57.【いざ!成績表開示!】
三木「皆、成績表返ってきたな?」
にっこりと笑う三木先輩に、その場にいる全員が何となく目を逸らす。
テスト結果に動揺しすぎて、危うく今日もサークルがある事を忘れそのまま帰るところだった。
〝今日のSSCはたこ焼きパーティーについて色々決めます〟
今朝柊から連絡が来た時は久しぶりに桂樹先輩と会える事に気持ちが高揚し、桂樹先輩のための歓迎会を楽しいものにしようと密かに張り切っていたのだ。
しかし、今の俺は正直たこ焼きどころではなく今すぐ家に帰って遅れを取り戻すために勉強したいのが本音だった。
たこ焼きパーティーの当日は参加するとしても、今日くらいは休んでいいんじゃないかとスマホを開いた。
が、俺よりも早く全員が参加すると連絡を入れていて休むに休めなくなってしまったのだ。
鬱屈した思いを抱えながら参加したのに、三木先輩の言葉に成績表のことなんて思い出したくないと俯いた。
三木「全員見せろ」
雅臣「え!?」
突然の命令に固まった。
___ま、まさか皆の前で!?
それとも三木先輩だけにか!?
どちらにせよ絶対に嫌で何が何でも見せたくない気持ちが勝つが、俺より先に梓蘭世が口を開く。
蘭世「合唱部でもないのになんで成績表開示だけ引き継ぐんだよ!!」
珍しく梓蘭世が三木先輩に反論してるのを見て、その調子で頼むからもっと嫌がってくれと思う。
夕太「成績表開示?」
梅生「合唱部の伝統でね、成績表を全員に見せるんだ。100位以内が嘘じゃないことの証明だね」
首を傾げる柊に優しい声で一条先輩が合唱部のルールを説明するが、ふざけるな、ここは合唱部じゃないぞ横暴だと俺は1人声を荒らげそうになる。
こんなルールもへったくれもないサークルで成績を皆の前で見せる必要性なんかどこにあるんだよ。
俺は絶対に見せないぞ、といつもより強い意志を持ち何か言われても立ち向かおうと殺気立つ。
三木「勉強会をやった意味のない成績だったら次回からやる意味がないだろう?」
桂樹「まぁなー…でも1年は初テストじゃん?」
しかし、三木先輩の言うことはもっともでいよいよ追い詰められる。
三木先輩の正論と、初テストで緊張して勉強会の成果が発揮しきれなかったかもしれないという桂樹先輩の配慮が今の俺にはどちらもキツかった。
……今回、俺はクラスで4位。
蓮池は最下位として、柊も多分真ん中位だろう。
過去問を貰い、更に割と付きっきりで対策までしてもらった俺達がこの成績なら、確かに教える先輩達にとっては時間の無駄だったわけで……。
過去問を貰えなくなるのは困るから勉強会は継続して欲しい。
しかし、結果を見せれば残念だが次回からの勉強会は確実になくなってしまうだろう。
ここで俺が上手い具合に断れば、このテスト結果を見せずに更には勉強会を今後も継続できたりしないだろうか。
プライバシーとか、三木先輩が納得する答えを早急に考えて伝えないと押し切られてしまう。
そんな俺の葛藤を知らない馬鹿の蓮池が呑気に、
楓「俺からいきまーす」
とドヤ顔で立ち上がり成績表をバンと三木先輩の前に叩きつけた。
…………は、蓮池の馬鹿野郎!!
阿呆!!!クソ野郎!!!
俺の必死な考えを全て台無しにしやがって!!
お前はいいよな、皆の前で散々な成績を見せたところで分かりきったことだ。
失うものは何もないしほとんど赤点なんだから恥も外聞もない。
俺だってお前みたいにとんでもない馬鹿ならこんなに悩みもしないし、プライドが傷つくこともないだろう。
僻みなのか羨ましいのか分からない感情が渦巻く中、柊がただでさえ大きな目をひん剥き蓮池の肩を掴んで激しく揺さぶった。
夕太「お、おおおお!!!!!!」
……な、何だ、突然どうしたんだ!?
何が起きたんだ!?
夕太「ちょ、……クラス26位!!でんちゃんが最下位じゃない!!!下に4人もいる!!初めてだよこんなの!」
万歳万歳と両手をあげてそこら中を駆け回って騒ぐ柊を見て、こいつ本当に今まで最下位しか取ったことがなかったのかと別の意味で驚き目を瞠る。
桂樹先輩と同じ戦法、そして担任のあの言い分から赤点の嵐だと思っていたがこいつに運が味方したのか……。
蘭世「数学と物理基礎以外全部50超えてんじゃん!!やっぱ脳みそ空だったから詰まりやすかったんだな」
梓蘭世は褒めてるのか貶してるのかわからないが、笑いながら蓮池のおかっぱ頭を掴んで揺らす。
かなり低い順位とはいえ、あの蓮池が最下位では無いことに全員が諸手を挙げて喜ぶ姿を眺めて俺だけ進退窮まった。
頭におがくずしか詰まっていないレベルで阿呆の蓮池が最下位でない、一応結果を残したとなるとクラス4位の俺がまるで努力しなかったみたいじゃないかと急に冷や汗が出てきた。
桂樹「これで追試は理数だけ、作戦通り」
三木「公式だけ覚えてしまえば理数科目の追試は楽勝だからな、いけるぞ」
勉強会開いて良かっただろと柊までドヤ顔で、蓮池を皮切りに俺以外の全員が成績表を見せる流れに傾いている。
三木先輩が机を丸に囲んで見せ合うぞと声をかけ、鬼みたいなことするなと青ざめているのは俺だけだった。
蘭世「しゃーなし、ほら」
次いで梓蘭世が、蓮池とは違うと先輩の威厳を見せつけるように成績表を堂々と開く。
___な、なななっ…!!!!
三木「クラス3位に学年11位…蘭世、学業を理由に活休してるんだからもう少し力入れろよ」
蘭世「絶対言うと思った」
1番にそれを手にした三木先輩に梓蘭世が拗ねたような声を出す。
……梓蘭世が馬鹿じゃない!?
梓蘭世って頭いいのか!?!?
開いた口が塞がらず顎が外れそうになりながら、回ってきた梓蘭世の成績表をつい力強く掴んで見入ってしまう。
申し訳ないが芸能人なんてバカか高学歴かの2択だと思っていて、特に梓蘭世の派手な風貌から勝手に勉強はできないだろうと決めつけていた。
で、でもこれはもしかして、もしかすると………俺より頭が良いのでは…………?
よくよく考えれば腐っても元合唱部、勉強会では馬鹿の蓮池に教えてやる余裕もあった。
しかも三木先輩の家の事務所に所属していて三木先輩と親しいとなれば、直接分からないところも教えて貰える、頭が悪くなりようがないじゃないか。
それにもう少し力を入れろってことは……梓蘭世が本気を出せば学年1桁の順位も取れるってことか!?
1人追い詰められていく俺の隣で一条先輩が静かに立ち上がる。
梅生「蘭世より先に出せば良かったな……」
そっと差し出された成績表はクラス順位が14位、学年67位と本人の見た目通りでほっとしたのも束の間、すかさず桂樹先輩が一条先輩の頭をガシガシと撫でて、嬉しそうな声を上げた。
桂樹「一条!!順位上がってんじゃん!!」
梅生「先輩がくれた過去問、今回的中で…」
皆の前で盛大に成績を褒められ照れているのか、一条先輩は頬を赤く染め俯きながら話す。
蘭世「梅ちゃん今回英語すごいんだぜ、96点、俺より高ぇの」
横で自分のことのように自慢げに話す梓蘭世にいつもならうんざりするが、成績が良いと知ってしまった以上もう何も言えない。
そして追い討ちのように一条先輩の得意科目が英語と知り、俺だって英語が得意なはずなのにと悔しくなった。
今回、俺は英語が87点……、90点にも満たない。
三木「じゃあ次、1年」
残りは俺と柊の2人で、2年が出した以上腹を括らないといけないのは分かってるがどうしても躊躇してしまう。
柊が先に成績表を出してくれれば少しでも俺の順位がよく見えるのに、と我ながら姑息な考えだと思うも、どうしても見せたくなかった。
一か八か、駄目元で言ってみるか?
雅臣「い、嫌です…」
声が震えながらも自分の意思を伝えるも、
楓「人の成績は散々見ておいて俺は嫌ですなんて良く言えたな」
嫌味に細められた目の蓮池に速攻鼻で笑われて、悔しくても何も言い返せない。
今回ばかりは蓮池の言い分が圧倒的に正しくて、人の成績表は見ておいて自分は見せないだなんてさすがに通用しないだろう。
見せたくないなら誰のも見なければ良かったとしゅんと眉を下げた。
蘭世「まあ…それは確かに」
人のは見ておいてな、と梓蘭世が蓮池に賛同するよう深く頷くとより何も言えなくなった。
桂樹「蓮池と違って何も心配ないって、雅臣は!ほら、遠慮してないで出来の良さを披露しろ!」
寄りにもよって桂樹先輩が立ち上がりわざわざ俺の後ろまできて出せと微笑んだ。
諦めて、二度と開きたくなかった成績表を皆の前で披露した。
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