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53.【三角関係】



蓮池は遅刻を悪びれもせず、堂々と守衛に校門を開けさせた。


半袖になって学ランに隠れていた体格の良さが目立つ蓮池は、誰が着てもダサい筈のポロシャツが異様に似合っていた。



楓「ありがとうございます」



一礼して歩く蓮池は相変わらず不遜な態度で、仕事かなんだか知らないが本当にそれが遅刻の理由かと疑いたくなる。


こいつ本当は仕事を理由にこれ幸いとわざと遅刻してきてるんじゃないかと思うが、守衛が門を閉めようとするのを見て俺も入れて下さいと慌てて中に入った。


急ぐ気配はまるでなく、ゆっくり歩く蓮池を追い抜いて下駄箱で上履きに履き替え、走って階段を駆け上がる。


5階に着いた時には既に息切れしていたが、一旦教室の前で息を整え扉を開けると、



小夜「お、藤城寝坊か?遅刻なんて珍しい」


雅臣「あ、は、はい……すみません……」



ギリギリ朝礼が終わるタイミングで無事席に着くことができた。


担任があまり怒らないのがラッキーだ。


ペンケースを出そうとリュックを開き、邪魔なので1番上にある弁当の入った保冷バックを机の横に掛けようと手にした瞬間、



小夜「そうだ、そろそろ席替えでもするか?完全に忘れてたわ」



衝撃的すぎる担任の言葉に、思わずガシャン……と手にした保冷バックごと床に落としてしまった。



___な、なんだって!?!?


……せ、席替え!?!?



動揺しながらも慌ててバッグを拾い、そのまま机の横のフックにかける。


初めての席替えにクラス中一気に盛り上がって大騒ぎだ。



小夜「1番前の奴もいい加減後ろ行きたいだろうが…ここはくじ引きな。4限俺の授業だからそこでやるぞー」



盛り上がる教室で、1人俺は俯いた。


何も今日そんなことしなくても……!!


席替えなんてしたら、俺はどこで昼飯を食えと言うんだ。


今日のためにせっかく昨日から時間をかけて、しかも遅刻してまで弁当を作ったんだぞ!


ど、どうすればいい………!?


急な展開に何1つ手立てが思いつかず、呆然とするしかなかった。




__________________





雅臣「…………」



ここは喜ぶ席だと、わかってはいる。


俺が当てたのは1番窓側の1番後ろ、実に日当たりも良く、入学式の時にこの席いいよなと密かに狙っていた席だった。



______それなのに、



夕太「でんちゃんより後ろが良かった」


楓「はあ?夕太くん俺が前だと散々見えないってうるさいのによく言うよ」


柊は1番前の真ん中を、蓮池はその斜め後ろの席を当て、元の席とそこまで変わらないあいつらの運の良さが羨ましくてしょうがない。



夕太「俺の方が前だったらでんちゃんのこと起こせないだろ!」


大声で柊が文句を言うと、蓮池の後ろの奴が任せろと声を上げる。


「柊!俺がその役担ってやるよ」


夕太「伊藤…!!任せたぞ!」


楓「寝ないよ、うるさいなほんと」



お前らいつも2人セットのくせに、何で自然と新しい席で簡単に馴染めるんだよ。


俺は新しい席になっても誰も声を掛けてこないというのに。


蓮池と柊は、俺の知らないうちにいつの間にすっかりクラスに溶け込んでいた。


その姿に取り残された気がして、奥歯をかみ締めてやり過ごす。


以前のオレならあの2人の煩さから解放されたこの席を喜んでいただろう。


……が、今の俺にはあまりにも不安要素が多すぎる。


まず、俺の昼飯はどうなるんだ。


今までは席が近かったから蓮池と柊が机を合わせるところに俺も椅子を移動させて一緒に食っていたが、席が離れた今どうしていいかわからない。


1番最初に柊が声をかけてくれた流れでそのまま席を一緒に昼飯を食べてきたが、別に3人仲睦まじく会話なんてしたこともない。


ただ柊と蓮池が仲良く話をしているのを俺が勝手に聞いていただけなのだ。


ちょっと前の俺だったら、柊が俺に声をかけて誘ってくれるのが当たり前だと思っていた。



〝柊が俺を1人で食べることを良しとしない〟



そう思っていた過去の自分はいかにおこがましかったのか。



〝うるさい2人と仕方なく俺が食べやっている〟



ずっとこう思っていた勘違いが本当に恥ずかしい。


席替えをして楽しそうに皆と話す2人を〝ぼっち〟の俺は眺めるしかできなくて、過去の自分の考えを恨む。


今クラスに全く溶け込めていないこの現状は俺が作り上げたものなのだ。


東京の時は当たり前に1人で食べていたが、もうあのメンタルは持ち合わせていない。


何も考えず過ごせたことはとても幸せだったが、これ以上、鈍感で何も気がつかない考えなしの痛い人間でいたくない。


誰かの必然になるために、頑張りたい。


そのためにまず〝コミュ障〟を撤回しようとせっかく弁当まで作ってきたんじゃないか。


この4限の間になんとか2人と昼飯が食べれるよう、自然な流れを考えよう。


始まった授業をよそ目に、とりあえずノートに関係図を書いてみる。


A. 柊は蓮池と弁当を食いたい。

B. 蓮池は柊と弁当を食いたいが、俺と食いたくない。

C. 俺は柊と弁当を食いたいが、蓮池と食いたくない。


………柊、人気だな。


じゃなくて、これだと俺が圧倒的に不利だ。


柊と蓮池は幼馴染で元々仲が良いのに、俺はそこまでの仲ではない。


そもそも、柊と友達のラインに立てているかどうかも怪しい。


もし蓮池が絶対に俺と飯を食うだなんて嫌だと言ったら、柊がどうするか取るかなんて考えるまでもない訳で……。


こ、これは俺が蓮池に頭を下げて、入れてくれとお願いしないといけないのか?



…………。



真剣に考えていると、急に眠気が襲ってくる。


名古屋の嫌な暑さは教室のクーラーでいい感じに涼しくて、日差しを避けるために引かれたカーテンの暗がりがまたいい感じに眠気を誘う。


大須から一転、脳を使いすぎで毎日フル回転で考え尽くして眠りが浅かった。


今朝も弁当作りバタついていて、……。



………。



……。



「…しろ、!」



……。


………………。




「藤城!!!!!!」


雅臣「は、はぃー!?!?」



がたん、と大きな音を立てて返事をすれば、クラス全員が起立をしていた。



小夜「……ったく、お前いつまで寝とんだ」



自分でもカエルが轢き殺されたみたいな声だったと思う。


余程おかしかったのかクラス全員がゲラゲラと笑っていて、礼をしたと同時に自分が信じられない気持ちでいっぱいだ。


こんなに授業中爆睡したのは初めてだ…。


しかも授業が終わっても誰も起こしてくれない、己の人望の無さに衝撃をうける。


昼休みになりクラスメイトはいつも通りのメンバーで飯を食うため机を寄せ合う奴もいれば、食堂に走る奴もいて一気に騒然となった。


見渡せば既にどこもグループが確立していて、俺はそんなことも今まで気がつかず柊の好意に甘えていたのかとまた落ち込む。


寝落ちする直前、何も柊に拘らなくても心機一転、弁当なんか席が近い奴と食えばいいのでは?とぼんやり考えていたが、隣の席の奴はとっくにいない。


前の席の奴らも別のグループに足を運んでいた。



……1人でなんて絶対に嫌だ。



やっぱり俺には柊しかいない。


柊と蓮池はいつも通り2人で机を合わせて弁当を食おうとしているのを見て、意を決して横のフックに掛けてあった弁当を取りそっちに向かう。


そして縋る思いで、



雅臣「……い、一緒にいいか?」



少し声が上擦りながらも、柊に声を掛けた。





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