え去った。



夕太「むぅさうぉむぃ、そくぉまひがっへう」



柊は俺の英語の課題を指差し指摘するが、こいつさっきから人のノートの上にラスクの粉をボロボロとこぼしやがって……。



雅臣 「……おい、汚いな」



俺がそう言うと柊は慌てて粉を手で強く払うが、そのせいでシナモンと油がノートにこびりついて染みが所々に広がってしまった。



夕太 「……へ、へへ?雅臣も、食べる?」



上目遣いに可愛こぶった顔しやがって。


海外アニメの黄色いカナリアそっくりな仕草に少し腹が立つが、今怒っても仕方がない。



雅臣「今度から気をつけて食えよ」


夕太「うん」



差し出されたお詫びのラスクを受け取って齧り付く。


毎日の弁当チャレンジの成果か、最近柊と随分自然に話せるようになってきた。



楓「夕太くん俺もラスク……」


蘭世「てめぇはこれ解いてからにしろ!!」



二度と教えたくないから絶対受かれ、と梓蘭世が念を押し、よそ見した蓮池の頭をゲンコツで殴った。



夕太「馬鹿すぎると手が出る気持ちわかるよ、蘭世先輩。ついモラになっちゃうよな」



そう言いながら指に着いたラスクの粉をしゃぶって綺麗にする柊の姿を見て、絶対にその手でノートを触られたくないので急いで閉じた。





_________________





……最近、時間があっという間に過ぎる。


今日は蓮池の追試が行われる日で、それが終わり次第学校から1番近いスーパー覚王山ホランテに3人で買い出しに行くことが決まっていた。


そして俺は今現在、柊と2人であいつの追試が終わるのを教室で待っている。



夕太「それでさ、ゲームしてたら___」



待っている間とめどなく話し続ける柊だが、さっきから話す内容がものすごいスピードで目まぐるしく変わっていく。


まず蓮池の家で飼っている鳥が太っていて可愛いという話から、この間家で食べたチキン南蛮が美味しい話に何故か変わった。


そうかと思ったらそのチキン南蛮を飼っている猫が口にくわえて逃げたらしく慌てて追いかけ、そうしたらこの間行ったペットショップに流行りのゲームのパチモンがあって……?


そして今はそのゲームとは全く関係の無いルービックキューブを何秒で完成できるか、と5分も経たないのに話題が次から次へと移り変わるので全くついていけない。



___要するに、柊の話は何を言ってるのかよく分からないのだ。



初めて会った時からよく喋る奴だなと思っていたが、柊はいつでもどこでも、食べる時でも授業中でもチャンスがあればペラペラ話す。


思い返せば柊の口が動いていない日はなく、静かに口を閉じている姿なんて見たことがなかった。


性格に難ありとはいえ、食べて寝てるだけの蓮池の方がまだ大人しく静かでいいのではと錯覚するほどに喧しい。


柊は今もちょこまか身体を動かしながら話しているが、今度は急に座り込んでリュックからスマホを取り出した。


前の俺なら落ち着かないなと苛立っていたが、今は柊にどう相槌を返したらいいのかを考えあぐねていた。



夕太「でんちゃん遅いな…あ、見て雅臣、これ俺んちの猫」



柊はスマホで時間を確認するついでにロック画面の猫を見せてくる。


きっとこれがさっき話していた家猫だろう。中々可愛いな、しまとぶちで…。



___いけない。



また心の中で思っているだけだ。


俺の手作り弁当を柊が勝手に奪って味見する毎日が続いているが、最近は評価をして貰ってるうちに意外と話せるようになってきた。


せっかく努力が実ってきてるのに、同じことの繰り返しは良くない。


蓮池と柊のようにいかにテンポよく話せるかも課題にしているので、



雅臣「か、可愛いな。…柊の家で飼ってるのか?」



直ぐに思ったことを柊にそのまま伝え、もう1度柊のスマホを覗いてみた。


よく見れば猫は可愛いには可愛いのだが、元々大きいのかそれとも太らせすぎなのか、柊の家の猫は見るからにデカい。



夕太「そう!こっちがチャー、こっちはハン、これはテンでこれはシン!あとはね__」



……お、おぉ、いい感じじゃないか?


柊が写真フォルダを指でスクロールして次から次へと猫を見せてくれるが、それよりも変な名前が気になってしょうがない。


チャー…テン……。


……もしかして、炒飯と天津飯か?


それぞれの名前を繋げたのは良いとして、何で中華料理の名前ばっかりなんだと思いついたことをそのまま口にしてみた。



雅臣「…中華から取ったのか?」


夕太「そう!よく気づいたな!あ、これこれ、これがマー坊」



まーぼう…? 麻婆……いやそれにしても、



雅臣「…ハンが飯要素を担いすぎじゃないか?」


夕太「確かに!雅臣面白いこと言うな」



俺が言うことがツボだったのか、柊はケラケラと笑って俺の腕をバンバン叩いた。


……何か、普通に友達みたいだ。


とても自然で嬉しくなるのと同時に、いかに自分が今迄何も口に出さず心の中だけで会話していたのかが分かる。


一瞬、一人っ子という環境がそうさせたのかと疑う

が、そんなことは全然言い訳にならないと猛省した。



楓「あー……えらかった………何なんだあれ」


夕太「お、でんちゃんおかえり!できた?」



がら、と教室の扉を強く開けて蓮池が教室に戻ってきた。


己を偉かったと褒めて帰ってきた割に蓮池は浮かない顔をしている。追試の出来具合は大丈夫だったんだろうか。


これも蓮池に言ってみるか?と、精一杯悪印象にならないよう意識して尋ねてみる。



雅臣「じ、自分で自分の事褒めるくらいにはできたのか?」



俺の声は絶対聞こえてるはずなのに蓮池は無視で、前に見た時とは違うハイブランドの通学鞄を手に取ると、



楓「夕太くん行こ」



そのまま歩いて先に教室を出て行ってしまった。



___あ、あの野郎!!


俺が話しかけると必ず無視しやがって……!!


クラスメイトに話しかけられた時は普通に返すくせに、蓮池は必ず俺だけは無視するのだ。


なんでそこまで俺を嫌うのかが未だに分からない。



夕太「…あ!そうか!」



不思議に思う俺の隣で柊が思いついたように手を叩く。



夕太「雅臣、でんちゃんのえらいってそのえらいじゃないよ」


雅臣「ど、どういう事だ?」


夕太「えらかったって多分名古屋弁でこう、なんて言うんだ…疲れたとかしんどかったってこと!」



柊は〝えらい〟の違いを分かりやすく説明してくれた。


基本標準語のような名古屋で、そんな方言があるなんて全く知らなかった。



雅臣「……あいつ自分で自分を褒めてるのかと思った」


夕太「聞こえは一緒だもんな、あ、俺らも行こうぜ」


俺の肩を押す柊と一緒に蓮池の後を追いかけた。




__________________




5階から柊と2人で階段を降り、下駄箱で靴を変える途中に蓮池に追いついた。


ふと、念の為制服のポロシャツを変えてから買い出しに行けと桂樹先輩に忠告された事を思い出した。


……しまった。


俺はよりにもよってその着替えも持ってくるのを忘れたのだ。


前を歩く柊も蓮池もそのままスーパーに向かおうとしているが、一旦声をかけた方がいいだろうか。


いや…2人は本当は着替えを持っていて着替えるのを忘れているだけ、持っていないのは俺だけの可能性の方が高い。


1度家に取りに行くなんて言ったら、



『ビビりすぎだろ陰キャ、そのまま帰れよ』



なんて蓮池が言いかねない。


悩みながら下駄箱からピロティを潜り抜け、校門手前の噴水まで来ると背後から俺らを呼ぶ大きな声が響いた。



「1年!!お前ら今から買い出し?」


夕太「あ!ジュリオン先輩!!」



よく通る声の主は桂樹先輩だった。


さすが合唱部だけあるなと先輩を見上げれば、ピロティの2階の窓から身を乗り出してキャッチしろよと柊に向かって何かを投げた。



夕太「どわーー!!!!何これ!!牛乳!?」


桂樹「やるよ!!俺飲まねぇから!!」



太陽みたいに眩しい桂樹先輩は笑いながらを手を振るだけなのに実に爽やかだ。イケメンは投げる仕草までかっこいいのかと惚れ惚れする。



夕太「えー!!いらないよ!!」


桂樹「俺みたいに背が伸びるぞ!!」


夕太「ほんとかよー!!」



大声で桂樹先輩と話す柊がキャッチした紙パックの裏側についたストローを取ろうとした瞬間、なぜか蓮池がその手を思い切り叩き払った。




楓「こんなん飲んでもどうにもならねぇよ!!!」




その衝撃で紙パックの牛乳は地面に落ちて転がり、突然の激情に辺り一帯は静寂に包まれた。



___な、何だ、どうした……?



一体、何が蓮池の気に触ったというのだろうか。



いつもの理不尽でふてぶてしい蓮池とは違って、叫ぶ声は切実で立ち尽くす姿が何だか痛ましくも見える。


見上げれば桂樹先輩は何事だと眉をひそめて、俺も驚きのあまり呆然と立ち尽くすことしかできない。



___瞬間、空気が動く。




雅臣「なっ……!!」



きつく唇を噛み締め青ざめる蓮池を柊が足で強く蹴飛ばした。



夕太「……うるさいなでんちゃん」



またも蹴飛ばして、と俺が驚くも柊の声に怒っている様子はなく、普段通りのテンションだ。


柊は落ちた牛乳を拾い上げてストローを刺すと、不意をつかれてよろけた蓮池に飲めと押し付ける。



夕太「でんちゃんが牛乳飲みな。イライラカリカリして、カルシウムが足りてないんだろ」


楓「……いらないよ」



蓮池は自分で自分の腕を抱きしめて項垂れる。


その表情は苦渋に満ちていて、見たことのない蓮池の顔がとても気がかりだった。



夕太「ほら飲みなよ、骨太だからって気にせずも…」


楓「うるさいな!!」



何を気に入らないのか分からないまま、蓮池は走って先を行ってしまう。



桂樹「あ、お前ら服は!」


夕太「うわ!!忘れてた」



後輩に急に怒鳴られて気分を害してもいいはずなのに、桂樹先輩はあまり気にした様子もなく先程と変わらない大人の対応で話しかけてくれる。



桂樹「まじで1年って無敵というか度胸あるというか…ま、今の時間職員会議で教師はいないからぱっと買ってこいよー!!」



じゃあな、と桂樹先輩は手を挙げて行ってしまった。



夕太「行こ、雅臣」



いつもと何も変わらない柊に促され、俺と柊は小走りで蓮池を追いかけた。





読んでいただきありがとうございます。

ブクマや感想、評価も本当に嬉しいです!

いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪


ついに60話!

ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

まだまだ続きます!お楽しみに✨✨


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