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51.【ボッチで陰キャでコミュ障で】



『ぼっち 基準』


『陰キャ 陽キャ診断』


『コミュ障とは』



スマホの検索履歴の上3つがこれで埋められているのが本当にキツい。


あれから1人家に帰った俺は、調べた言葉を眺めながら自分に該当するかしないか1をつずつ確認していた。



〝コミュ障とは、コミュニケーション障害の略称で……〟



______そんなのは俺にだって分かる。



〝特徴として、他人との関わりを避ける傾向がある〟


……いや、俺は別に避けているわけではないよな?


なんだ当てはまらないじゃないかと一瞬安堵するが、次の項目を目にした瞬間、スマホを持つ手が震えた。



〝他人と会話が苦手である〟



こ、これは、少しだけ当てはまるかもと慌てるが、一度深呼吸をして整える。


たかが1項目当てはまっただけじゃないか。


しかし、画面をスクロールする指先が次第に冷たくなっていく。



〝人と話す事に自信がなく、他人と接する事が怖いと感じる〟



次いで書かれた文章に、動悸が止まらず額から嫌な感じの汗が出てきた。



〝相手の話をうまく汲み取り、言葉を返すことが難しい〟


〝話したいことをうまくまとめることができない〟


〝話始めにつっかえてしまうことがある〟



………………。



軽い目眩を覚え、このままいったら鬱なりかねない。


自意識過剰すぎか?と一旦スマホを閉じる。


再び深呼吸をして、先程心を落ち着けるために入れたコーヒーに口をつけるもとっくに冷めてしまっていた。


違う、俺はそんなんじゃない………。


そう言いたいのに言いきれない自分が憎い。


考えているようで本当に何も考えてこなかった自分が恥ずかしくて死にたくなる。


ひとりがけのソファに身を沈めて、後ろ暗さで縫い付けられたように動けなくなってしまった。


洗濯機の乾燥終了を教える音が奥から聞こえてくるが、それもどうでもいい。



___こんな時、普通は誰に相談するのだろう。



家族……いや、あんな奴なんかとここにはいない父親を思い浮かべて自嘲気味に笑う。


じゃあ友達とかに相談すればいいのかと考えても誰1人思い浮かばず、以前も同じ経験をしたのを思い出す。


蓮池に三木先輩、梓蘭世、挙句クラスメイトにまで指摘され、俺は人の顔を見すぎなんだろうかと考えた時があった。


不安になったその時も誰に相談すればいいのか思いつかなかったのだ。


今思えば何故あの時もっと深く掘り下げて考えなかったんだと膝の上に両手を置いて握りしめる。


またしても相談相手が、友達が思いつかない自分にショックを受けるが、それもそのはずだ。


東京で俺が友達だと思っていた奴らは友達でもなんでもない、ただのクラスメイトだったのだから。


何をどう勘違いしたらそんな風に思えていたのか。


いつから自分の都合の良いように考えを捻じ曲げ生きてきたのかと、どうしようもない自分に苛立った。


しかし冷静になって考えれば、俺に友達がいなくても困ることが何もなかったのが原因とも言える。


明らかに仲間外れにされたり、いじめられたこともなく、特別何か嫌なことをされたわけではない。


大した悩みがないから、誰にも何かを相談することもなく過ごしてこれたのだ。


母親の入院を隠れ蓑に毎日大変そうなフリをして、本当は平穏で何も考えない惰性だけで過ごす日々………。


自分の中に初めて芽生えた仄暗い感情はどうやっても打ち消すことができず頭を抱えた。


……いや、待て。


そもそも、俺が〝ぼっち〟かもしれないと気がつくタイミングがなんてなかったよな?


東京の学校で遠足や修学旅行、グループを組む必要のある行事で〝ぼっち〟になったことは一度だってなかった。


そんな俺が何をどうやって友達がいないことについて考え悩むんだよ。


俺がどこかに入れてくれと言わなくても、幼稚舎から持ち上がり組の奴や誰かがいつもメンバーの1人にしてくれていたじゃないか。



……でも、よく考えろ俺。


それも今までと同じで都合良く捉えていないかと自分に疑いをかけてみた。


あいつらは俺を率先して誘ってくれていた訳ではない。


そうなると仕方なくか、たまたまグループの人数合わせに俺がちょうどよかっただけかもしれない。


……も、もしかしてあいつらはどこにも属せない〝陰キャ〟で〝コミュ障〟の藤城雅臣を放置して、自分達が自由にグループを組ませてもらえなくなるのを恐れたんじゃないのか?


先生が〝ぼっち〟を放置するわけがないし、俺がどこにも入れなくて強制的に出席番号順のグループにさせられる可能性だってあったはずだ。


そうなるくらいなら藤城をどっかにぶち込んでしまえと予め入れてやってもいいグループを影で決めていたのかもしれない。


様々な可能性が頭をよぎり、愕然とする。


あれもこれもと今までの起きた出来事の全てに俺の想像が当てはまる気がして、ますますいたたまれなくなった。


過剰に反応しすぎかとも思うが、これまで考えなかったツケが急に回ってきたみたいにグルグルと思考が纏まらない。


………ただ、1つだけ分かることは。


蓮池が柊のように、梓蘭世が一条先輩がいいというように、どこにも俺じゃなきゃダメな理由なんて1つもないのだ。


俺でなくてもいい、他の誰でも良かったんだと今更ながら知る事実に、そんなのは嫌だと思った。


そこにいたからとか仕方なくとか、誰にも意味のない人間になんてなりたくない。



誰かの必然、………誰かの大切な存在でありたい。



どうしようもない思いを抱えながら、結局その日は寝返りばかりでほとんど眠れなかった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




次の日ほとんど完徹で朝を迎えた俺は、全く授業が見に入らないまま昼休みに突入した。


柊と蓮池と弁当を食いながら、今までの反省からまずコミュ障を改善するべく自然な会話の糸口を探るも、考えれば考えるほど難易度が上がっていく。



夕太「……なあ雅臣、トイレなら早く行けって」


雅臣「は?」



陰キャと思われたくない俺の無理に取り繕った顔を見て、柊がスっとフォークを教室の扉に向けて行けと言わんばかりに促した。



………なんでこいつは俺が真剣に考え込む度にトイレと勘違いするんだよ!



しかしここで怒ってはダメだとできる限り自然な笑みを浮かべ、そうじゃないと首を振ってやんわり否定した。


再び自然な会話を試みようとするも、一体何から話せばいいのか分からず口籠もってしまう。


コミュ障の特徴にあった話したいことが上手く纏まらない、という項目を思い出してまた落ち込む。



夕太「あ、でんちゃんそれちょうだい」


楓「嫌だ」



柊は今日も立派な蓮池のお重の弁当に入っている鯵の南蛮漬けを強請る。


毎日何種類ものおかずと握り飯に季節のデザートまで、色鮮やかにいっぱい3段のお重に詰められているが毎朝全部この量をあの品のいい婦人が作っているのだろうか。


相当骨が折れそうだと蓮池の口に次々運ばれるいなり寿司を横目に、……待てよ、これを聞けばいいんじゃないかと名案が浮かび上がる。



___が、しかし口を開こうとして慌てて噤んだ。



一旦落ち着け、相手はあの蓮池だぞ?


俺が1つ言う間に100返ってきそうで恐ろしい。


どうしたものかと考えているうちに、柊は嫌だと言った蓮池を無視して勝手に鯵の南蛮漬けに箸を伸ばした。



楓「……夕太くんほんとこれ好きだよね。じゃあ卵焼きと交換して」



お構いなしの柊に諦めてため息をついた蓮池が、間に海苔を挟んで綺麗に巻かれた黄色い卵焼きを指差した。



夕太「でんちゃんだし巻きあるじゃん、違うのじゃなくていいのかよ?」


楓「うん、夕太くんの家の卵焼きの方が甘くて美味い」



………俺は全くそのやり取りに入ることができず苦戦を強いられる。


いかにタイミングよくスムーズに、そしてさりげなく自然に会話を振ることができるか試みようとするうちに、柊と蓮池はもう違う会話に移っているのだ。



……そもそも、俺にも少し話しかけてくれたってよくないか?



一応一緒に飯を食ってるわけだし、そうしたら流れに乗れるのに……と不満が募るが、慌ててかぶりを振ってこの考えを取り消した。


ダメだ、それじゃあ今までと変わらず何も口にして言えなくなってしまう。


ため息をつきながら朝通りがけにあるコンビニで買った菓子パンを齧っていて、ふといいことを思いついた。


……俺も明日から弁当を作って持ってこればいいんじゃないか?


こいつらと毎日一緒に昼飯を食べているが、柊は必ず蓮池のおかずを毎回貰っている……というよりは勝手に奪っている。


大須でもこいつは俺の唐揚げを頂戴し、頬っぺをぱんぱんにハムスターみたいになって食べていた。


詰め込み癖があるのか今も蓮池の南蛮漬けを美味い美味いと、柊の頬は頬袋のように膨れ上がっている。


普段食べ物の話ばかりしている2人なので、きっと食べることが大好きなんだろう。


それならば俺がさも美味そうな弁当を作って持って来れば、食いしん坊の柊は必ず引っかかるはずだ。


それをきっかけに何とか会話の糸口を掴みたいと気合いが入る一方で、そうまでして会話しなければならないのか?と訴える自分がいることに気がつく。


馬鹿らしくてやってられない気持ちを、さっきより強くかぶりを振るうことでなかったことにした。




俺はコミュ障を撤回する為に頑張ると決めただろ!




よし、と1人静かに頷き、早速今日の帰りに新しい弁当箱を買いに行こうと胸に決めた。





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